第72話 それぞれの想い

「雲行きが怪しいぞー」


水族館を出て、国際通りを歩いていた5人。

鉛色の雲が広がってきている。


「こりゃ降るぞ」

「でもまだ1時間もあるわ」


二日目以降は、民泊の為に、時間がきっちり決まっている。


「どっかで時間潰しましょ」

「あ、あの! ちょっといい?」


美月が全員を止める。


「少し、ユウキと行きたい所があって·····」

「これは·····」


勘の良い小森はもう気づいている。

とうとうビックイベントが来た。


「い、行ってきなよ、私たちはどっか行ってるからさ」

「俺の意思は?」

「そんなの無い」


ユウキは渋々ながらついて行った。

数分、会話は無かった。


「美月、そろそろ教えてくれよ、どこ行くんだ?」

「·····もうすぐ着くから」


しばらく上がった所に、あったのは展望台。

海が一望出来る、景色の良い場所だった。


「すげぇ綺麗だな、海」

「そうだね」


普段とは全く違って、しおらしい表情の美月。


「ここに来て、どうするつもりなんだ?」

「わ、私は·····」


彼女の本気の目に、俺は適当にここに来たことを後悔していた。


「──ユウキが好き」


なんの混じりも無い純粋な言葉。

真っ直ぐな視線が、美月の気持ちを表していた。


「え、えっと·····」


突然の出来事に頭が回らない。

そんなことはありえないと、勝手に決めつけていたからだろう。


「ずっと、ずっと好きだった」

「·····」


俺は全然気づかなかった。

ずっと友達として接してきたからだろうか、気持ちの整理がつかない。


「·····答えを聞かせて」


目の前の事象に目を逸らすことは出来ない。

美月は俺の心に、強く存在している。

いつも一番近いところで、声を掛け合った。


(俺はどうしたら良いんだ·····?)


ずっと覚悟はしていたはずだった。

いつかこんな選択を迫られる日が来ると。

いざ、目の当たりにするとキツい。


(確かに美月の事は好きだ、でもそれは·····)


友達として、親友としての好きだ。

今のユウキが一番、心に想っているのは──だ。


「·····ごめん」


雨が強く降り出した。

全てを洗い流すかのように。


「そう、だよね·····」

「·····」


彼女は涙を流していた。

傷つけたのは俺だ。


「ごめんね、少し一人になりたい·····」

「·····」


背を向けて走っていく彼女に、声にかけることなんて俺には出来なかった。

俺は最低な奴で、遠ざかって行く背中に少しホッとしていた。


「·····俺は最低だ」


いつから好いてくれてたのだろう。

長い間、辛い思いをさせてたのかもしれない。


「なんで気づいてやれなかったんだよ!」


いくら地面に頭をぶつけようと、事実は変わらない。


「たくさん一緒にいたのに·····」


ユウキの思い出の中には、いつも隣で美月が笑っていた。

もう戻れない──。


「何が正解だったんだ? 誰か教えてくれよ·····」


今にも消えそうな声で、ユウキは呟いた。

































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