第76話 また元通り

「え·····?」

「よ、よぉ·····」


勢いよく扉を開けたはいいが、その後の対応に困ってしまった。

目が合うと、気まずい。


「ど、どうしてユウキが·····」


美月はすごく困惑していた。

向こうも顔を合わせてこないので、変な空気になる。


「まぁ·····、なんだ」


まずい、言葉が全然出てこない。

緊張で頭が真っ白だ。


「何?」

「·····」

「·····」


会話をしようにも、続かない。

同じ空間にいるだけで精一杯だ。


(覚悟を決めろ、男だろ!)


そもそもは俺が自分からここに来たんだ。

気まずい空気なんてぶっ壊してやる。


「俺は·····」


決めたんだろ? 自分の気持ちは正直に伝えるって。


「お前と、もう一度友達になりたい」


あの日と同じ様に。

俺の思い出には、いつも美月が居るんだ。

これからも。


「·····ずるい」


美月が目の前でポロポロと泣き出す。


「今度は私から言おうと思ってたのに·····」


初めて友達になった日も、ユウキからだった。

あの日も私は泣いていた。

あの時は、怖くて泣いた。

でも今日は違う。


「嬉しい·····」


もう戻れないんじゃないか、心の底では諦めていた部分があった。


「そんなにか·····?」

「そんなにだよ! 無理だと思ってたから」

「俺たちはずっと友達だって言ったよな」


小さい頃に、2人で誓った。

「絶対」という言葉の元に。


「絶対って言ったんだ」


ユウキの「絶対」という言葉には、強い気持ちが込められている。

たとえ何かを犠牲にしても、成し遂げる。

ただの口約束でも守る。


「そうだよね、私たちはずっと友達」

「絶対な」

「うん!」


変わらない友情をここに誓った。

ユウキは、廊下に出てホッと一息ついた。


「はぁ、疲れた·····」


急に疲れがどっと押し寄せる。

思わず座り込んでしまう。


「これで良かったんだよな」


誰に聞くわけでもなく、1人でぽつんと呟いた。

この選択が、美月にとっても、自分にとってもいい選択かは分からない。

それはこれから証明していく。


「そんな所に座ってるのは誰?」

「え?」


そこに立っていたのは、三橋。

こいつも一部始終を知っている。


「今、時間平気?」

「お前もかよ」


当然のように、俺は三橋の部屋に連れてこられた。


「平気? ユウキ」

「俺は全然平気だけど」

「そう、ならいいけど」


多分、こいつは俺に気を使ってくれている。

メンタルケアとか、その辺の類だ。


「失恋って、する方とされる方も大変なんだよ」

「よくわかってるな」

「·····殺すよ?」


本当に殺されそうな目つきだったので、これ以上はやめておいた。

しかもここはアウェーだからな。


「だからユウキが、あんまり気にし過ぎてなきゃいいなって思って」

「お前って奴は、本当に優しいな」


ギャルから変わって本当に良かったと思う。


「話は終わったから、もう行っても良いよ」

「おう、俺はもう少し寝てくるわ」


まだ、多少の熱っぽさは否めない。

帰って休むことにした。


「じゃあ、ありがと·····」

「御影じゃないか」

「·····あ」


目の前には筋骨隆々の大男。

まずいな、殺されちゃうな。


「先生、御影君は私に落し物を届けてくれただけです」

「ほ、本当か?」


ナイス、三橋。

俺はお前が大好きだぞ。


「今回はそれでいいが、もうそろそろ時間だぞ」

「なんのですか?」

「今日からは民泊だろうが」

「え」


タイミング最悪。

小倉と2人になったららしい色々と思い出してしまう。


「先生、僕にホテルで大丈夫です」

「お前に選択肢は無い、さっさと準備しろ!」

「はぁい!」


こうして無事に、俺は仲直りができた。


















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