電人少女マリ
@tunetika
第1話
第一回
登場人物
矢口まみり 私立ハロハロ学園に通うぶりっ子、トランジスターグラマー
矢口つんく 街の発明家、夢遊病者
モーニング娘っ子 不良 矢口まみりの同級生
ダンデスピーク矢口 矢口家で飼っている三百年間生きている猿
ゴジラ松井くん 落ちこぼればかり集めたハロハロ学園のヒーロー、ハロハロ学園内の不良女たちにモテモテ
富家多恭子 ゴジラ松井くんの母親。むかし、矢口つんくと恋愛関係にあった。
警視庁刑事 王沙汰春 むかしナボナのコマーシャルをやっていた。正論を言うが誰からも相手にされない。この男の同類で長縞重尾というのがいるが、この男の名前が出てくると今だに涙ぐむ馬鹿がいる。馬鹿の代表(狂言役者、徳光ぶす夫、ぶすを演ずるのが得意)
ハロハロ学園
赤煉瓦で出来た校舎だけは立派な学園、私立ハロハロ学園は知らない人が見れば、ちょっと見にはまるで国の由緒ある記念的建造物のようである。感じとしては東京駅を小さくしたように思われる。校舎の真ん中にはヨーロッパの中世の町並みにあるような針がこったかたちをしている時計台が立っていて、校庭も赤煉瓦の壁で覆われている。赤煉瓦の壁の外にはプラタナスの並木が続き、秋になれば恋人たちが寄り添って木の葉の敷き詰められた歩道の上を散歩をするのがふさわしい。
しかし立派なのは校舎だけでその内実はともなっていなかった。このハロハロ学園に通って来る高校生はどの高校からも入場を拒否されたものたちばかりで、落ちこぼれの集団だったのだ。この学園には入学試験はなくてただ試験のときに答案用紙に名前を書けばいいだけというだけのお粗末さで、入学金さえつめば誰でもこの学園の門をくぐることが出来たのだった。それも正規の入学金は一万円ぽっきりでどうにもはしにも棒にもかからない生徒だけがやって来て、それに諸雑費の一万円を積むと入学を許された。
こんなべらぼうに安い入学金でも生徒が集まらないのは若年人口の減少ということもあったが、この高校を出るということが恥にはなってもどこででも誇ることが出来ず、就職や進学をするときにはあのハロハロ学園と聞いただけで採用担当者が眉をしかめるという渋い現象が実像だったからである。
このハロハロ学園の三階の三年馬鹿組の教室で落ちこぼれたちが授業を受けていた。
まだ二十代半ばの井川はるら先生が黒板の前に立つとチョークをとって花の雄しべと雌しべの縦割りにした図をすいかの三倍よりも大きな図で描いた。
「それではこの花の雄しべに当たっているものは人間の男性でいうと何に当たっているのでしょうか」
井川はるら先生はねっとりした目で教室内の生徒たちを見回すと、ある女子生徒のところでその視線は釘付けになった。
「やっぱり、当てたよ。当てたよ」
「やっぱり、はるら先生のお気に入りのまみりに当てたぜ」
男子生徒たちは声を潜めて苦笑していた。
しかし、女子生徒のまみりに向けた瞳には憎悪の炎が宿っていた。とくにこの教室にいる落ちこぼれの最右翼、不良集団、モーニング娘っ子たちの表情には険しいものがあった。まみり、本名、矢口まみり、背が低い、いわゆるトランジスターグラマーだが、最近、女っぽくなってきた。井川はるら先生のお気に入りの生徒であるが、本人にはその深い意味はわからない。
「質問をされたら、まず立ってちょうだい」
そう言われて、矢口まみりは席を立った。井川はるら先生は自分の楽しみのために矢口まみりひとりを立たせた。しかし、その意味を本人はわからない。でもほかの生徒たちは知っている。
「まったく教室をなんと心得ているのかな。教育者としての自覚が足りないんじゃないかな」
男子生徒が下の方でぼりぼりとつぶやいた。井川はるら先生はそんなことにも頓着しない、ただ自分の欲望のままに従って矢口まみりを立席させて矢口まみりと対面している。この教室の中で井川はるら先生は矢口まみりとただの二人きりである。矢口まみりは自分が何で立たされたのかわからなかったが、井川先生はやっぱりじっとまみりを見つめている。先生の楽しみのためだけにこの教室の時間が使われ、ほかの生徒たちは辟易していた。
そんなことにおかまいなしに井川先生は雄しべの断面図の上をチョークでたたいた。
「矢口さん、これが男性のどこの臓器に当たっているかわかりませんか。答えてちょうだい」
矢口まみりには、それが何であるのか、わかっていた。でも、なんでこんなところでそんなことを答えさせるのだろう。井川はるら先生はきれいな人だが、ちょっと変だと思った。 そのとき、この教室の中でも少し異彩を放っている生徒が急に挙手した。
他の男子生徒と比べると一倍半ぐらい、身体が大きい。まるで巨人である。そしてどう見ても高校生には見えない。偉人のようでもあった。
「先生、矢口さんにそんなことを答えさせるのは可愛そうです。それは男性のREPURODUCTIVE ORGANです。答えがわかったんだから、座ってもいいでしょう。矢口さん、座れば」
矢口まみりはちらりと男子生徒の方を振り返って、また井川はるら先生の方を見た。井川はるら先生の瞳の中には一瞬、炎のゆらめぎがあった。
「ゴジラ松井くん、あなたとはライバルになりそうね」
すると男子生徒は照れくさそうに後頭部を掻いて青春スターのよう座った。
ライバル、矢口まみりにはなんのことかわからなかった。ライバルってどういうことかしら。そしておもしろいことには不良少女たち、モーニング娘っこたちの矢口まみりに向けられた嫉妬の炎がこの男子学生が発言したときさらに高まったことである。
この男子学生の名前はゴシラ松井くんという。この落ちこぼればかりが集まっているハロハロ学園に奇跡が起こった。ゴジラ松井くんは中学を卒業するときにすでに虚人軍から入団のオファーがあった。しかし、なぜだかわからないがこの最低の学園に入学して来たのである。
そしてこの学園のヒーローになった。すべてのハロハロ学園の女の子はゴジラ松井くんにメロメロである。この学園の中でも最低の連中であるモーニング娘っこたちは自分をふりかえる反省もなく、ゴジラ松井くんにメロメロである。
しかし、ゴジラ松井くんは意中の人がいるのだろうか。そのことを言わないが、矢口まみりに好意を持っているようなないような、なかなか本心をうち明けない。矢口まみりはこの学園に入園したときからゴジラ松井くんを好ましい人と認めていた。
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