91 後日談 其の一の巻き


 モゾモゾハァハァしている三根藤子を、しばらくため息を吐いて見ていた半荘は、本題に戻させる。


「はぁ……さっさと仕事の話をしようぜ」


 「ハァハァ」言っていた藤子は、うっとりした目のまま甘えた声を出す。


「その話はまだ早いわ~。もう少し焦らしましょうよ~」


「いや、そのために呼んだんだろ」


「もう。せっかちね~。竹島を取り返したあとの話、聞きたくないの~?」


「そうだ! 文句を言いたかったんだ!!」


 色っぽく尋ねる藤子に、半荘は言いたい事を思い出したようだ。


「文句~? それもいいわね~」


 怒りの半荘とは違い、藤子は嬉しそうにする。


「計画では、竹島の近くで船から落ちるだっただろ? なんで初日に爆破なんだよ! しかも、コーヒーにクジラでも眠る睡眠薬を入れやがって!!」


「あはは。計画には変更が付き物なの~」


「笑うな! マジで死にかけたんだぞ! 竹島に着いたのだって奇跡だからな!!」


「韓国の駆逐艦が航路に居たから仕方なかったのよ~。だから船は用意したじゃな~い。半ちゃんなら必ず竹島に着くって信じてたわ~」


 甘えた声を出す藤子は置いておこう。


 実は、忍チューバ―による竹島奪還の真相は、秘密結社「根」による作戦であったのだ。


 全てが藤子による筋書き。


 このために半荘を育て、仮の経歴を用意し、ボロが出ないように一人の時でも演じるように言い、忍チューバーとしてデビューさせ、クルーザーに乗せた。

 そしてボロ船を用意し、竹島を占拠させ、半荘にWi-Fiを使えるとメモを渡すおっさんを用意し、時間通りに韓国軍をハッキング。

 海上自衛隊にポケットWi-Fiを届けるように助言し、逐一連絡を取り、海自の助けをわざと潰させ、韓国をおとしめるために長く滞在させた。

 さらに戦争が起こりそうになった場合は独立させ、韓国艦隊の戦力を削ぎ、日本艦隊が無傷で竹島に上陸できる道筋を作ったのだ。


 もちろん装備も支給している。

 特殊ワイヤー、頑丈な忍装束、忍刀、クナイ、手裏剣型小型爆弾、ナイフの切れ味を増す強化塗料、などなど。

 これらは「根」の科学力の粋を集めて作られたので、世界トップレベル。

 いや、遥かに凌駕する代物だ。


 ちなみに、もしものための脱出手段の潜水艦を、竹島から東の位置に潜ませていたのだが、出番は無かった。



「それに、彼女候補を用意してくれるって言ってたじゃないか! なんで工作員なんだよ!!」


 どうやら半荘は、この事に一番怒っていたようだ。

 半荘に言い寄ってくる女は金目当ての女が多かったので、究極の状態に置いて恋心を抱かせ、半荘に惚れさせる。

 それが叶わなかったので、半荘は涙目で怒っている。


「あら? 美人な子を用意したじゃない。半ちゃんの好みだったでしょ?」


 ジヨンも、藤子の作戦に組み込まれた駒のひとつ。

 と言っても、ちょうど竹島案内人に就いていたので、労せず用意できた。

 あとは同僚を船に乗せなければジヨンが残ると予想は付いていたので、同僚は乗船直前に毒を持って排除したのだ。


「顔は好みだったけど、性格は最悪だ! もっと普通の子を期待してたんだぞ? それがなんだ! 一度、毒を盛ったメシを食べさせられたんだからな。それに、絶対俺に惚れるわけがない」


 半荘の好みのタイプであったのだが、毒を盛るような工作員は愛国心がありすぎて、ノーサンキューのようだ。


「もったいない。あの子、かなり韓国から出たがっていたのよ? 結婚してから惚れさせればよかったのに」


「どこがだよ! 竹島に自分の墓を建てようとしてたじゃないか!!」


「半ちゃんも、ジヨンちゃんの結婚式に出席してたじゃない。無理矢理にでも結婚の約束をしてたら、隣に立ってたのは半ちゃんだったのよ」


 ジヨンは竹島を出た後、ジャスティスとスピード結婚している。

 どうも、クノイチとして半荘の隣に居た事と、凄い夜のテクニックの持ち主だったので、ジャスティスのハートを射止めたらしい。


「俺には無理だ。あんな何人もの男を抱いている女は……」


 ジヨンの過去を知らないのに、半荘の童貞センサーは何かを感じていたようだ。


「調べたところ、そこまで多く無いわよ?」


 ジヨンの過去は、「根」によって調査済み。

 現場に居た半荘には教えていなかったが、過去を全て洗い、ハニートラップで活躍したと調べあげている。


「そこまで多く無いって、不死子さんに比べてだろ?」


「私? 私と比べたら1パーセントも無いから、生娘同然よ~」


「桁が違うから! 不死子さんは、億は行ってるだろ!!」


「あら~ん。褒められたちゃった。でも、さすがに億には届いていないわ」


 単位が億と聞いても喜ぶ藤子に、半荘はため息を吐きながら呟く。


「はぁ……せっかく童貞を卒業できると思ってたのに……」


「あらん? それならそうと言ってくれたら、いつでも相手になるわよ~ん?」


「うっ……勘弁してくれ~~~!!」


 舌舐めずりして目を輝かせる藤子に半荘は恐怖し、情けない声を出すのであった。

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