運命かもしれない二人。

@pipiminto

不器用なうちら



まだ10月だと言うのに、外はマフラーをしたいほどに寒い。去年のこの時期はまだ暖かかった気がするのに。



「マヤは今年どーすんの?」


「今年ー?」


「ハロウィン。」


「あぁ。」



真緑のパーカーに黄色いワイシャツ、ブルーのジーンズの彼はトウマ。出会ってから三年、毎年ハロウィンはトウマと過ごしていた。


ワタシはレズでトウマはホモ。同性愛者同士の不思議な友情は意外と長く続いている。


悩みなんかも似てて同性の友達といるときよりよっぽど心地良い。それは秘密を共有しているからかもしれないし、単なる仲間意識かもしれないけどどうでもよかった。



「うーん、赤ジャージでも着てあの夕陽に向かって走ろうかな。」


「ナニソレなつかし!じゃあ俺学ラン着てリーゼントで追いかけるわ!」


「リーゼントなの?」


「そう、頭にひよこ乗っけて。」


「…アフロじゃなくて?」


「いいじゃん!リーゼントでも!」



なんてくだらない話をしながら掌サイズのキャンディを舐めた。



「つーかすっごいね、それ。」


「アヤコが夢の国のお土産にくれた。」


「へー、夢の国。いいね。」


「彼氏と行ったんだって。」


「そっか。」


「うん。」


「マサルも今度彼女と海の方行くっつってたなぁ。」


「はは。」



思わず渇いた笑いが溢れた。トウマもつられたようにハハッと笑う。少しも楽しくなんかないくせに。



「うちらはメルヘンの国にでも行く?」


「いいねえ。って俺メルヘン興味ねえよ!」



ケラケラと上っ面だけ笑いながら大きいだけで美味しくもないキャンディをかじる。


大きすぎるそれは一向に減らない。舐めたところが粘着質になって手首がキャンディの重さで疲れるだけ。食べてるんだから重みは減るはずだけど増えてるみたいに感じた。


まるでうちらのキモチみたい。なんて痛いことを考えた。


ずっと舐めてると舌がヒリヒリしてきて痛いのになぜか止められない。


甘いのに、痛くて。


痛いけど、欲しい。



「マヤ、結婚しようか。」


「…いーよ。」



トウマと出逢ったのは憎々しいくらい夕陽が綺麗な夏の日だった。


河原でひとり、やけ酒をしていた18の夏。通り掛かったトウマに声をかけた。


ワタシはその日親友(と彼女は呼ぶ)のアヤコに彼氏ができて落ち込んでいて、トウマの方も数日前に同じ想いをしていた。


お互い今まで誰にも話したことがなかったキモチをあっさりすぎるほどあっさり吐き出した。理由は主にワタシが泥酔していたせいだと思うけど。


キモチを伝えて傍にいれなくなるのなら伝えない。絶対に伝えない。でも、幸せな姿も見たくない。


そう言って泣きじゃくったワタシの頭を抱き寄せて『うん、わかる。』と泣きそうな声で言ったトウマはワタシより3つも年上なのに、年下みたいだった。泣きじゃくってた奴に言われたくねーよって言われそうだけど。


そんな出逢いはある意味運命だったと思う。


トウマからの突然のプロポーズに、驚きはしなかった。


トウマの好きな彼が婚約した話を聞いてからずっと。こうなることを予感していた。


別に愛し合ってなんかない。それでも、誰にも言えない秘密を抱えたうちらは、お互いと一緒になるのが一番いい。



「よし決めた。ワタシ花嫁さんになろう。ゾンビの。」


「じゃあ俺リーゼントの牧師になるわ。」



何事もなかったようにハロウィンの話を再開させたうちらは次の日婚姻届をもらってきて、さらにその次の日にはお互いの両親への挨拶もした。


友達としてすら紹介しあっていなかったうちらにどちらの両親も反対したけど、もう決めたんだ、と言い切った。


友達も驚いていた。もちろんアヤコも。あんた男に興味あったんだ、なんて笑って言いながら。


人生で一度も恋人を作っていないうちらは婚約した。指輪も甘い言葉も何もない婚約。


うちらは一週間後、夫婦になる。


何故だかはわからないし、とても不幸な二人だけど、一緒ならきっと、やり過ごせる。苦痛も苦悩もやり過ごして、そこそこ楽しく、笑って暮らせる。


たぶん、“普通の人”みたいに。





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