魔法の契りで幸せを

平河廣海

第一章 胎動

第零話 胎動

 月明かりに照らされた庭を、わたしは歩いている。

 他に光を出すものは、何もない。

 ……いや。

 もう一つあった。

 それは、わたしの懐にしまっている、一つの勾玉。

 あの人と再び出会うであろう、運命の子のために、無くてはならないもの。

 中にあふれている、ある力のためか、それは光り輝く。


 そんな道具を持っているので、人々からは、神や、その使いとでも思われているのだろう。わたしは、一目置かれるようになった。

 現に、わたしは巫女になった。

 わたしは、暗い夜道を照らす光のように、人々を導くようになった。

 そうするしかなかった。

 運命の子のためにも、あの人のためにも。


 ……あれから十年が過ぎた。

 混乱の最中だったが、わたしは夫と結ばれ、娘も生まれた。

 落ち着いてきたころから、わたしは再びあの人に逢うことをあきらめきれず、形見の勾玉にすがるようになった。

 誰にも見られぬよう、神社の本殿の裏にある、宝物殿の中で。


 今日も、いつもと同じように、誰にも見られないように、夫や娘が寝付いた後の、深夜に来ていた。

 扉を開け、中に入ると、懐から勾玉を取り出す。

 淡い青色で輝いている。


「コネクト・トゥ・ヤサコニ・イオツミスマル」


 そう唱えると、体が何かにつながった感覚がした。


「ゴー・イン・ヤサコニ・イオツミスマル」


 次の瞬間、勾玉から力があふれて、視界が真っ白になる。

 瞬きすると、そこはもう、宝物殿の中ではなかった。

 暗いのに明るい、地面がないのにその場に立っている、不思議な空間。

 勾玉の中の世界とでもいえるような場所だ。


 すると、勾玉の中にいるといつも感じる、気分の高まりを感じる。

 負の感情が渦巻いて、何もかも破壊してしまいたくなる。

 二十五になった今でも、心の成長が追い付いていないためだ。

 わたしが最も得意とする、全てを闇に染める、漆黒の力。

 勾玉の力もあり、いつもこのようになってしまう。

 しかし、深呼吸をすると、いくらか落ち着く。

 意識すれば、道具を使わなくとも、ある程度制御できるようになっていた。


 あの人の言葉を借りるならば、その力は、「魔力」。

 勾玉の力を引き出したり、わたしが不思議な術、「魔法」を使うのに、必要な力。

 勾玉の力も、魔法の一種といえる。

 その魔法を使って、人々を導いてきた。

 これらを使えば、もしかしたら、運命の子や、あの人を支えたり、会えたりするのかもしれない。


「オラクル」


 勾玉の中では、いつもこれを唱える。

 それも、わたしが「巫女オラクル」であることを証明することになる、あの人も使えなかった魔法。

 未来が見え、神託だと考えた人もいるという。

 この「オラクル」で、人々を導く方向性を決め、他の魔法で、それを実現する。

 だからこそ、人々に一目置かれるようになった。

 そして、あの時も……。

 ……やめよう。

 気が滅入るだけだ。

 もう、どうしようもないのだから。


 それでもあきらめきれないから、この勾玉にすがったのだが。

 その呪文を唱えると同時に、体の中から、あふれんばかりの力が巻き起こり、様々な映像が見えてきた。

 先日、ついに見つけたその子を見守る。

 あの時は、天にも昇る心地だった。

 でも、すぐにそんな気持ちは霧散した。

 残ったのは、後悔、そして、罪の意識。


 あの人も、わたしと同じくらい、いや、それ以上だろう。

 贖罪のためにも、「オラクル」で見ながら、何かできないか模索している。

 彼女と、あの人、そして、その大切な人たちのために。

 ……あの魔法について、伝えなければならないことがあるのだから。

 さて、今日の様子はどうだろうか?

 不安を抱えながら、その光景を見た。

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