転③ 最強のスキル「ブラック―――」
……何? 今、魔王はなんて言ったの……?
「かつて私も愛されものでね。邪魔物と呼ばれているものたちは、私が力を与えたということは知っているだろう。これは”ブラックコーティング”というスキルで、かつて女神エーディンが私にくれた。このスキルはどんな相手もふれただけで自分の手駒にすることができるんだよ」
それが邪魔物の正体……魔王にふれられると、魔王の手駒となり凶暴化する。ただ力を与えるのではなく、自分の配下にできてしまう。
ふれただけで、どんな相手にだって勝てるということ? ブラックコーティング……そんな最強のスキル、誰もかなうわけがない。
「ああ、安心するといい。愛されものには効かないから。君は凶暴化したりはしない。ただ死ぬだけだ」
魔王が笑う。私は状況を飲みこめない。飲みこみたくない。
かつての愛されものが今の魔王。――女神に最強のスキルを与えられた、伝説の愛されもの。
その伝説の愛されものが、女神に与えられた力を悪事に使っていたなんて。世界を壊していたなんて。女神の愛が女神の世界を壊すことになるなんて。こんなひどい話がある?
「バナナクレープはもう飽きた。次はここをイチゴクレープの街にしよう。たっぷりのベリーソースと、果肉を皮で挟んだ街」
魔王が、空気にふれて黒くなった私の”ベリーソース”を指ですくいとる。
「みんな隠れてしまったね。しかたない。邪魔ものたちの家を一軒一軒まわろうか」
誰かの悲鳴がして、魔王はそっちを見る。視界から魔王の顔が消えた。邪魔物たちを連れて歩いていく足音がする。
ダメ。愛するものを、守らなきゃ。動いて、動いて。
私の体は動かない。意識が遠くなっていく。平穏が遠くなっていく。
誰か……たすけて。世界をたすけて。
私は誰に願ってるの? もういない伝説の愛されものに? 神様に?
「……やめ、て……。おね、がい……いかな……で……」
私の愛するもの……壊さないで。
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