第36話 タスキよ届け、思いとともに

「何を言っている·····?」


そりゃそうだ、分かるわけない。

俺だってわからん。


「だから! 体の一部が触れればゴールですよね?」

「あぁそうだが·····」

「タスキは俺の体がです!」

「わからない」

「なんで!」


炎天下の中での、長いやり取りに観客、その他もろもろからブーイングを受ける。


「黙れぇ! こっちは大事な話してんだよ!」


いっそう強くなる罵詈雑言。

この世のものとは思えぬ悪口も飛んできた。

これには凹んだ。


「はい静かに! 今から校長先生と協議してきます」


これは長い体育祭の歴史でも、初めてのことらしい。

こんな面倒臭いイチャモンは。


「只今の協議の結果は、一位は帝王と藤本ペア!」

「なんでぇ」


まだまだ文句は足りないが、俺にはまだ挽回のチャンスがある。

リレーだ。


「みんなごめん、凌太の代わりにリレー行ってくる」


急いでリレーへ向かう。

休憩などとる暇も無く、二人三脚の後に小倉と反省会する暇もなかった。


「リレーの選手、入場です」


みんな澄ました顔をしている中、俺だけ顔真っ赤で息を切らしている。

まるでもう走ったかのようだ。

実際走ったがな。


「よーいドン!」


最後の種目という事もあり、応援にも熱が入る。

当然、気合いも入る。


「はぁはぁ、死にそー」


もう体力は限界。

頭痛、痺れ、目眩と三種の病が揃っている。

寝ていいよ、って言われればすぐに寝れる。


(あ? なんだこれ緊張してんのか?)


手足が震える。

自分でも分からない感覚に襲われる。


「違ぇな、楽しんでんだ」


武者震いって奴だ。

ワクワクが止まらない。

1年生も割とレベルが高く、接戦だった。

2年生へのプレッシャーがその分すごい。


「勝たなきゃ行けないんだ」


強い気持ちでの挑んだ、最終競技。

凌太の想いも乗せているので、絶対に負けられない。


「·····行くぜ!」


青組二年のトップとして、タスキを繋がれた。

正直100メートルでもきつい。

汗で前が見えない。


(何とか、次に繋げなきゃ·····)


全力で走っているはずなのに、視界はスローモーションで進んでいく。

体全身が燃えてるかのように熱い。


「だぁぁぁぁぁ!」


ラストスパート、最後の最後まで手は抜かない。

心地良い、今は全身の痛みが心地良い。


「届けー! タスキ」


次の走者までは何とか倒れることなく、タスキを繋げられた。

俺の仕事はこれで終わりだ。


「あ、あれ? なん、で·····」


視界が突然ブラックアウト。

ゴールした数秒後にユウキは意識を失った。

















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