第56話 そろそろ退学になるんじゃないか?

俺は凛を惚れさせるべく、彼女の教室を訪れていた。


「あのー、古川さん居ますか?」

「僕に何か用かい?」

「ちょっと来い」

「あ、あの·····」


強引に手を引っ張って連れていく。

視線を集めている感じがするが、仕方がないんだ。


「さぁ、こっちだ!」


いつかの空き教室へと入った。

ここなら誰の水も入らずに話せる。


「ちょ、ちょっと強引すぎるかな·····」

「おまっ、そんな格好で外出てくるなよ」


凛は、フリフリのスカートのメイド姿だった。

顔を赤らめる彼女は、可愛かった。

メイド喫茶とは、後で絶対に行かなければならん。


「お前のこと、色々聞いちゃったぞ」

「ふーん、それで?」

「演技じゃなく、本当に惚れさせてやるよ」

「んん? なんて言った?」

「俺がお前を惚れさせてやるよ」


精一杯のイケボでカッコつけて言ったが、思い切り笑われてしまった。


「はははっ、何それ」

「な、何がおかしいんだよ」


言った後に、恥ずかしくなってきた。


「僕はとっくに君に惚れてるよ」


凛は、俺の耳元で囁いてきた。

ドキッとして、脈が早くなる。


「そ、そ、そ、その手には乗らねえよ」

「汗凄いね、顔も赤いし」

「·····」


ごめんなさい、中野くん。

僕はここで敗れるかもしれません。

ダメだ! 思い出せ、中野のあの顔を。


「そ、そんで、その変な噂はほんとなのか?」

「本当って言ったら?」

「てめぇは最低だよ」


あー、これは本当の奴だ。

さすがに怒るよ?

別にさぁ、中野を疑っていたわけじゃないよ。

信じたかっただけだ。


「お前のせいで、被害者が続出してるんだぞ」

「騙される方が悪いんでしょ?」

「は? んなわけねぇだろ」


いきなり空気が変わった。

凛の目が鋭くなった。


「お前がその見た目を活かして、男をたぶらかしてるのが悪いんだ!」

「それって僕を褒めてる?」

「半分だけな、後の半分は怒ってる」


こいつの場合、可愛いのが悪いと思う。

別に、可愛くない子に声かけられても無視するし。


「だから俺で終止符を打つ」

「やってみれば? 僕を惚れさせるのは大変だよ」

「·····やっぱり嘘じゃねぇか」


ピュアな心を弄んだ罪は重いぞ。

絶対に許さねぇ。


「俺と文化祭デートしようぜ」

「僕の予定は?」

「そんなこと知るか! 俺は予定をキャンセルしてんだぞ」


嘘である。

予定なんて元々入っていない。


「はぁ、なら仕方ないかとはならないよ」

「え?」


そして彼女は大声で叫んだ。


「誰かー、助けてぇ!」

「ば、バカ! 黙れ」


俺が急いで彼女の口を塞ぐも遅かった。

ていうか、傷口が広がった。


「古川、どうした!」

「御影君が·····」

「またお前か!」


今の状況見られれば、勘違いされてと仕方がない。

俺が彼女の口を抑えながら、押し倒している状況だからだ。


「事故です!」

「事故でこんな体勢になるか! バカヤロー!」

「すいませんでしたぁ!」


俺の決死の土下座のおかげで、職員室幽閉は免れた。

その代わり、クラスの屋台からずっと出られなくなった。


「おい! 絶対に惚れさせてみせるからな」

「何を言ってるんだ?」


彼女は笑って舌を出した。

俺はすっごくムカついた。


「はぁ、うぜぇ」


なんか罪を重ねすぎて、退学になるんじゃないか?

だんだんと心配になってきた。


「男代表として、あの女は許さん」








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