第9話 見つけた秘密の箱


 掃除機を片手に、俺は戦闘態勢を整える。

二人はお出かけ準備を早々に終わらせ、さっさと出かけてしまった。


 しかし、葵はともかく陽菜の服装は何だ?

ジーパンに黒のパーカー。お世辞にもおしゃれ着ではない。

しかし、掃除とか何で俺一人で……。


 窓を全開にし、大掃除でもないのに徹底的に掃除機をかける。

リビング、台所、廊下にトイレ。ふぅ、中々いい感じじゃないか?


 そうだ、ついでに葵と陽菜の部屋も掃除をしておいてやろう。


『お兄、掃除してくれたの! ありがとう!』


『拓海さん、お掃除はちゃんとできるんですね。見直しましたよ』


 とかねー。

しかし、あんな奴でも葵は一応女の子。

勝手に入るのはまずい気もしないでもない。


 それに陽菜の部屋も。引っ越し早々勝手に掃除するのも悪い気がする。

しょうがない、自分の部屋は自分で掃除してもらおう。


 俺はあの二人の部屋はそのままに、自分の部屋を掃除する。

両親がもともと使っていた部屋の荷物はほとんど持って行ったが、いくつかの箱が残されていた。

ほとんど生活で使わないような思い出の品物や俺と葵の学校関連の書類。


 ついでのこのあたりも整理しておくか。

半開きだった箱に手をかけ、押入れに封印しようとする。


 俺の右手に封印されし、ブラウンのテープよ。

半解放状態の悪魔の封印箱よ! 再び永き眠りにつくがいい!


 封印殺法! ガムテープ固め!


 と、掃除のテンションに合わせ、ノリノリで箱にテープを止めようとした。

が、箱から封筒がはみ出ている事に気が付く。

ちっ、邪気が漏れていやがる。


 俺は箱から封筒を取り出し、はみ出た封筒を手に持つ。

お、これは俺の入学書類一式じゃないか?


 入学する時に必要だった書類関係は、全て両親が対応し、俺はほとんど中身を見ていない。

いい機会だし、ちょっと確認しておくか。


 学校の案内に、制服や教科書類の費用。

お、思ったより高いじゃないか。


 そして、入学案内書の控えと、住民票と戸籍抄本。

あれ? 新しい学校ってこんな書類も必要なのか?

そう言えば、今までこんな書類は見た事無かったしな。


 気になり、中を確認する。


『松島 卓也 男 養子縁組』


 ……。


 …………。


 俺は目を疑う。

養子縁組? 日付を見ると、俺がまだ1歳の頃だ。

嘘だろ? 何かの間違いだよな?


 高鳴る鼓動を押さえ、胸を鷲掴みにする。

痛い。嘘、だよな? 俺は養子なのか?


 つい最近まで一緒に生活し、ご飯を食べて、ゲームのしすぎでめっちゃ怒られて。

でも、参観日に来てくれて、運動会も来てくれて、真剣に進路の相談に乗ってくれたあの二人は……。


 本当の父さんと母さんじゃ、ない……。


 半開きの段ボールに、開けっ放しの窓。

外から車は走っている音が聞こえる。

掃除、しなきゃ……。


 ふらふらと立ち上がり、全部箱に突っ込んだ後は封印。

押入れの奥底に、開ける事の無いようしっかりと何重にもテープ止めた。


 あとで、父さんか母さんに電話しなきゃ。

あの二人が帰って来る前に、本当の事を確認しないと。


 もしかしたらあの紙は嘘かもしれないし。

そうだよ、嘘に決まっている。嘘、だよな……。

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