ヒロインは泡末の中で踊る
紗衣羅
第1話 ヒロインは都会に憧れる
『芹香、東京の大学受かったんだって? おめでとう!いいなー。これで芹香もシティガールだねぇ。かーっ羨ましー! かっこいい彼氏とかも見つかっちゃうんじゃないのー?』
「えへへ、ありがとう~!一人暮らしするのすっごい楽しみなんだぁ~!落ち着いたら祐美に教えるねっ。遊びにきてね」
あたし、
なんで東京に住まないのかって? だってなんかこじゃれた感じがいいじゃない? 横浜って響きがいいよね。『何処住み?』って聞かれて『ヨ・コ・ハ・マ。ふふっ』って言ってみたいじゃない?って事で、お母さんはまだ心配みたいだけど諦めてもらうしかない。
『うん、行く!絶対行くから!あ、じゃあさ、お祝いしようよ、お祝い!明日とかどぉ?国道沿いに最近できたファミレス行こうよ、私車だすからさ。』
「やったぁ!じゃあ駅前で11時に待ち合わせね。」
ふふっ、祐美ってば優しいなぁ、もう。
***
……って思っていた時代もありました。
あれ?あたし言ったよね? 待ち合わせ11時に駅前って。…今何時よ… うわっ...11時40分じゃん。あーないわー。40分も遅刻とかないわー。今すぐ問い詰めたい。『はよ来い! 何してるんじゃー』ってスマホあったら電話かけて問い詰めたい。
って、あれ?スマホ?スマホってなんだっけ…?
あれ?
ここって… 何処?
あたしって… 誰だっけ?
あたしは豊田芹香
私は○○○ ○○
えっ?
まってまって。
あ… なんか思い出しそう…
うー、なんだこれ… 頭いたっ… マジ無理。立ってられない。
あたしはあまりの痛さに駅の大きな柱に寄りかかる形で蹲った。 痛む頭の中で次々に浮かんでくるあたしの知らないはずの記憶?情報?にあたしは翻弄されていた。
あたし… 私は… 今の両親じゃない人達をパパ、ママと呼び、一人っ子なのに、居るはずが無い兄がいる記憶がある。 あ、これって…あれだ。 もしかして前世の記憶ってやつじゃない? それに豊田芹香ってなんか知ってる… なんだっけ…ほらあれよ、あれ! えー…うーん…と… あ、そう! バブル時代をモチーフにした、各攻略対象を1周づつだけやった(終わった後、バブル世代だったママにあげたら懐かしいとかで、どハマりしてた)乙女ゲームの主人公!! あースッキリ。ついでに頭痛もスッキリ。
ん… マジで? あたしヒロインじゃん!
そういえば東京の女子大行くのも、横浜住みなのもゲーム通りだわ。 じゃあこれからあの攻略対象のイケメン達(今の時代はイケメンて言葉はないけど)とあれやこれやして恋愛するのか… マジで…
などと悶絶してたら祐美が1時間遅刻でやっと来た。 寝坊して急いで車乗ったらガソリンがやばくって、スタンドに行ったらめっちゃ並んでたんだって。 めちゃくちゃ謝ってくるから、優しいあたしはティラミス2つで許してあげた。
あ、そうだ。お父さんに山○証券との取引やめとけって事と、年号が変わったら所有株全部売るように言っておかないとね。
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