第33話 またまた大変な事が起きたよ

「落ちたぞ、青組の奴·····」


グラウンド全体がざわつく。

競技は一時中断、救急車まで駆けつける事態となった。


「·····」


誰も声を発することなく、ただ運ばれていくのを見るだけ。

目の前で事故が起こったんだ、無理もない。


「えー、ただいま事故が起こったため、時間を早めて午前の部は終了と致します」


至る所で、ブーイングをする人らも居た。

仕方ない事だ、最後の体育祭で時間を削られるなんていい気持ちではない。


「昼休憩は1時間か·····」


教室へと戻る人波をかき分け、俺は先生たちのテントへ向かった。


「先生、凌太はどこの病院に運ばれたんですか?」

「·····それを知ってどうする気だ」

「別にどうでもいいだろ」

「駄目だ、生徒を学校から出す訳には行かない」


頭の硬いおっさんだ。

病院へ行く理由なんてひとつしかないだろ。


「親友が事故ったのに、じっとしていられる訳ないだろ」

「で、でもな·····」


いいさ、こうなりゃ意地と意地だ。

悪いけど根気なら負けねぇぜ。


「今、あいつは悲しんでる」


そうだ責任感の強い奴だ。

自分のことよりも、俺らの事を考えてるに違いない。


「だから俺が行って元気づけてやるんだ」

「·····この街で一番大きい病院だ」

「まじか、行ってきます!」


多分だけと1時間じゃ帰って来れない。

最悪、二人三脚までに間に合えばOKか。


「御影君、どこへ行くの?」

「ちょっと病院まで·····」


ずっと俺らのやり取りを見ていたのだろうか、小倉が柱の影から出てきた。

表情は少し呆れているようだ。


「大丈夫だ、二人三脚までには帰ってくる」

「そういうことじゃないわよ」

「ん? なんだ」

「無理しないで」


思いもよらない言葉だった。

無理してる? 俺が? そんな訳あるか。

凌太や美月の方がよっぽど無茶してる。


「俺は無理しちゃいねぇよ、じゃあな」

「·····本当にお人好しなのね」


小倉の最後の言葉を、かき消すようにユウキは走っていった。


「てか遠いわ」


走っていくには無理があったかも知れない。

太陽がジリジリと照りつける中を走る。

体力的にも、精神的にも辛い。


(カッコつけたけど、バスとかタクシーにすれば良かった·····)


財布も何も持たずに来てしまった。

脱水症状まっしぐらだ。


「まぁ、早く病院に着けば良いんだけどな」


ひたすらに走った。

片道約10キロ。

ハーフマラソンくらいはある。

ユウキのスピードで言えば、2時間で着けばいいところか。


「うぉぉぉぉ! 俺は止まらねぇぞ!」


今のユウキを動かす動力源は、気合いだけだ。

午後の部はもう始まっている。

二人三脚まで、あと2時間。





















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