第35話 タスキは俺の体の一部だ!

「持ってくれよ、体·····」


体が熱いし、頭も痛い。

恐らく、熱中症だ。


「御影君、無理はしない方が良いわ」

「無理してねぇよ、俺の事なんか気にすんな」


やばいな、心配かけちまった。

こんなつもりじゃなかったのにな。


「そう、ならそんな素振りを見せないでちょうだい」


冷てえな、全く。

その通りだ。


「あいつらに勝とうぜ·····」


俺は眼前にいる、帝王とチビを睨みながら言った。

あいつらはこっちに目もくれず、クラスの人と談笑していた。


「よし、次は俺たちの番だ」

「行きましょ」


俺は吐きそうなくらい緊張してた、それは小倉も一緒だった。

周りの事が見えなくなるくらいだ。

そんな俺を見かねて、美月が声をかける。


「ユウキ! 頑張れー!」


美月の声は伝染し、クラスへと広がった。


「「御影ー、負けんなよ!」」

「「小倉さん、頑張ってー!」」


俺たちはハッとなり、顔を合わせた。

気づかされた、自分たちが飲まれていたことに。


「ははっ、やべぇぜこの雰囲気」

「そ、そうね」


よく見りゃこいつ口数が減ってんじゃん。

声も震えてるし。


「大丈夫だ、練習通りなら俺たちは勝てる」

「そ、そうよね」


良かった、いつもの落ち着きを取り戻したようだ。


「おい! 絶対勝つからな!」


うっせぇチビが近づいてくる。

もう始まんぞ。


「·····どうかな」

「なっ!」


俺はもう大人だ。

いちいち乗ってられっか。


「二人三脚、よーいドン!」


ピストルの音で口火をきった。

出だしは互いに順調。

他のクラスなんて眼中に無い。


(流石、前回王者)


手足の連携が美しいほどに完成されている。

声を出す事での連携もバッチリだ。


「·····」

「·····」


それに対して俺たちは、声を出さずに感覚で連携を取る。

理由は、声なんてかき消され、ろくに聞こえないからだ。

この考えは間違っていないが、あいつらは負けないくらい声が大きかった。


「すまないな、今年も頂いた」

「イエーイ!」


あいつらは、もう勝った気になっている。

距離はまだ開いていない。

二人三脚で走るのは、50メートル。

まだチャンスはある筈だ。

ある筈だった·····。


「なんで! 埋まらねぇんだ」


一度開いた距離が埋められない。

約1メートル程の距離が、遠く感じる。


「いや待てよ·····」


ユウキは肩からタスキを下げているのを思い出した。

もしかしたら·····。

ゴールテープに触れていればOKなら──。


「小倉! ゴールのルールは?」

「触れた時点でゴール」

「よし来た!」


問題は、タスキが体の一部と認められるかだ。

正直、認められてもなぁ、という感じはある。


「ゴールテープ一番乗りは貰ったー!」

「·····!」


ゴールするその刹那、下げていたタスキをゴールテープに向けて、伸ばした。

不可解な行動に、観客もぽかんとしている。


「よっしゃー、当たった!」

「·····ゴール」


喜ぶユウキを横目に、帝王とチビがゴール。

こちらも不思議な顔をしている。


「何が起こった·····」

「体の一部が触れてればゴールっしょ? タスキは俺の体の一部だ!」


ユウキはキッパリと言い放った。














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