ストーキングは愛の証！

ハッピーニューイヤー

「ハッピーニューイヤー！　なのです！」

　――新年です。あけましておめでとうございます。

　沙友理はテンションが上がっていた。

　深夜にも関わらず、沙友理の眠気は何処かに去っている。

　すると沙友理の妹、理沙が眠そうに目を擦りながら口を開いた。

「ねーちゃんは元気だな〜……」

「そりゃそうなのですよ！　なんたって新年なのですよ！？」

「……近所迷惑だから、あまり大声出さない方がいいぞ……」

　――あ、そうだった。

　いくら元旦とは言え、すやすや寝ている人もいるだろう。

「あはは……ごめんなさいなのです……」

　てへへ……と沙友理はいたずらっぽく笑い、声のボリュームを落とす。

　理沙は自分の姉の態度を見て、諦めたように「もう寝ようよ……」と言って、寝室へと入っていこうとしている。

「え、なにもう寝ようとしてるのですか！？」

「……何言ってんだ？　もう夜遅いんだぞ？」

　突如、沙友理が声を張り上げて理沙を引き止める。

　理沙はそれに対して、不機嫌そうながらも至極真っ当なことを言う。

「ふっふっふ。もう新年の朝なのですよ？　夜じゃないのですからね！？」

「あ、そうですか」

「冷たいのです！　しかも敬語なのですか！？」

　――姉がうるさい。

　何だかまた急激に眠くなってきてしまった。

「じゃあ、もうあたし寝るからな」

　そう言って理沙は、また同じように寝室に向かおうとする。

　……と、沙友理が必死に止めてきた。

「待ってくださいなのです、理沙〜！　わたしが悪かったのですからぁ〜！ ねぇ、理沙〜！」

　何やら追いすがってきた姉。

　理沙はそれを見ると、思わずぐっときた。

　上目遣いと涙目のコンボはやばい。

「うっ……！」

「え、どうしたのですか？　なんかすごく顔赤いのですけど」

　それなのに、沙友理はいつも通り振舞っている。

　理沙はそのことに、悶えるしかできない。

　混乱のあまり、声も出なくなってしまっていた。

「ね、ねぇ……ほんとに大丈夫なのですか？」

「えっ！？　お、おう……自分でもわかんねーけど……多分大丈夫……」

　理沙の様子に、終始首を傾げる沙友理だった。

　☆　☆　☆

「はぁ……華緒さんの所に行きたいならそう言えばいいのに……」

「最初からそう言っとけばよかったってことなのですね……」

　――説明しよう。

　沙友理は今、理沙と一緒に寒空の下にいる。

　沙友理はみんなの家を回って、元旦の挨拶をしようと思っているらしい。

　それに、理沙は渋々着いてきたようなのだ。

　それにしても――姉が引っ付いてきているからか、全く寒くない。

　こういうのも悪くないな。

「……ふふっ」

「ん？　どうしたのですか？」

　理沙は自然と顔が緩んでしまう。

　姉はただクエッションマークを浮かべているだけだが。

「――あ、あそこじゃない？」

　そうこうしているうちに、華緒の家にたどり着く。

　華緒の家は周りに家や街灯がないため、夜は本当に暗くて、どこか分からなくなりそうだ。

　だが、無事に着いてホッとしている。

「おー、電気がついてるな。華緒さんも起きてるっぽい？」

「よかったのです……寝てたら迷惑なのですもんね」

「うーん……起きてても迷惑なような気がするけどな……」

　起きていてくれなければ挨拶出来ないというのはわかる。

　だけど、そもそも来る必要はあったのだろうかと思ってしまう。

　理沙がそう思っていると、沙友理がドアを軽くノックする。

「いっちゃーん……起きてるのですかー……？」

　一応、電気を消し忘れたまま寝ている可能性を考慮して、小声で呼びかける。

　しばらくすると、ガチャッと言ってドアが開いた。

「あ、いっちゃん。ハッピーニュー……ウ！？　って、誰なのです！？」

「……あなたこそ、どちら様？　こんな時間になんの用だい？」

　割と上品な感じのおばあ様が、沙友理の前に立っている。

　☆　☆　☆

　沙友理と理沙は今――木のいい匂いがするテーブルの椅子に腰掛け、もてなしを受けている。

　――ミルクティーの甘い匂いが鼻をつく。

　温かいミルクティーが、沙友理と理沙の心まで温めてくれているようだった。

「……まさかいっちゃんのおばあさんだったとは思わなかったのです……」

「おや、誰だと思ったんだい？」

　今、沙友理の目の前にいる上品な感じで笑うおばあ様は、華緒の祖母だと言う。

　華緒のきつめな感じの印象とは違い、あまり似ていない。だけど、顔はすごく似ている。

「あはは……おとぎ話からそのまま出てきたような、優しいおばあさんかと思ったのです」

「ふふっ。お上手だねぇ……さすが高校生はお世辞がうまいねぇ」

「いやそんな、本当のことを言っただけなのですけど……」

　顔が似てるとはいえ、やはり華緒の祖母だなんて信じられない。

　なんというかもっとこう、子供っぽいおばあさんを想像していた。

　そんな感じで、華緒の祖母だと言うおばあさんを、沙友理は舐め回すように隅々まで観察する。

　すると、そのおばあさんは少し頬を染めて――

「……そんなにじっくり見られると照れるねぇ……」

「あっ、すみません……！」

　照れくさそうに笑う。

　――しまった。失礼だっただろうか。

　沙友理がそうやって罪悪感に苛まれていると。

「ん？　……どうしたんですか、さっちゃん先輩？」

　――あ。救世主（メシア）だ。

「いっちゃーん！　ハッピーニューイヤー！　なのです！」

　と叫びながら、転がるように抱きついた。