第五話 ボクが、勝って……初めて、ボク何かやった気がする……


「嘘だろこんなん知らねえぞ! なんだこれくそっ!」


 冒険者ギルドの訓練所の地面から、ボコボコとゴーレムが創り出される。

 最初に創造されたゴーレムと必死に戦っていた冒険者は悲鳴じみた声をあげた。


「すごい……これをボクが……これが『無属性魔法Lv.MAX』……」


 異世界にやってきた元・普通の高校生、ショウは、夢見心地で五体のゴーレムを眺めている。


「まあ、自由がきくんだったらこうなるよなあ。むしろ武器を持ってないだけ穏当かな?」


「初めてなんですから、ショウくんがこれから工夫していきますよ! いまは充分だと思います!」


 新たなゴーレムの創造を受けて、大剣を持つ冒険者の相手をしていたゴーレムの挙動が変わる。

 攻撃から防御主体へ。

 足止めを優先して、新入りゴーレム四体の到着を待つらしい。


「おいおいおいおい、なんだありゃ。命令されてねえのに軍隊みてえな動きを」

「モンスターだってあんなんできねえぞ。固定パーティの冒険者ぐれえで」

「あれほんとにゴーレムか? 中に人でも入ってんじゃねえの?」


 無属性魔法〈ゴーレムメイク〉は、この異世界ではそれなりに知られている魔法だ。

 ただし、ゴーレムは鈍重で、戦闘は「魔物の群れに突っ込んでめちゃくちゃに腕を振りまわす」ぐらいしかできないと思われていた。

 そのわりに魔力の消費量が多く、安全な街中での工事や、護衛付きで街道整備に使うのがせいぜいだった。


 攻撃用の〈ショット〉は弱く、防御用の〈シールド〉は属性を乗せた魔法を防げず、便利魔法の〈ゴーレムメイク〉はたいして使えない。

 これまで、『無属性魔法』は役立たずの不遇魔法だったのである。


 チートを得たショウが現れるまでは。


「ちっ、しまっ、ごふっ!」


 ショウに絡んだ冒険者は健闘していたが、連携が取れた五体のゴーレムに囲まれてはなすすべがない。

 刃を潰した訓練用の大剣は折られて、ゴーレムに腹パンされた。

 体をくの字に折り曲げた冒険者をゴーレムが拘束する。

 腕を一体ずつが抱えて、もう一体が背中側に張り付く。

 残る二体は腕を引いて止まった。

 うしろにいるショウを振り返る。

 どうします? こいつやっちゃいますか? とでも言わんばかりに。


「えっと、それはちょっとやりすぎなような」


 意思がないはずのゴーレムの視線を受けて、ショウは審判役のギルド職員に目をやった。


「そこまで! 新人の勝ちだ!」


 ギルド職員は逆の展開を予想して「やりすぎは止める」と言ったはずだ。

 それでも、きちんと形勢を見届けてショウの勝利を宣言した。


「おめでとう、ショウ」


「やりましたねショウくん!」


「ボクが、勝って……初めて、ボク何かやった気がする……」


 異世界案内人のカイトとエリカに祝福されて、ショウは勝利を噛みしめる。

 だが、ほかに祝福も歓声もない。


 顔をあげたショウは、審判役を務めたギルド職員と目が合った。


「コイツはこれでもDランク冒険者だ。それに勝つとはなあ。本来、新人はFランクからなんだが……特別に、Dランクにしてやろう」


「その、いいんですか?」


「俺がここのギルドマスターだからな。文句を言うヤツはいねえよ」


 飛び級の認定を受けて、ショウは小さくガッツポーズする。五体のゴーレムは直立不動だ。

 ただやはり、訓練所は静かだった。

 ひそひそと、さざめきのような声が交わされるだけで祝福はない。


「なにもんだアイツ……こんな『無属性魔法』見たことねえぞ」

「アレが魔族ってヤツなんじゃねーの?」

「魔族なんて存在しないって王都のお偉いガクシャさんがお触れだしてたろ」

「ちっ、模擬戦一発で新人が俺より上のランクかよ。気に入らねえな」

「どうせすぐ魔力切れしてダンジョンじゃ役に立たねえだろ」


 一癖も二癖もありそうな冒険者たちは、ショウを遠巻きに眺めるだけだった。

 ダンジョンは死が身近なものだ。

 この迷宮都市で冒険者になる者は、命知らずで粗暴な人間が多いのかもしれない。

 明らかに育ちが違うショウを、異物を、簡単には受け入れられないらしい。嫉妬もあるのだろう。


 勝利したのに好意的ではない男たちの視線に、ショウは戸惑っている。


「はあ。今回の案内も前途多難なようで」


「がんばりましょうね、カイトくん!」


 目の前の光景にカイトは一つ大きなため息を吐いて、エリカは「やる気ですぅ!」とばかりに両手を握った。



 第6587m世界 mdagy星で、異世界案内人のお仕事は続く。




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