第74話 親友として

どれくらい時間が経っただろうか。

結構な距離を走った気がする。


「·····逃げちゃった」


広がる海に、一人思いを馳せる。

海に雨が降りつける。


「私は酷いや、ユウキを困らせてばっかりだし」


今日だってそうだ。

この修学旅行が最悪な思い出になるとしたら、私のせいだ。


「追い続けるのもこれで終わりか·····」


美月の初恋は、小学校3年生の頃から続いていた。

いつもユウキの隣で、横顔を見ているだけだった。


「寂しいな·····」


当たり前が終わる時はいつも突然。

もう元通りにはなれない。


「雨が強くなってきた·····」


それでも美月は砂浜から動きたくなかった。

いっそ、このまま消えてしまいたい。

そう思った。


「なーに、馬鹿なこと考えてんのよ」

「明日香ちゃん·····」

「はぁ、やっと見つけた、後をつけるのも一苦労よ」


肩で息をしながら小森が現れた。

その姿に、私は少しホッとしてしまった。


「話なら聞いたげるわよ」

「別に良いよ」

「あんたがそう言うなら良いけどさ、ちゃんと消化しきれたの?」


出来るわけない。

ずっとずっと好きだった相手だ。

そう簡単に忘れられるわけがない。


「·····ダメだったよ、私振られちゃった」

「知ってるよ」

「私、本気で頑張ったの·····」

「わかってるよ」


その声は美月を包み込むように、暖かった。


「もう終わりだと思うと、私は·····」

「それはきっとユウキもそう思ってるよ」


このまま友達ですら無くなるなんて、嫌だ。

それは両者の考えだ。


「美月は、これからユウキとどうしたいの?」

「·····」


これからのユウキの未来に、私は必要ない。

冷たい現実が突き刺さる。


「私にはもうわかんない·····」


長年積み上げてきた物が、全て壊れてしまったようで。


「私は美月の心に聞いてるの」

「私の心·····?」


目をつぶって思い出してみる。

今までの思い出には、必ずユウキが居た。

隣で屈託のない笑顔を浮かべている。


「私のこれからの思い出に、ユウキがいて欲しい」


これからは想い人ではなく、一人の親友として。


「ユウキだけ?」

「も、もちろん、明日香ちゃんも小倉ちゃんも·····」

「そのちゃん付けやめて、距離を感じるから」


小森が隣で口を挟む。

その顔は安心しているようだった。


「だいぶびしょ濡れだし、時間過ぎちゃったね」

「こりゃ大騒ぎしてるんじゃない?」


時間を30分以上オーバーしている。


「早く戻ろ!」


普段通りの明るい表情に戻っていた。
















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