ひしもち すめし



「ねえねえ、落としたよ」

「お、悪い」

「ひしもち」

「持ち歩かねえよ! 持ち歩かねえよそんなもん! 菱餅所持して歩かねえよ! モチだけに、なんでもねえよ! うるせえよ!」

「でも落ちたよきみのところから、ぽろって」

「俺のどこから落ちたんだよ!」

「くるぶし」

「そんなところに菱餅収納して歩いてる人間いねえだろ!」

「あ、じゃあうなじ、うなじで」

「うなじでこんなん菱餅ぽろっと落ちてきたら怖いだろっつってんだ! 俺を人間から遠ざけようとするな!」

「ひしもちだけに?」

「掛かってねえんだよなんにもよお! もういいわ!」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「ねえねえ、落としたよ」

「今度は何だよ」

「すめし」

「持ち歩きに難がありすぎるだろ! ていうか湯気立ててるむき出しの白米じゃねえか! 熱くねえのかよ!」

「がまんしてる」

「こんなところでてめえの皮膚の耐久性を計るんじゃねえよ!」

「さあ、落としたからには。おれいに一割ちょうだいね」

「十割持ってけよ! いらねえよそんな得体の知れない酢飯。つかなんで酢飯なんだよ。その白米と調理酢はどこでドッキングを果たしたんだよ!」

「きみの学生カバンの中、かな」

「俺の鞄が大惨事じゃねえか! もう一生たぶんどっかで酢飯の匂いが抜けねえよ! ふとしたときに香ってくるよ!」

「ごしゅうしょうさま。でもお礼に一割ちょうだいね」

「十割持ってけっつってんだよ! そんな学生鞄でかき混ぜられた得体の知れない酢飯でよけりゃよぉ!」

「じゃあ、二割で」

「十割でいいっつってんだろ! もういいわ!!」



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