第2話 妖精ビナ

 公園のベンチに腰を下ろし、僕はニナのペンダントを頭上に掲げてため息をついていた。初めての友達の、大切なお母さんの形見だ。僕がなんとかしなくちゃ。


「でも困ったな、いったいどうすればニナに会えるんだろう?」


 その時、ペンダントから白い光がこぼれてきた。

 あっという間に周りが包まれ、あまり眩しさに僕はつい目をつむる。少し経ってからおそるおそる目を開けると、目の前には手の平くらいの羽の生えた女の子がいた。


「こんにちは!」

 

 僕は驚きのあまり、ベンチから後ろに落っこちた。するとその女の子は呆れたような表情で倒れている僕の顔をのぞき込んだ。


「大丈夫?何してるのよ、あなたってドジなのね!」

「私はニナのペンダントに込められたお母さんの願いから生まれた妖精、ビナよ!あなたは?」


 僕はあわててベンチに座り直す。妖精だって?


「僕はアナン...」


 ビナは、腰に手をおいてムッとした顔で僕に聞いた。


「もしかして夢だとか思ってる?私は本物の妖精だし、ちゃんと羽も生えてるでしょ。もう、ほんとに失礼しちゃう!」

「ごめん、僕は妖精を見たのは初めてなんだ。だからびっくりしちゃって...。」

「そりゃそうよ、妖精が見える人はほんのちょっとしかいないもの」


 僕の周りをふわふわと飛んで観察しながら答える。僕はビナを目で追いかけながら聞いた。


「ちなみに、君はみんなにも見えるの?」

「あなたにしか見えていないはずよ」


 そう言われて、僕は小声で聞くようにした。


「どうして君はあらわれたの?」

「もちろん、あなたの力を借りてニナのもとに帰るためよ」


 ビナは当たり前のように言う。僕はキョトンとした。


「どういうこと? 僕が君をニナのもとに連れて行くの?」


 観察が終わったビナは、僕の顔の前まで飛んできてほっぺたをふくらませて言った。


「連れてってくれない気?私はニナのお母さんと、ずっとニナのそばにいて守るって約束したの。だからニナのそばにいなきゃいけないのよ。」

「ごめんごめん。でも僕はニナの居場所がわからないんだ。」

「それなら大丈夫!ニナの居場所はだいたいわかる気がするわ」


 と自信満々に言って、そのまま続けた。


「前に旅の途中で行った日本でとても気に入った物があったみたいなの。着物って言ったかしら?だから、きっと日本にいると思うわ。行きましょう!」


 どんどん話を進めるビナに戸惑いながら、僕は最後に一つ質問をした。


「今から行くの?僕、お金がないから飛行機にも乗れないよ」


 するとビナは右手を上にあげた。


「それは私に任せて!私が指を鳴らせばどんなところにでも行けるのよ。さっそく行きましょう!」


 パチンッ、と軽快な音が響き渡り、世界は再び白い光に包まれた。

 どこかでビナの声が聞こえる。


「アナン、ニナの顔や声を強く思い出して!私はその思いをつないで世界を渡っていくから...」


 

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