第54話 遂にモテ期到来

「さぁさぁ、美味しいタコさんだよ!」


文化祭、3日前となりリハーサルが行われていた。

在校生だけで店を回る。

ちなみに俺たちの店名は美味しいタコさんだ。


「さすがに混むなぁ」


もう結構な列になっている。


「美月、頑張れよ」

「うん! たっくさん焼くよ」


俺が一つ気がかりなのは、こいつが頑張りすぎている事だ。

腕とか油飛びで火傷しまくってる。


「無理しすぎんなよ」

「分かってるよ」

「ならいいけ·····」


誰だ? 凄い勢いで腕を引っ張られている。


「誰だよ、俺をどこに連れていくんだよ!」

「·····内緒」


抵抗しようとしても無駄だった。

こいつは力が強すぎる。

空き教室へと連れてこられた。


「で、お前は誰だ?」

「酷いな女の子に向かって」

「女の子!?」


こいつの見た目は可愛い男の子だ。

髪はショートカットで、身長が高い。

しかも声が女子にしては低い。


「僕の事は知らないか·····」

「見た事も無い」

「僕は、ずっと君の事を見ていたのにね」

「怖ぇよ」


俺は見た事も無い女に、見られていたという事か。

気味が悪い。


「僕の名前は、古川凛、よろしくね」

「俺の名前は·····」

「御影ユウキ、身長は180.5cm、体重は65.2kg」

「怖ぇよ」


俺よりも俺のことを知ってるじゃねぇか。

身長と体重の小数点以下の数字とか知らないわ。


「──僕は君の事が大好きなんだ」

「·····まじで?」

『ガタッ』


物音が聞こえたが、それどころでは無い。

俺の心臓がバクバクと言ってる。


「嬉しいけど·····」


お互いに、というか俺が相手のことを知らなすぎる。


「それはこれから知っていけば良いんだよ」

「心読まれた?」


ますます読めん女だ。

気味が悪すぎる。


「·····悲しいな」

「じょ、冗談だよ」


なんで読まれてんの?

そんなに表情に出てるのか。


「えーと、古川さん?」

「凜で良いよ、ユウキ」

「俺は許可したつもりは無いけどな」


まず俺が知りたいのは、いつから好きなのか、何者なのかだけだ。


「いつから俺の事を好きなんだ?」

「それはユウキが、手助けをたくさんしていたのを見た時かな」

「具体的には?」

「女の子の告白を手伝っていた時だ、君が女の子を探して走っていただろ?」


これは三橋の時だ。

彼女が告白に失敗したことを聞いて、俺が彼女に謝りに行った時だ。


「顔を真っ赤にして、本気で走っている姿」

「うんうん」

「その姿に僕は一目で惚れたんだ」

「君いいね、なかなか見る目あるよ」


やっぱり、センスがある人は違うんだ。

俺はやっぱりカッコイイんだ。


「そんで最後に、凛は何者なんだ?」

「ただ隣のクラスで、君の事が好きな女の子にだよ」

「えっ·····」


俺が人生でここまでの好意を、示されたことがあっただろうか?

無いんだよね。


「モテ期来ちゃった!」


俺の人生の転機がやってきたのかもしれない。

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