第四話 大丈夫ッスか!? コレ、港町で買ってきたクスリッス! 飲めば一発で元気になるって聞きました!


 この世界に自分の店を持つ。

 そのために、どんなことでもやって資金を稼ぐ。


 そう宣言したケンジは、翌日からさっそく動き出した。


 ケンジの胸元に光るのは、転移石が入ったネックレスだ。

 もっとも、今回、異世界案内人のカイトとエリカはケンジと一緒に行動している。

 どうやらケンジは「つきっきりのフルコース案内」を希望したらしい。


 ケンジは体の前と後ろに木の板を下げて、さらにプラカードを持って、港町を練り歩いた。


「ぱーりらっぱりらっぱりら求職! ぱーりらぱりらでなんでもやります!」


 どこかで聞いたメロディの歌を繰り返しながら。


「ケンジくんはやる気満々ですごいですね、カイトくん。これならお仕事もすぐ見つかりそうです!」


「……そうか?」


 エリカはニコニコと笑顔で、カイトは「頭が痛い」とでも言いたげな顔で、練り歩くケンジのあとをついて歩いていた。

 ケンジが宣伝歩行者となって港町を練り歩き出してから小一時間。

 仕事の依頼はまだない。来るわけない。


「よし、エリカ。俺は稼げそうな手段を探してくる。ケンジについてやっててくれ。恥ずかしければ離れた場所からでも――」


「え? 恥ずかしい、ですか? 元気でいいと思いますけど?」


「あっはい。じゃあよろしくお願いします」


「はいっ!」


 どこか不安な二人を置いて、カイトは一人で行動することにしたようだ。

 依頼人の望みを叶えるために。


 以降、カイトが情報を集め、カイトとエリカの協力でケンジが働き、開店資金を集めることとなる。

 今回の異世界体験は、三人とも慌ただしいものになった。



 東に病気の子供あれば行って薬を届けてやる。


「大丈夫ッスか!? コレ、港町で買ってきたクスリッス! 飲めば一発で元気になるって聞きました!」


「ありがとうございますありがとうございます」


「ねえ待ってそのクスリ大丈夫なヤツ? 最近いろいろあって厳しいんだけどそのクスリって大丈夫なヤツだよな?」


「薬草を煎じた、この世界では一般的な薬です。問題ありませんよ? 何を焦ってるんですかカイトくん?」



 西に疲れた母あれば行って薬を届けてやる。


「大丈夫ッスか!? コレ、港町で買ってきたクスリッス! 飲めば一発で元気になるんスよ!」


「いつもすまないねえ。これはお代だよ。危険な仕事だ、ちっと色をつけといたからね」


「なあこれ運び屋になってない? いつもすまないって俺たちは初対面だったよな?」


「うーん、記憶がボヤけてるのかもしれません。きっとあのおクスリで元気になります!」


「なにそれ不安しかない」



 南にモンスターが出たと聞けば、行って「怖がらなくてもいい」と言う。


「俺が来たからにはもう大丈夫ッス! オラァ!」


「助かりました! 素手でスライムの群れを討伐するとは、名のある戦士さまなのでしょう! 報酬はしっかり払います!」


「あー、ケンジは素手でスライムを掴んでもケガしなかったもんなあ。レベルとスキルとステータス値がなくても、ちゃんと【身体強化】されてるか」


「わわっ、腰が入ってないパンチなのにスライムが破裂してます! きゃっ、破片にも溶かす力が残ってて大変ですカイトくん助けてください!」


「油断しすぎだろ『魔法の天才』。ほんとにわざとじゃないんだよな?」



 北の海にモンスター襲撃情報があれば、「やめろ!」と釣り上げる。


「みんな怖がってるし、肉も皮も骨も牙もいい値段になるって聞いたッス! うりゃあ!」


「おおっ、海を荒らすモノセロスイッカクが一網打尽に! コイツは豪気だぜ!」


「モンスターを討伐して素材を売り払う。やっと異世界っぽい仕事か」


「えー? ケンジくんはずっとこの世界の仕事をがんばってましたよ、カイトくん」


「まあそれはそうなんだけども。本人も満足してるしいいけども」



 カイトの転移で東奔西走して、この世界に来ることでもたらされたケンジの【身体能力】で仕事をこなし、ケンジは荒稼ぎした。三人は荒稼ぎした。

 ケンジの存在は瞬く間に港町のウワサとなった。

 以来、港町で職を探す者は「ぱーりらっぱりらっぱりらっ」と奇妙な節をつけて歌いながら歩くようになった、のはまた別の話として。



「へへ、けっこうあっさり貯まるもんスね! ありがとうございまぁす、カイトさん、エリカちゃん!」


「ふふっ、ケンジくんががんばったからですよ。ね、カイトくん?」


「ああ、仕事を見つけて提示したのは俺でも、実行したのはケンジだ。礼を言う必要はないぞ、俺たちは『異世界案内人』だから」


「それでもッスよ! ありがとうございまぁす!」


 第4196z世界線 zsdc星、ストラ大陸セレナ神国の小さな港町。

 粗末な宿の一室、木のテーブルを囲んで。

 ケンジは、積み上げた硬貨を見て目を輝かせていた。


 高級店を出すには足りない。

 思い描くすべての内装を叶えるにも足りない。

 そもそもこの異世界では、ケンジの思い描く内装を作り込めないだろう。


 それでも。


「これで……これで、俺の店がオープンできるんスから!」


 石と魔法で作られた簡素な建物を借りて、ささやかに営業をはじめる程度には足りる。デクノボーと呼ばれることはない。


「へへ……よっちゃん。俺はこっちで、一足先に夢を叶えるッスよ!」


 『自分が必要とされて、夜のお仕事の理想を叶えられる世界』に案内されたケンジの、夢の第一歩。

 この世界初の「ホストクラブ」の開店は、間近だった。


「なあケンジ、ところでその、よっちゃんって誰だ?」


「よっちゃんは俺の地元のダチッス! ギターがすっげえうまくて、そんでよっちゃんはバンドで、俺はカブキチョーで、それぞれビッグになろうなって約束したんスよ!」


「わあ! すごいです、青春ですぅ!」


 よっちゃんはバンドマンの夢追い人であるらしい。

 エリカは男と男の約束を聞いて、きゃっきゃと喜んでいる。無邪気か。


「へえそうか。うん、叶うといいな。ケンジも、よっちゃん? も」


 他人事か。

 いや、依頼人のケンジはともかく、カイトにとってよっちゃんは他人だ。

 冷めた言い方になってしまうのは当然だろう。

 がんばれよっちゃん。


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