6-1 もう一つの仕事を模索した結果

 「あったぁ!」


 あれよとラスが指差したので、僕はリアカーを引っ張って走った。

 起きた僕達は、朝食も早々に探して数時間、森の奥にやっとナテコロの木を見つけた。

 木の前に止まると、二人がリアカーから降りて木を見上げる。


 「大きいね」


 「うん。大きい」


 二人が大きいと見上げているのは、木ではなく実だ。思っていたのと違って、白くて大きい。


 『あれがナテコロの実よ。直径20センチぐらいが標準よ』


 「20センチ……」


 「ねえどうやってとるの?」


 レンカが聞く。

 まあラスに浮遊を掛けてもらってかな。


 「ねえ、僕達に浮遊掛けてもらっていい?」


 『そうね。それが一番手っ取り早いわね。フライ』


 「ちょ……二人に説明してないんだけど」


 「きゃ!」


 「わー」


 レンカは驚いたものの、サツナが意外に喜んでいる。


 『そうだったわね。でも大丈夫そうね』


 「だね。ラスにお願いして浮かしてもらったから気を付けて実の所まで行こう」


 「「はーい」」


 二人は嬉しそうに返事を返す。楽しいらしい。

 それで、二人が実を掴むと僕のナイフで切ってやって下に運ぶ。これを50個分やった。依頼が50個だったからだ。

 山になった……。


 「これ持って帰るの大変だなぁ」


 『そうね。このままだと劣化しちゃうわね。そうだわ! シートで袋を複数作ってもらえないからしら?』


 「いいけど?」


 『さあ、それにペンで私のマークを描くのよ』


 作り終えるとラスにそう言われた。


 「え? なんで?」


 『ちゃんと思いを込めるのよ。劣化しませんようにって。私がやっちゃうと完璧すぎるのよ』


 「はぁ……」


 なんだよその、完璧すぎるって。僕のは不完全って事じゃないか……。まあいいけど。

 木を彫る訳ではないけど、レンズを覗いてペンで描いた。


 「これでいい?」


 『どれどれ。うん。OKよ。見てみて。チェック』


******************************

 保存袋

 製作者:スラゼ【加護:Fランク】

 耐久度:100%

 【ミミミラスの加護:腐敗速度低下】

******************************


 「あ、腐敗速度低下ってついてる。これって腐りづらいって事?」


 『そうよ。私がやると腐らなくなるの。加護が強すぎちゃうのよ。あなた達が使うならいいけど、人に渡したり見せたりするならこれぐらいがいいわ』


 なるほどね。


 『本来は、錬金術でやるんだけど、スラゼの場合は能力って事ね』


 「僕の能力!?」


 『そうよ。大抵の召喚師はここまで出来ないわ。つまり優秀な召喚師って事ね。きっとやっているうちに加護のランクも上がるかもよ。さあ、他の袋にも描いて! で、一つだけは私が加護をかけるから』


 「うん。わかった!」


 僕は一つだけ残して袋にマークを描いていった。


 『私のはこうなっているわ。チェック』


********************************

 保存袋【容量:10個】

 制限:スラゼ/レンカ/サツナ

 耐久度:100%

 【ミミミラスの加護:容量指定/腐敗保護/重量軽減/シールド保護】

********************************


 腐敗保護って腐敗しないって事なんだよね? 確かに僕のより凄い。って、容量指定? 10個までって事?


 「これ10個までしか入れられないの?」


 『そうよ。但し大きさや重さは関係ないわ。10個入りの袋が5個ならカウントは5個』


 「へえ。それはそれで凄いね。あ、じゃちょっと多めにとっておこうか」


 「わーい。とる」


 レンカが喜んだ。

 僕らは袋が余っていた分の実をとった。



 「すみません。依頼のモノを持ってきました」


 「おや、ご苦労さん」


 僕が3袋、レンカとサツナが1袋ずつ持って来て、カウンターの上に乗せた。1袋10個のナテコロの実が入っている。


 「おやこれは、ほぼ採れたてじゃないか!」


 ナテコロの実を見た受付の人が驚いた。


 「あの、その袋は返してほしいかな」


 「では移し替えますね。少しお待ちください」


 って奥で移し替えているようだ。


 「君! 妖精の加護持ちでハンドメイド製作者だったね! これどうやったの? 妖精の加護がついているじゃないか!」


 「え? なんで……あ、鑑定したのか。それに入っているマークを描くと、ちょっとだけ加護がつくようなんです。僕の魔法の様なものらしいんですけど……も、問題ありました?」


 こういうのは、違反なんだろうか?


 「マークだけでか!! だったらお願いがある! マーク入りの袋の注文をハンドメイド部に発注するので受けてもらえないだろうか?」


 「え? そんな事も出来るんですか?」


 「あぁ。発注の場合は買い取りだ。ハンドメイド部の手数料しか引かれない。どうだ?」


 「えっと……ダメではないんですけど、僕チラシを配り歩いていて街を転々とするんですけど」


 うん? とした後に壁に貼ってあるチラシに気がついた。


 「これか! では、500枚お願い出来ないか?」


 「500!? あ、そのシートでですか?」


 「そうか。袋の種類か。そうだな。あるならこれで。出来そうか?」


 「はい。まあ……。でもすぐには」


 「勿論。すぐにとは言わない。発注を掛けるから宜しく」


 「あ、はい」


 「では、これが今回の分」


 「ありがとうございます」


 討伐しない採取なので、貰えるのは少ない。ランクEのだし。でも宿代の足しにはなる。それに、袋を引き取ってくれるって言うし作ってよかった。


 「ラスのお蔭で収入アップだよ」


 『あら、自分の能力よ。加護をつけれる召喚師にお目にかかったのは初めてよ』


 「そうなんだ」


 今日は宿をとり、僕だけ商業協会に出向いた。まだ依頼来てないかもしれないけど、宿に泊まっていると伝えようと思う。


 「いやぁ、スラゼさん。驚きましたよ」


 入って目があった途端、そう言われた。


 「ミミミラス保存袋500枚注文が来てるよ」


 「ミミミラス保存袋……」


 勝手に袋の名前が決まってるんだけど?


 「これが契約書ね。ちゃんと読んで契約してね。金額とか不服なら交渉するから」


 「え? 契約書?」


 「注文は、必ず引き取ってもらえるものだから契約を仲介してるんだ。特段仲介料は取ってはいないよ。いつも通り一割引かれて、お金が入ると思ってくれればいい」


 「あ、はい」


 「え? 合計で金貨25枚!?」


 「足りないかい? よく考えてね。たぶんこれからも注文が来ると思うから、これが君の基本の売値になる」


 「そう言われても相場も知らないし」


 「そうだねぇ。向こうから言われたのなら吹っ掛けてもいいかもね」


 吹っ掛ける? そう言われてもわからないんだけど……。


 「一応、金貨30枚ぐらいにしておくかい?」


 「え!? それ通るんですか?」


 「やってみないとわからないが」


 『そうしなさいよ。商業協会も多くなれば多く貰えるから上手く交渉してくれるわよ』


 「では、お願いします。僕、ほくほく亭に泊まってますので」


 「わかりました。任せて下さい」


 「はい……」


 大変な事になった。これ冒険者より実入りがいい。


 「でも袋があんなに高いものだったとは」


 『本来は錬金術で作るのよ。その場合、袋の他に材料もいるし時間もかかる。錬金術は、誰でも出来るけど才能の一つだから良し悪しがあるの。良品だったのでしょうね』


 「そうなんだ……」


 『ねえ、物は相談なんだけど。チラシ配達が終わったら錬金術師にならない?』


 「え? 冒険者になってお兄ちゃんを探すのは?」


 『それは一つの手段でしょ? 冒険者よりいいと思うの考えて見て』


 「うん……」


 錬金術師か……。

 冒険者よりはいいかもしれない。

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