終末世界のウイザード・オルタナティブ
永遠こころ
第1章 終末世界のサバイバル
第1話『目覚め』
〝……目覚めの時を待ちなさい……〟
その時、暗闇の中優しい声が紡がれた……。
ここは……どこだ? 俺は一体何をしている? 真っ暗で何も見えない……。
えーと、確か……あ! そうだ! 今日は休日だ。一人で過ごす為、渋谷に本を買いに来たんだった。それで、地下鉄で渋谷まで出てきて降りようとしたところで地震が起きた。電車のドアが開かなくて皆がドアをこじ開けて降りた。でも何故だか俺だけが座席から立ち上がれなくて取り残されたんだった……。
でも、どうしてこんなに真っ暗なんだ? 停電か? 他のみんなはどこ行った? 見当たらない……。身体も動かせない……何故なんだ?
おーい! 誰かー! 声も出せない……。どう言う事だ。
目の前が僅かに明るい。
あれは何?……蝶? 光る蝶。
いや、人? 羽の生えた小さな人……違う、これは……妖精だ!
何かを話している。何を言っているのかは聞き取れない。でも、なんとなくわかる。何かを受け入れるかどうか質問している。
答えは 〝Yes〟 だ。この状況から助かるなら 〝Yes〟 しかない。
妖精が胸の中へと入って来る!
「わっーーー! あれ?」
――今のは夢か……。いや、電車の中だ。明かりも無い。今のは何だったんだ?
俺は辺りを見回した。電車の座席に座っている。確かに明かりは無いが、なぜか自分の周りだけは何があるのかわかる気がする。
――どう言う事だ?
電車のドアが開いている。
取り敢えずドアを出てホームに降りてみる。やけに埃っぽい。歩くたびに砂塵が舞い上がる。辺りは瓦礫だらけだ。周囲に人の気配は無い。
――おかしい……。俺が電車に取り残されたのは五分ほど前のはずだ。地震で揺れて周囲の壁が崩れて、電車のドアが開かなくて、でも俺は座席から立ち上がれなくてホームへと降りる人を見送った。だけど、この状況……その時から随分と時間が経ったように見える。電源が全て落ち、埃が床に積もってる。その間救助は来なかったのだろうか? 状況がまるで理解できない。
「どうなってやがるー!」
薄暗い廃墟の中に自分の声が木霊する……。
(……あー、あーー)
「!」え? 何だ今の? 頭の中で声が聞こえた気がする。「おい、誰かいるのか!」
(……あ、どうやら言語野には繋がったようですが……)
「おい、お前は誰だ」
(あ、はい、先ずは自己紹介ですね。私、先程貴方と契約を結びました妖精のリルカーベイ・アーティクルと言います。クラスは上級戦士で風の妖精です)
「はぁ?」――妖精? 契約? 何を言っているのかさっぱりわからない。ファンタジーの話なのか?「どう言う事だ」
(どうと言われましても、私もこちらに来たばかりなので良く判りませんが、今、私と貴方とは契約を完了したところです)
「契約?」さっき胸に入ってきたのは夢じゃないと言う事か……。「なあ状況を説明してくれ」
(えーと、そう言われましても……)
「それならまず妖精って何だ」
(妖精は妖精です。世界を構成する要素の精霊様にお仕えする生命体です。もっとも今は精神体だけ分離してここに居るので生命活動はしていませんが)
言っている事の意味は良く判らないが、どうやら本当の妖精のようだ。と言う事はここは異世界? いやどう見ても地下鉄のホームにしか見えない……ただし、廃墟の……。
「なあここは渋谷だよな、どうして妖精がいるんだ。どうして駅がこんなになってるんだ」
(なにもご存じないですか……えーと、何から話しましょう……
〝世界衝突〟
……異なる次元の二つの世界、地球とアーヴが衝突を起こしました。ニつの世界の一部は繋がり天変地異が起り、さらに世界が繋がった事で様々な異常事態が起こり始めたのです。その事態を終息させるべく私はこちらの世界にやってきました)
「それで、それはいつの事なんだ」
(私の世界で約一年前。こちらの世界で五百日と言ったところでしょうか)
約一年半と言うとこか……。こいつの言う通りその後にも異変があったと言うのならこの瓦礫の山は頷ける。
「だが俺の記憶が無いのはどう言う事だ」
(私が貴方を発見した時には、貴方の身体は精霊結界によって保護されていました。今は私が貴方と契約を結ぶことで体を動かしています)
「保護だと、一体何から。こいつの所為で俺は電車を降りられなかったんだぞ」
(えーと、それは多分……)
突如、周囲が明るくなった。いや違う背後まで見えている。奇妙な感覚だ。
「おい今のは何だ」
(周囲に風を放って探知範囲を広げただけですよ)
ああ、そう言えばこいつは風の妖精と言っていた。多分その能力の所為だろう。
だが、今、一瞬見えた。前後の押しつぶされた車両。瓦礫の積もったホーム。そして、エスカレーターの下に折り重なるように見えた物……。かなりの惨状だったらしい。
恐らく俺が意識を失った直後にも地震が続いていたのだろう、それで、天井の一部が崩落した。この様子だともしかするとこの電車で生き残ったのは俺だけかもしれない。
「でも、何故俺が……」
(これは推測ですが、私の世界では妖精と契約を結べる人間はごく稀で希少です。なので近くを通りかかった高位の精霊の誰かが貴方を保護したのだと思います)
成る程、利用価値があったので助かったと言う訳か。ちょっと複雑な気分だな。
「それで、その精霊とやらはどこ行った」
(さあそれは判りません。私も近くを通りかかり偶然発見しただけですので)
「そっか……」どうやら俺はそのまま放置されたらしい。
理解には程遠いが何となく事情はつかめた。さて、どうしたものか。先ずは地上に出て他の人達と接触を図るべきだろう。
しかし……。
(あのー、お聞きしますけどお名前は何でしょう)
「ん? ああ、名乗ってなかったか俺の名前は
(では愛称はゆっきーで良いですね。私の事はリルカとお呼びください)
――こいつ、いきなりちゃけて来やがったな……。
こうして俺は廃墟と化した渋谷で目覚めた。
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