92 後日談 其の二の巻き


「じゃ、そういうわけで、俺は帰ります!」


 そう言いながら、獲物を見る目で見ていた藤子から、本気の逃走をしようとした半荘。


「ぐっ……」


 しかし、驚異的な瞬発力を誇る半荘より、素早く動く藤子。

 回り込まれて、ソファーから立たせてももらえない。

 さらに半荘は首に手を巻き付けられて、力任せに押さえ付けられてしまった。


「そんなこと言わずに~」


「ヒ~~~!!」


 甘い声で、耳をハムッと噛まれた半荘は、全身に鳥肌を浮かべて悲鳴を出した。


「も~う、そんなにおびえないでよね。嫌がる子をレイプなんてしないわよ~。だから、望んでしてちょうだ~い」


 驚異的な筋力を誇る半荘が暴れても、子供の様に扱う藤子。

 半荘の膝の上に座り、首に腕を巻き付けて拘束する。


「や、やめ……腰を動かすな~」


「やる気を出させてあげてるのに、元気ないわね~」


 拘束するだけでなく、膝の上でクネクネする藤子に、半荘の半荘は動く気配がない。


「一億とヤッてる何百年生きてるかわからない妖怪ババアに反応するか!!」


「妖怪ババア……」


「あ……」


 半荘の失言。

 藤子は、先ほどまでのにやけ顔から、生気の抜けた表情に変わる。

 「妖怪ババア」は藤子の禁句だったようだ。

 そのせいで、絡まった腕の締め付けがキツくなり、半荘はギブアップタップして藤子の腕を叩き続けるが、まったく緩めてくれない。


「半ちゃんには、再教育が必要そうね……」


 再教育イコールただの拷問。

 藤子の絶妙な拷問は、死ぬ事さえ許されない。

 何度も受けた事のある半荘は、絶望の表情を浮かべる。



 三根藤子という女は何者か……


 先に半荘が述べた通り、何百年……それどころか千年以上、生き続ける化け物。

 その昔、嘘かまことか人魚の肉を食べた事で不老不死となり、遠い昔から天皇家を守る「菊」のトップとして君臨していた。

 この女こそが、天皇陛下に解散させられても「根」を再興させた異常者。

 「根」の活動内容は、遠くから天皇陛下を見守るだけなのに、何かあった時のための兵器開発や、戦闘訓練を強制的に半荘達にさせている。

 藤子に表立って悪口の言えない半荘は、死なない事を揶揄やゆして「不死子」と呼んでいるのだ。



「す、すみませんでした! でも、不死子さんは、俺の師匠であり、お母さんみたいな人だから、反応したりしないんです! だから勘弁してください!!」


 半荘の涙ながらの謝罪を聞いた藤子は、ようやく力を緩めてくれた。


「もう! お姉さんでしょ~。あなたは試験管から生まれたんだから、親は居ないって教えたじゃない」


 「ピンッ」っと藤子が半荘のオデコを指で弾くと、「ドゴンッ」と有り得ない音が室内に響いた。


「陛下の件もあるし、今回はこれで許してあげるわ」


 半荘グロッキー状態。

 口から魂が飛び出ている。


 科学の粋を集めた試験管から生まれた超人半荘に、これほどのダメージを与えられる生物は数えるほどしか居ないので、藤子の人間離れした力は、神の粋に達していると言わざるを得ない。


 その半荘の正体は、いみじくも韓国が主張した通り、改造人間……

 いや、神をも怖れない藤子が作りし、人の形をした生物兵器なのだ。


「あとは~……韓国がどうなったか、知りたいでしょ~?」


「………」


 半荘は気絶中なので返事は無い。

 だが、睡眠学習をマスターしていると知っている藤子は喋り続ける。


 韓国は現在、荒れに荒れて大統領不在中。

 事の発端は、門大統領の辞任劇から始まった。


 辞任会見を開いた門大統領は、常に独島を取り戻すために戦ったと台本を読み上げ、最後に負けた責任を取ると言って、腹にナイフを突き刺した。

 大統領自決という前代未聞の辞任劇に、会見場は騒然となる。

 その騒ぎの中、倒れて病院に運ばれた門大統領の代わりに側近が会見場に現れ、独島奪還の記録を一部を除いて発表した。


 その結果、常に韓国のために動いていたと国民は知る事となり、同情は集まったが、それでも嘘が多かったので、辞任は避けられなかった。

 しかし、刑事訴追は免れるかもしれないとなっている。


「まぁ腹切りもパフォーマンスだったようね。だって突き刺しただけよ? そんなの縫えば終わりじゃな~い。本気で死にたかったら、三回は腹を掻っ捌かないとよね~」


 物騒な事を、おばちゃんが世間話をするみたいに喋る藤子であったが、半荘はいまだに目を覚まさないのであった。

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