6-2
僕が袋作りをしている中、レンカとサツナは紅葉と遊んでいた。
トントントン。
「紅葉を隠して」
小声で慌てて言うと、二人は慌てて布団の中に紅葉を隠す。
「はい」
「お客様です」
「あ、商業協会の……」
「契約書をお持ちしました」
「え、わざわざ持って来てくれたんですか? あ、どうぞ」
ちょっと紅葉の事が心配だけど、
「いやねぇ。こちらの在庫があったのでね。いかがでしょうと思いまして」
『凄い商売魂だわ。持ってこられたら持って帰れなんて、スラゼが言うのは至難の業よ』
なんか上で凄い事を言っている……。
『いい? 値切るのよ! 前に買った値段にするのよ!』
前に買った量より多い。在庫一斉処分みたいだ。
「で、こちらが契約書です。金貨32枚になりましたよ!」
「え? 増えてる!」
『金貨35枚ぐらいから吹っ掛けたようね』
商売人はやる事が凄いな……。
「値段はそれ以上どうにもなりませんので、後は他の内容です。他の街に回って歩くと言う事で、街ごとに500枚を納品して頂く事になっております。それを踏まえて、500枚ごとに金貨32枚です」
「え? 街ごと!?」
「はい。お手数ですが街に来た際には、商業協会に寄って下さい。500枚納品頂ければ、その場で一割を引いた金貨28枚と銀貨8枚をお支払いします」
「わかりました」
「で、このシートですが無料で贈呈します。頑張って下さい」
「え? くれるんですか?」
「勿論ですとも! 是非ともお使い下さい。何か入り用な時は何なりと。あ、シートはここで大丈夫ですか? 聞くところによるとリアカーで移動しているとか。リアカーまで運びますか?」
「あ、いえ。それには及びません。助かります。ありがとうございます」
僕は契約書にサインをして、契約成立した。
ではと商業協会の人が帰り、大量に置いていかれたシートの山を僕は見つめる。
「まさかタダなんて……」
『抱きかかえに出たわね』
「抱きかかえ?」
『錬金術師は、届け出さえ出せば自分で商売が出来るのよ。あなたが錬金術師として認められれば、商業協会を通す必要はないわ。知ってるでしょう? 大抵の人はクシとか小物よ。手数料なんて微々たるもの。でもスラゼが作る袋は、一回の取引で金貨3枚よ』
確かに。商業協会を通してもらうだけで、お金になるって事か。
『錬金術師でも商業協会を通して、取引をしている人はいるわ。そういう交渉が苦手な人とかね。あなたが錬金術師になったとしても、そのままごひいきにしてもらおうと思っているのよ』
「あ、なるほど」
「凄いシートの数だね……」
レンカがシートに近づいて言った。
「うん。二人も手伝ってもらうかな?」
「「うん」」
二人は元気に返事をした。二人には、袋を切ってもらう事にした。それを樹脂の糊で縁をくっつけ袋の完成だ。口にはビニールを細くした紐でキュッと縛れる様にした。後はマークを描くだけ。
でもこれが500枚となると、大変だ。
『このままだと、樹脂の糊が足りなくなるわね』
「そうだね」
この作業は、マークも描くし外でやった方がいいかな。森に少し入ってやろう。
「疲れたね。寝ようか」
「はーい」
二人は返事を返すと布団にもぐった。勿論、紅葉も一緒だ。
「ふう。今日は何か疲れた」
『そうだったわ。マークで加護を付ける時にスラゼの魔力を使っていると思うわ。普段自分で使ってないから疲労感があるのかもね』
「え? そういうものなの?」
『たぶんね。加護を扱える者に出会った事はないけどね』
そっか。前例がないんだもんな。でもそうかもしれない。
□
僕は黙々と袋にマークを描いていた。
ちょっと森に入ってシールドを張ってもらい、レンカとサツナはせっせとシートを切る。
これずっとしていると、飽きる作業だ。
「あぁ……まだ100枚しか終わってない」
『そうねぇ。他の作業もしていいんじゃない? 一日100枚っていうノルマにしてさ。ほらクシとか』
「そうなんだけど。これで、街を回るの遅くなるから一年で戻れないんじゃない?」
『指定されてないんだから一年経ったところで切り上げれば? 仕方ないじゃない。サインしちゃったんだもの。というか、これって……』
「え? 何?」
『すべてのってなっているけど大丈夫?』
「この領土だよね?」
『このすべてって国にある街って事だと思うけど……』
「え? そうなの!?」
『冒険者協会も商業協会も国全体にあるのよ』
「マジか……」
『やっちゃったわね~。一応言うと、あなたがその間に錬金術師になったとしても、500枚のは商業協会を通さないといけないから商業協会はウハウハね』
「それはいいけど、何年かかるのそれ……」
『さあ? 行った街はチェックしておかないとわからなくなりそうね』
「そうするよ」
それから数日かけて何とか500枚出来上がった。
『うんうん。ちゃんと加護はついているわ。それとレベルアップおめでとう』
******************************
名前:スラゼ
種族:人間
レベル:11
HP:28/28
MP:241/612
力:5
素早さ:26
魔力:401
妖精ミミミラスの加護
【オウギモンガ紅葉の加護】
******************************
僕のステータスだ。力は何も変わってないな。MPと魔力が凄く増えている。
『自分でも魔力を使っているからレベルアップで、MPも魔力も上がったみたいね』
「あまり実感がないけど、レベル上がったんだ」
『まあ戦闘はしてないからね』
さて袋を持って商業協会に行くかな。しかし袋500枚って結構重い。そうだ!
ちょっと大きめにシートを切り、内側にマークを描いた。
「ねえ。これどういう効果ついているかな?」
『どれどれ。なるほどね。チェック』
******************************
ふろしき【スラゼ専用】
製作者:スラゼ【加護:Eランク】
耐久度:100%
【ミミミラスの加護:重量半減/強度強化】
******************************
やったぁ。重さが半減されている。
「あ、加護のランクが上がっている」
『袋500枚の効果じゃない?』
「そっか。やれば上がるっていいね」
僕は、袋500枚をシートの風呂敷に包んだ。
道具をしまいリアカーを引いて森から出て、商業協会に袋を持って行った。
「これはスラゼさん。ご苦労様です」
「おや、シートの風呂敷ですか」
「まあ。風呂敷というか切っただけですけど」
「こ、これも売り物になりませんかね?」
「え!?」
「これなら切るだけでしょう?」
勘弁してほしい。これ以上はこなせない!!
「ご、ごめんなさい。魔力が足りなくなるので無理です」
「そうですか。それは残念です」
う、嘘をついてしまった。でもそんなにこなせないから。
「はぁ……」
「お疲れですね。期限はないので自分のペースでいいんですよ。もう次に行かれるのですか?」
「今日は泊まって明日出発します」
「そうですか。ではごゆっくりお休みください」
お金を受け取り、宿屋に戻った。
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