第4話!
「申し遅れました、わたくしはエルファリーフ・ユスフィアーデと申します。この度は我が家のメイドがとんでもないご迷惑を……! 本当に申し訳ございませんでした……! お許しいただけない事は重々に承知しております…………ですが、必ず元の世界へお帰り頂けるようエルファリーフ・ユスフィアーデの名の下にお約束いたしますので……」
「あ、あの、待って!」
「………………」
おおおぉおぉ重い!
重いわ! 重すぎるって!
こんな可憐で無垢で優しいお嬢様に深々と頭を下げて重々しい謝罪が欲しかったわけじゃないのよぉ〜!
私が声をかけて待ったをかけたら、やっぱり涙を浮かべて謝ってたし。
あああ、こっちが罪悪感で潰れそうっ。
「そんなに思い詰めた顔しないで……? そ、そりゃ最初は驚いたけど、もう怒ってないし……」
「え? さっきゲームしたいから今すぐ帰りたいって大騒ぎして……」
「ちょっと黙ってなさいよあんた」
こんな涙に濡れた美少女の前でなんて事言うの!?
やっぱオブラート足りなさすぎるわ、このハクラって子!
例え本当の事だとしても黙ってなさいよ!
「……ゲーム……?」
「あ、それは置いておいて?」
「は、はい」
こんなお嬢様の前でゲームしたいから返せと駄々をこねたなんてバレたら更に惨めになるでしょ!
「……えっと、とにかく私はもう怒ってないから! 確かに困った事にはなってるけど……でも、そんなに思い詰められるとこっちがどうしていいかわからなくなるのよ」
「……そ、そうなのですか……? ではどのように謝罪をすれば……」
「エルファリーフ様、とりあえず誤って召喚されてしまった彼女はユスフィアーデ家で預かっていただく、という事でよろしいですか?」
「! はい、勿論ですわ! 不自由ないよう、しっかりと預からせていただきます!」
おお、なんて心強い……!
なんか逆に申し訳なくなるな……。
……というか、本当にお嬢様の家に丸投げしやがったわね、このドS騎士……。
「ありがとうございます。では、魔導書の解読に関する件はこちらで進めさせていただきます。必要になるであろう経費はユスフィアーデ家に請求させてもらう事になるかと思いますが、そちらもご了承いただいても?」
「勿論ですわ」
「次に、その娘の処遇に関してです。窃盗に関してはユスフィアーデ家所有の蔵書であるかどうかが未だはっきりしないので……こちらは保留。しかし魔法の使用に関しては明白。処罰に関しては免れないものとお考え下さい」
「……はい、分かりました……」
「あう、あう〜……」
「詳しくは書面にて纏めてお送りいたします。……では、あとの事はお任せしますよ」
「ハッ!」
ビシッとハーディバルへ敬礼する鎧の騎士。
偉そう……と思ってしまうが、そういえばハーディバルは騎士団の隊長の一人なんだっけ。
……あ、つまり本当に偉いのか。
「……あ、それともう一つ」
「はい」
話をまとめ終えたハーディバルが、ハクラと一緒に退出しようとした時だ。
踵を返して、ナージャちゃんを見下ろすと冷たい瞳がゆっくりと細まる。
「万が一沙汰が降る前に逃走でもしてみろ、お前の魔力の波長は僕が覚えた。……地の果てまでも追いかけて、必ず処す」
「………………は、ひ……」
ナージャちゃんの肩が一瞬跳ねた。
さっきまでの紳士的な態度はどこへ?
た、ただの悪魔じゃない……あいつ。
「ハーディバル様、ナージャは逃げるような子ではありませんわ」
「……だと良いのですが」
……そうね、逃亡に関しては既に前科があるものね……。
「……私は職務に戻ります」
「ご迷惑をお掛けいたしました……」
またも紳士モードなドS騎士。
エルファリーフ嬢に丁寧に頭を下げて、ハクラと一緒に今度こそ退出した。
……はぁ、なんて緊張感……。
「あの、まだお名前をお伺いしていないのですが……お許しいただけるなら教えていただいてもよろしいですか?」
ドS騎士とハクラがいなくなり、一つだけ溜息を吐き出した私へエルファリーフ嬢が話しかけてきた。
あ、そういえばあの二人には名乗らせて私は誰にも名乗ってなかったわね。
それにしても、そんな「お許しいただけるなら」なんて……。
「そうね、ごめんね。私の名前は水守みすずです」
「ミモリ様ですね。この度は本当に申し訳ございませんでした……」
「あー、うん。もういいから……」
「ミモリ様の事は我が家が責任を持ってお預かりいたします。なんでも申し付けて下さいませ」
「え、あ……いや……」
……ならばせめて、せめてよそ行きの服に着替えさせてはくれまいか。
眩しい、眩しいのよ!
エルファリーフ嬢、可愛いし美しくて後光で蒸発する!
「ユスフィアーデ嬢、ハーディバル隊長の仰った通り、記録した事柄は書面にまとめてお送りいたします。今回の件はかなりの珍事となりますので、恐らく王族の方々の耳にも入るかと思われるのですが……」
エルファリーフ嬢の美しさと可憐さに慄く私をよそに、居残りしていた騎士が告げる。
王族……そうか、この世界……いや、この国は王政なのね。
……ハッ! つまり王子様とかいたりするのかしら!?
異世界に召喚されて美少年騎士と美少年冒険家に出会って……まあ、恋愛フラグ的なものは早々にへし折られたけれど……そうきたらパターン的に王子様じゃない!?
「そうですわね……いたし方ありませんわ……」
「……お嬢様……」
「……大丈夫よ、ナージャ。わたくしに任せて? それに、フレデリック殿下はお優しい方ですもの……きっとお許し下さいますわ」
「フレデリック……お、王子様?」
「え? あ、はい。フレデリック様はこの国の王子殿下ですわ」
よぉっしゃああああああぁぁぁぁ!
キタコレーーーーーー!!!!!!
王子様!
乙女ゲームの王道攻略対象職業とも言うべき……王子様!
ときめきが加速する。
だって、王子様って聞いたらときめくでしょ!
「? ミモリ様?」
「……あ、な、なんでもないわ。えっと、それで、私はどうなるの?」
もしかしてこのままお城へ?
王子様にご挨拶?
そして私を一目見た王子様は私に興味を…………。
自らの姿を思い出す。
ジャージ(グレーの上下)とスニーカー。
百均のゴムで一つに結った髪に、眼鏡……。
……それは、さすがに夢見すぎ、かな……あはは……。
「我が家へご案内しますわ。……まずお姉様にミモリ様の事をお話ししないと……。あ、でも、お姉様もミモリ様の事は必ず受け入れて下さいますわ! ご安心なさって!」
「えっ、お、王子様は……」
「王子様? フレデリック殿下の事ですか?」
「……には、会わない、のよね?」
「ええ、勿論。今回の事、お耳には入ると思いますけれど……お優しい方ですもの、きっと大丈夫ですわ」
ご心配なさらないで、と微笑むエルファリーフ嬢の可愛さといったら……!!
ま、眩しい!
テレビやSNSで騒がれるアイドルや、声優雑誌に載っているアイドル声優なんて所詮は庶民!!
レ、レベルが違う!
空気、まとう気配、ほんの些細な仕草!
あらゆる面で完全に圧巻の美少女感!
も、もはや二次元のレベルの可愛さだわ……!!
現実に存在しない、するわけがない域に達している……!!
か、可愛い……!!
もはやなにを心配していいのかも、なにが大丈夫なのかも、なにを話していたのかすら忘れそうなほどに可愛い!
「それでは後の事はよろしくお願いいたしますわ」
「はい、お任せください」
騎士に上品な一礼をして、私とナージャちゃんを連れ応接室を後にするエルファリーフ嬢……いや、エルファリーフ様。
グスグスと涙を流し続けるナージャちゃんの手をしっかり握り締め、慈悲深く微笑む。
「大丈夫よ、ナージャ。今回の事、お姉様だってちゃんとお話しすれば怒らないわ」
「お嬢様……」
「だからもう泣かないで。あなたを追い出したりなんてしないから……」
聖女……!
可愛いだけじゃなく優しい!!
「……うええぇん! ごめんなさいお嬢様〜!」
「でも、下された罰はきちんと受けなければダメよ。ミモリ様は、しばらくの間帰れなくなってしまったのだから……」
「はい、もう二度といたしませんっ」
「いい子ね」
……許す。
許すわ、ナージャちゃん……!
新作ゲームの恨みはまだ残ってるけど、この世界に召喚した件は許すわ!
だってエルファリーフ様があまりにも可愛いんですもの!
まるで乙女ゲーのヒロイン………………
ハッ……!?
そ、そうよ、なんでこんなに心がときめくのかと思ったら……!
エルファリーフ様はまさに……超王道系乙女ゲーヒロイン……! なんだわ!
なにしろ可愛いし、上品だし、純粋で、可愛い!
こう、プレイヤーにゴリ寄せしてくる系の乙女ゲーはヒロインが大体庶民だけど……少女漫画に出てきそうな容姿に、どこまでも慈悲深い性格はまさにヒロイン!
そうよ! 私はなにを勘違いしていたの……?
私ごときが乙女ゲーのヒロインだなんて……愚かの極みだわ……!!
このお嬢様と、王子様の恋物語が……見たい!!
チョーーーーッ見たい!!
「あの、エルファリーフ様?」
「!? ま、まあ、私の事など呼び捨てで構いませんわ!?」
かわいーーー!
「そ、そう? じゃあエルファリーフ……」
「はい、なんでしょうか」
かわいいいいぃぃーー!
「す、好きな人とか、いるの?」
「え?」
・・・・・・。
「い、いいえ?」
「そ、そう」
つまり、まだゲームは始まっていないって事ね!?
これから出会って、少しずつ絆を深め、邪魔立てする悪役キャラを二人の愛の力で倒して……そして……むふふふふふふふふふふふ!
「? あの、ミモリ様、もし宜しければお召し物をこちらの世界のものにお着替えされてはいかがでしょうか? 異界のドレスも素敵と存じますが、物珍しく目立ってしまいますわ」
「ウッッッ!!!?」
かいしん の いちげき !
「……お嬢様、あれはドレスではないとおもいますぅ」
「え? ではなんなのかしら?」
「……あれは、きっと作業着ですぅ」
「作業着? ミモリ様は異界の農家の方なの?」
作業着イコール農家!!
な、なんという純粋培養感……!
フ、フフ……エルファリーフの可愛さでHPが少し回復した気がするわ……!
「でも、やっぱり異界のお召し物は目立ってしまうわ。せっかく王都にいるんですもの、お姉様にもなにかお土産を買って帰りましょう」
「……ハッ! もしかして継母や意地悪な姉に虐められているとか!?」
お土産を買って帰る!
それってつまり、ご機嫌取り……!?
「? いいえ? お母様は別宅におりますし……お父様は私が幼い頃に亡くなったので後妻はおりませんわ。それに、わたくしが言うのも変かもしれませんが……お姉様とはとても仲がいいですの。自慢のお姉様なんです。きっとミモリ様の事も優しく迎えてくださいますわ!」
「そ、そうなの〜〜」
あ〜〜ん!
エルファリーフめっちゃ可愛い〜〜〜〜っ。
「いかがでしょうか、ミモリ様」
「あ! ごめんごめん、ジャージの事よね」
「じゃーじ」
「……でも私、この世界のお金とか持ってないんだけど」
「まあ、勿論わたくしから贈らせていただきますわ! それに、この世界でしばらく過ごされるんですもの……着るものはいくつかないと……」
「そ、そっか! ……でも、いいの?」
「勿論ですわ! ご不自由をおかけしない約束ですもの!」
っ……いい子……!!
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