第12話 大魔王誕生秘話

これは私が小学校低学年の頃の話。

その頃から私は強気で、誰にも臆する事無く向かっていった。

例えば、いじめられている子を見れば助けにも行った。


「あんたらさ、弱いものいじめして楽しいの?」

「誰だよ、お前」

「私が質問してんのよ、黙りなさいよ」


私は喧嘩こそしたことないが、口喧嘩では負けたことがない。

てゆうか負けそうになると、親を呼んだりしてたんだけどね。


「風夏、困るとすぐに親を呼ぶのやめなさい」

「·····え?」


小学校4年生にして、初めての絶望。

膝を地面につけ、頭を抱えた。


「な、なんで·····、私の切り札が奪われた」

「親を勝手に切り札にするな、まぁ代わりはあるけどさ」

「な、何!?」


私はさっきまでの絶望の表情が、嘘のように目をキラキラさせていた。

お父さんが取り出したのは、小さな携帯電話。


「えー、雑魚携帯じゃん」

「雑魚携帯言うな! これはボタン一つで警察を呼べちゃう便利アイテムです」

「本当!? やったー」


もうこの時点で、私は1つの計画を思いついていた。

お父さんはそれに気づくことなく、嬉しそうに笑っていた。


「不味い! 逃げろー、暴君が来るぞー!!」


それを手にした次の日から、私は近所のやんちゃ達に、恐れられていた。

何故かって? そりゃあ。


「警察が来るぞー、刑務所に連れてかれるぞ!」


小さい頃は、警察はだいたい刑務所に連れていくものだと思ってしまう。


「今日は誰かなー」


私は悪さする男の子たちを片っ端から、通報していった。

もちろん大人も対象内だ。

男たちは私を見ると、怖がって逃げていく。


「ガッハッハッ、この世界は私の物だー!」


大魔王と呼ばれるのは、中学の頃からだ。

そうして私は、目が合うもの全てを警察に通報していった。

私のせいで、一家全員引っ越すこととなった。


「ここまでノンフィクションです」

「全体的に、お前の通報年表だな」


話はようやく現代に戻る。


「てか、小さい頃からの教育は?」

「それは反射神経です」


そう言うと、小倉は例の雑魚携帯を取り出した。


「このボタンを押すと、警察が来るんですよ」

「お、おい! 早まるなよ?」

「それはどうでしょうか、私の質問に答えてください」


悪いな、あいにく俺はだいぶクリーンだ。

グレーな質問など無い。


「どうしてここにいるんですか?」

「ふぇ?」


マジかよ、俺の1番されたくない質問だぜ。

驚いて、幼女みたいな声でたわ。


「答えてくださいよ」


(まっずいなこれ、自白するか?)


「5、4·····」

「ま、待て!」

「──!」


俺は咄嗟に、小倉の手足を抑えた。

これでボタンは押せないだろう。


「·····ぅう」

「え? やかんかな?」


目の前で、小倉が顔を真っ赤にしていた。

口をパクパクさせている。

なんか言いたいらしい、耳を口元に持っていった。


「·····殺してやる、絶対にぐちゃぐちゃにしてやる」

「す、スマンから警察だけは勘弁してくれ」


俺はすぐに小倉から離れ、両手を合わせた。

陳謝だ。


「ま、まぁ、今回は助かった部分もありますからね」

「だよな、助けたよな」

「別に通報してもいいですが」

「調子に乗りました、すいません」


なんか意外とあっさり許してくれた。

まだ顔は真っ赤だ。


「も、もう! 帰るので、さよなら」

「お、おーい、バイバイ」


走って帰ってしまった。

仕方ないので俺は手だけは振って、帰ることにした。


「あいつ照れてたなー」


小倉の照れた顔は、意外に可愛かったなと思った。


「見てくれはいいんだけどな、いかんせん性格が·····」

「御影君と小倉さんがねぇ·····」


一部始終を誰かに見られていたことなど、2人は知る由もなかった。


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る