第14話

第十四回

辻の怪力にあがなえるまみりではなかった。辻のコッペパンのような片手で床の上におしつけられている。

「いい格好じゃないか。まみり、えへへへへ」

飯田かおりはへらへらと笑いながら自分のセーラー服の内ポケットから十五センチのセルロイド製の線引きを取り出すと矢口まみりの前にうんこ座りをしてしゃがんだ。そしてそのしなる定規でまみりの額をピタピタと叩いた。

「うっ、うっ」

まみりは低くうめいた。

やじうまの一群としてその様子を見ている石川りかはまた、悲鳴をあげた。

「まみりが、まみりが、飯田とヤクザの女からリンチを受けている~~~~」

そしてゴジラ松井くんの顔を見上げる。しかし、依然としてゴジラ松井くんは無表情である。飯田はまたまみりの額をピタピタと叩いた。そのたびにまみりは声にならないうめき声をあげる。

「御同輩、見たかい。こいつの好きな男が外でこのぶざまな格好を見ているんだよ。へへへへへ」

「そうかい」

今度は藤本が舌なめずりをした。

「こいつの好きな男が外で見ているのかい。この位置からでは見えないだろう。見せてやるよ」

藤本の美貌が今度はその持って生まれた残忍さを倍加する。ハイヒールを履いたままの足をまみりの頭の上にのせる。そしてまみりの頭をきなこ飴を作っている職人のように前後にごろごろとさせる。きなこ飴を作る職人はこうやってちぎった飴の材料をまん丸にするのだ。藤本が足を前後に動かすたびにまみりの頭はきなこ飴が出来ていく過程のようにごろごろと回転する。まみりの頭は丸まっていくきなこ飴と同様なのである。

「こんなみじめな格好を憧れている男に見せてどんな気持だい。ふっ」

藤本がやじうまの中にいるゴジラ松井くんと金髪がくしゃくしゃになっているまみりの顔を前後に見比べる。

「うっ、うっ、うううう」

まみりは苦しさに呻くことしか出来ない。

外でその様子を見ていた石川の瞳には涙がにじんでいた。

「松井くん、助けてあげて、助けてあげて、まみりが死んじゃうわ。ねえ、松井くん。あなたはハロハロ学園のヒーローでしょう」

チャーミー石川は泣きながら松井くんの腕にむしゃぶりついた。石川の涙が松井くんのトレーニングウェアーの筒袖にしみこんでいく。まみりの瞳にはぼんやりとゴジラ松井くんの姿が見えていた。

「オヤピン、こいつのボディガードの例の空飛ぶ奴が姿を現さないでしょうかね」

加護が不安気にオヤピン飯田の顔を伺った。

「これだけまみりを痛めつけているのに出て来ないんだから、永久に出て来ないさ」

そのときまたゲームセンターの中に閃光が走った。人斬り紺野さんが仕込み杖で空気を斬った。それからスケッチブックを取り出すと黒いサインペンで何かを書いた。

「なになに、今度出て来たら今度は殺す」

紺野さんの周囲に妖しげなかげろうが立ち上る。

辻は紺野さんの殺気にぞっとした。頭を藤本の美脚にごろごろとされながらまみりはスーパーロボ矢口まみり二号を発進させればいいんだということに気づいた。なんだ、まみりは馬鹿なり、スーパーロボを呼べばいいなり。呼ぶなり。不良たち、パパの作ったロボにのされちゃうなり。飯田お前なんかは足利の田んぼの中のこえだめに落っことしちゃうなるなり。そしてあの言葉を言えばいいんだ。スーパーロボ矢口まみり二号発進せよ、と。藤本のハイヒールの裏で頭をごろごろさせられながら、自分の腕時計を探した。ない、ないなり。スーパーロボの無線操縦機がないなり。

「いい黄粉飴が出来るよ」

保田が飯田同様、うんこ座りをしながらごろごろしているまみりの頭を見ながら小枝を使ってまみりの頭をつつっいてみる。まみりは呻きながらやじうまがたむろしている中に石川の姿を見つけると石川はまみりの無線操縦の腕時計をしているではないか。まみりはリンチを受けながら、自分の携帯をとりだした。

「もしもし、チャーミーです」

「ど阿呆、お前はどういうつもりなり、お前のしているのはまみりの腕時計なり」

「まみり、平気、平気、隣にはゴジラ松井くんもいるからね。松井くんに頼んでいるのよ。まみりを助けて下さいって。ゴジラ松井くんと代わろうか」

「そんなことはいいなり。緊急を要しているなり。チャーミーの馬鹿でもいいなり。その場で、こう言うのよ。ご主人様が大変なり、スーパーロボ矢口まみり二号、発進って」

「おい、携帯で何をごちゃごちゃ言っているんだよ。きなこ飴ごろごろ攻撃にも屈しないのかよ。お前は。じゃあ、次の手だ。小川、来るんだよ」

すると白い洗いさらした柔道着を着た小川が前に出て来た。小川は女のくせに柔道着の下には何もつけていないようだった。

「小川はね。不良グループに入る前には柔道部に入っていたんだよ。はるばるロシアまで行ってイゴール・ボブチャンチンの下で六ヶ月間、総合格闘技の修行を積んできたんだからね。小川、必殺のあの技をまみりにかけておしまい」

飯田が興奮して叫んだ。ああ、このいじめはどこまでエスカレートするのであろうか。やはり、落ちこぼればかり集めた馬鹿学校であった。ハロハロ学園は。こんな問題児ばかりを集めているのだから。

「かおりお姉さま、やっていいんですか。あの技を」

「いいよ。やっておしまい。こんな女、死んだって構わないよ」

小川の湯上がりのような湿った黒髪がゆらりと揺れた。小川は柔道の構えをした。

「必殺、雪見大福」

小川はそう叫ぶと、何と、何と、柔道着の前をばっとはだけたのである。するとその場に雪国のスキー場のような光が広がった。雪国特有の白いもち肌に包まれた、ぷりんぷりんとしたふたつの乳房があらわれたのである。そして助走をつけて飛び上がるとまみりの上に落下していった。ダイビングボディプレス。小川の乳房はちょうどまみりの顔面の上に落下した。その柔らかさからまみりは最初の衝撃はあまりなかったが、これがおそろしい結末を待っているということがやがてまみりにもわかった。まみりの顔面全体を覆い尽くす小川の乳房。

「雪見大福、変形縦四方固め」

小川がまみりの顔に乳房を押しつけながらわきを固めてきた。まみりは少しも動くことが出来ない。

「うっ、うっ、うううう」

「まみり、聞こえる。聞こえる。どうしちゃったのまみり」

携帯に必死になって話しかけている石川の姿を見ながら、ゴジラ松井くんがはじめて言葉を発した。

「あれ、あれ」

ゴジラ松井くんの指さす方にはまみりが柔道着の下でばたばたと足をもがいている姿が見える。

「死んじゃう、死んじゃうわ。まみりが死んじゃう。松井くん、助けてあげて。助けてあげて。まみりは松井くんに憧れているのよ。それだけじゃない。松井くんはハロハロ学園のヒーローでしょう」

石川は松井くんの胸のあたりに顔を押しつけて泣き崩れた。そして銅像のように動かないゴジラ松井くんの胸をその非力な両手でどんどんと叩いた。

 どういう具合だかわからないが小川の乳房を密着させられていて呼吸困難に陥っていたまみりだったが片手が自由になって携帯に話しかけることが出来た。

「石川、何をやっているなり。げほ、ごほ」

「まみり、平気、今、松井くんに頼んでいるの。あなたの憧れの松井くんの目の前で死ねればあなたも本望でしょう」

「石川、げほ、ごほ、馬鹿丸出し。げほ、ごほ、スーパーロボを呼ぶなり。げほ、ごほ」

「まみりがそんなに言うなら呼ぶわよ。せっかくまみりと松井くんが仲良くなれるチャンスだと思ったのに」

「げほ、ごほ、そんなこと言っている場合じゃないなり、早く、スーパーロボ矢口まみり二号発進と叫ぶなり。十五メートルバージョンとつけくわえることも忘れないで欲しいなり。げほ、ごほ」

「まみりがそう言うなら、そうするわ。スーパーロボ矢口まみり二号、発進、十五メートルバージョン~~~~~ン」

石川りかは天井の宇宙の中心にでも叫ぶようにその叫びを発した。すると頭上に広がる青空の一角に灰色の点のようなものが見えた。その点はみるみる大きくなって有名な菓子やの前に立っている人形みたいなものが空からやって来た。そして地上に降り立ったのである。その怪物はカラオケやのウインドーの前とやじうまの前に降り立った。その怪物はやはり秘密パーティで貴婦人がするような仮面をかけている。そして巨大な腕を動かすとカラオケやのショーウインドーをぶち破り、その手で藤本や飯田たちを鷲掴みにした。その様子はまるで大魔人のようであった。

解放されたまみりはチャーミー石川が立っているやじうまの中に走って行った。

「この間抜け、なんで早くスーパーロボを呼ばないなり、それよりもなんで矢口くんの時計をしているなり」

「不良たちはどうしたの」

「今頃は足利の畑の中の肥溜めの中に浸かっているなりよ」

「本当、まみりをいじめた罰よ」

ふたりの会話をゴジラ松井くんがじっと見ている。

「松井くん」

まみりは石川の隣にゴジラ松井くんが立っているのを改めて気づいた。松井くんの姿を見るとまみりはなぜだか、涙があふれてきた。小学校のとき大好きな先生に叱られて頭をこつんとやられたときと同じ気持ちだった。

「まみり、まみりの言いたいことはわかるわ。なんで、助けてくれないのって気持でしょう。わたしは松井くんのことが大好きなのにってことよね」

まみりは涙目になりながら石川の横腹を肘でこづいた。石川は平気な顔をしている。するとゴジラ松井くんは

「きみは本当は強いんだろう。それに僕はハレンチ学園に入ったんじゃない」

そう言うとすたすたと歩いて行ってしまった。


 二階の自分の部屋に上がったまみりは自分の椅子に腰掛けながらハンドルのついた鉛筆削りをくるくると回す。この前、日光に行ったときみやげに買ってきた三角の金の刺繍をしたペナントが目の前に見える。本棚の上にはスピッツの白いふわふわしたぬいぐるみがこちらを向いている。

「まみり、ご飯が出来たよ」

階下からつんくパパの声が届いた。

「いい、食べたくないの」

まみりは誰にも会いたくなかった。

「まみりは、みじめな子になってしまったんだわ。だって失恋しちゃったんだもの。松井くんはわたしのことをやっぱり嫌っているのかしらなり」

今度は手鏡を取って自分の姿を映してみた。自分でも最近、女らしくなってきたと思う。前より胸の膨らみも出てきた。

「なんで、こんな美人をふっちゃうのかしらゴジラ松井くんは」

するとまた下の方からつんくパパの声が聞こえる。

「まみり、まみりが頼んでいたケータリングのピザが届いたんだよ。今、そっちの方にダンデスピークが運ぶから」

ピザと飲み物を持ってダンデスピーク矢口が上がってきた。

「おう、ご苦労なり」

矢口まみりはダンデスピーク矢口からピザを受け取った。そして一切れとるとダンデスピーク矢口に手渡す。白い毛むくじゃらの手でその動物は受け取るとむしゃむしゃと食べた。

 ダンデスピーク矢口は白い猿である。学術名はわからない。チンパンジーにもオラウンターにも天狗猿にも見える。しかし、確かなのは百才以上の年齢であるということだ。まみりが生まれたときにはすでにこの家にいた。そしてつんくパパが子供のときにもこの家にいたそうだ。

「ダンデスピーク、松井くんの気持をまみりのものにすることは出来ないかなり」

まみりがそう言うとダンデスピークはもう一切れ、ピザに手を伸ばしてむしゃむしゃと食べた。

 翌日、ハロハロ学園に登校した矢口まみりは探偵とあだ名されている高橋愛が石川りかと一緒に図書館の書庫の前で立っているのを見かけた。ふたりはカストリ雑誌の変遷という大きな本を広げて見ていた。

「まみり、探していたのよ」

まみりの姿を見てふたりは同時にまみりの方を見上げた。

「ふたりともこんなところで何をやっているかなり」

石川りかがただ開いていただけの本を閉じると棚にしまってまみりの方に手招きをした。まみりはその方に行く。書棚と書棚のあいだに挟まれている空間に三人は入った。

「まみり、探偵高橋愛がおもしろいものを見つけたのよ。これからそこに行かない」

「面白いものって何なり。そこに行ったら飯田たちが待ち伏せをしているなんていうのはいやなり」

「矢口さん、そうではありませんわ」

「そうではないって、どういうことなりよ」

矢口まみりが大きな声を上げたのでそこにいた上級生がしっと大きな声を立てないように叱責した。

「ここではまずいですわ。とにかく図書室を出ましょう」

まみりは探偵高橋愛に促されて図書室の外に出た。図書室もまるで北海道の農学校を思わせるような立派な建物だったが、ハロハロ学園は建物だけは立派だった。図書室の外には歩道に趣のある石が一面に張られている。

「内庭の外のところよ」

探偵高橋がまみりに言った。

「まみり、内庭の外がおかしいんですって」

石川りかも興味津々である。

 この学園の創立者が変わった内庭を作っていた。矢口まみりはそこに行ったことはない。ハロハロ学園のすべての生徒もそこに行ったことはない。創立者がどういう意図で建てたのかわからないが、私立の学校にはよくそういう施設があるようである。何かの歴史的意味があるのかも知れない。その内庭は赤レンガの壁で囲まれていて、その外側はさらに学園全体を取り囲んでいる赤レンガの壁で囲まれている。その二つの壁の間は数メートル離れている。

「みんなは駅を出て、学園の南門から登校していますわよね。わたしは北から南門の方にまわって登校していますの」

「へぇ、あんな方から探偵高橋愛は登校しているの。うちの学園でそんなコースから登校しているなんて探偵高橋愛ひとりだわよ」

矢口まみりもうなずいた。そのとおりである。ハロハロ学園の北側は深い川が流れていて断崖絶壁になっている。川の側壁が石垣になっていてその上に赤レンガの壁が続いている。深い川で断絶した向こうには墓場が広がっていてその方向から歩いて行くには墓場の中を歩いて行かなければならない。そんな物好きは探偵高橋愛しかいない。

「いつも、墓場の中を歩いてハロハロ学園にやって来ているのかなり。まるで墓場の鬼太郎みたいなり」

「みなさんには墓場の中を歩いて行くとき向こうに見えるハロハロ学園の靄にかすんだ爽快な姿を見る快感がわかりませんのよね」

「そんなもの、わからないなり」

「まみり、押さえて、押さえて。これから探偵高橋愛がおもしろいものを見つけたというんだから」

「何を見つけたなり」

「ハロハロ学園の外周になっている赤レンガの壁の一部がくさび型に壊れているのを見つけたんです」

「なんだ、そんなことなりか」

「まみり、それはあなたの過小評価というものよ。うちの学校は備品の破損なんかには相当厳しいじゃない。壁を壊されて黙っているなんておかしいわよ」

「そういうものなりか」

「そういうものなりよ」

「そこで現場に行ってみないか、チャーミーさんを誘ってみたのです。そうしたら、矢口さんも一緒につれて行くとチャーミーさんが言うんですの」

「探偵高橋さんの言うところによると学園長が生徒たちを近づけない内庭があるわよね。ちょうどその内庭の外側の壁に当たっているらしいのよ」

「内庭って何があるなりか」

「それは今、探偵高橋愛が調査中よ」

「内庭の中に入るのはむずかしいかも知れませんが内庭と外壁の間のところに行くのはむずかしくありませんわ」

三人は大きな竈のような焼却炉のある方に向かった。焼却炉は今さっきまで何かを燃やしていたらしく変な臭いがした。そこを通るとハロハロ学園の北側に行く。ハロハロ学園の敷地を半分にわけている赤レンガの壁にぶつかった。しかしそれは五メートルぐらいの石垣になっていてその上に赤レンガの壁が載っているのだ。その石垣の北のはじには階段がついていて上に上がれるようになっている。階段の下に行くと錆びた鉄条網で入り口は封鎖されていて、生徒は入るべからずと立て札が立っている。しかし、鉄条網は錆びて壊れていた。

「わたしは入っていくつもりですわ。お二人はどう」

「わたしはもちろん、入って行くわよ。まみりも行くわよね」

「高橋の物好きに矢口もつき合うなり」

入り口は壊れていて階段を上がっていけるようになっていた。人が一人上がって行けるような狭い幅の石の階段だった。しかし、高さは五メートルぐらいある。階段の上のところの門は壊れていない。しかし、簡単に乗り越えられる程度の高さだった。探偵高橋愛が、それから石川りかが最後に矢口まみりがその鉄の門を飛び越えた。その中庭の壁と外壁のあいだには特別なものはない、下にはコークスの殻が一面にしかれ。くぬぎや楢の雑木が生えている。中庭を囲んでいる壁は三メートルほどの高さがある。外壁の方はまみりの通学路と同じように二メートルぐらいの高さしかない。

「あっ、あれを見て」

何もないと思っていたその場所の異常を石川りかがみつけた。それはまみりの視野の中にも入っていた。

「あれですわ。墓場を歩いているときに見たのは」

外壁の一部が確かにくさび型に壊れている。崩れた赤レンガの側面が見える。三人はその現場のそばに行った。

探偵高橋愛は現場検証を始めた。まみりも石川もそのあたりを見てみる。まみりはその壁の崩れたところに行くと向こうの方に探偵高橋愛がいつも通っているという墓場が見える。さらに近づくと絶壁になっている川底が見える。川にはとうとうと水が流れている。矢口まみりは壊れた壁の隙間から首を出して川底を見るとくらくらとした。

探偵高橋愛は赤レンガの壁の崩れた壁の側面をじっと見ている。

「おかしいと思いませんか」

「なにが、なにが」

石川りかが首を伸ばして探偵高橋愛のそばに顔を持って行った。

「この断面を見てください。まだ新しい。そして毎日わたしがこの壁を見ながら見ているのに壊れていなかった。少なくとも一昨日までは私はこの壁があるのを知っていた。そして今日の朝、墓場から見たとき、ここがくさび型に壊れているのを発見したわけです。ということはこの壊れた赤レンガの破片が見つからないということはおかしい。つまりこれがどういうことだかわかりますか。チャーミーさん」

「わからないわ」

「これを壊した何かが壊れた赤レンガを全部持ち帰ったという可能性があります。そしてもうひとつ、この内側から外に向かって何かが突進して行ったということも」

探偵高橋愛は絶壁の下に広がる川の流れを見ながら深々とため息をついた。

「壊れた赤レンガの破片は川に落ちて行ったということも考えられます」

「なるほど」

石川りかが感心してつぶやいた。

「何がなるほどなり、そんなことは少し考えればわかるなり。チャーミーの単細胞」

矢口まみりはあほくさくなってあたりをぶらぶらするとならの木の根本のところにソフトボールぐらいの大きさのきらりと光るものを見つけた。まみりがそばに行って拾い上げてみると大きな金で出来たペンダントだった。しかしついている鎖はちぎれている。そしてペンダントの表面には何か彫ってある。それに気づいたふたりが矢口まみりの方にやって来た。

「まみり、何を見つけたの」

「これ」

まみりは石川にちらりと見せた。

「まあ、金じゃないの」

「真鍮かもしれないなり」

「ちょうだい、ちょうだい。一生のお願い」

「ふん、どうせ、お前は質屋に売るつもりなり」

「へへへ、ばれたか」

「ちょっと見せてくださる」

横から探偵高橋愛が首を突っ込んだ。

「何か彫ってありますわよね」

「本当、まみり」

しかし、三人ともその文字らしいものがなんであるかはわからなかった。

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