89 ドロンの巻き


「キャーーー!!」


 天高く舞う大凧おおだこに乗ったジヨンの悲鳴が轟く。


 何故、このような事態になったのか……


 半荘は、ジャスティスに【大凧の術】を使う旨のお願いをしていた。

 ジャスティスも新しい忍術が見れるとノリノリで了承し、半荘の投げたクナイに結ばれたワイヤーを船に巻き付けていた。

 ジヨンを亀甲縛りにして安全を確保したあと、ジャスティスに発進するように連絡を取り、船が進む力を使って大凧にて飛び立ったからには、ジヨンは恐怖で悲鳴をあげる事となったのだ。



「おお~。久し振りだけど、上手く行ったな~」


 半荘の暢気のんきな声は、世界中の視聴者に届き、称賛する声で溢れている。


 大凧の角に付けたカメラが、竹島を上空から捉えていたからだ。

 まさか人が凧に乗って飛ぶとは思っていなかったようで、そんな映像を見たからには、視聴者の興奮は覚めやらない。


 しかし、同乗者は違う。


「ちょっと! いつまで空を飛んでるつもりなの!!」


 身ひとつで凧に乗せられたジヨンはたまったものじゃない。

 現在はジャスティスの乗る船に引かれて順調に空を行くが、ジヨンの苦情が入った。


「それがさ~。どうやって降りるか考え中なんだよ」


「はあ!?」


 半荘の発言に、ジヨンは怒りのこもった声を出す。


 【大凧の術】には協力者が必須。

 以前使った時は、父親が軽トラで引き、ロープは半荘側で巻けるような使用になっていた。

 しかし封印した事で準備をおこたり、ワイヤーを引く機能が付いていない。

 いや、あるにはあるのだが、巻く力が弱すぎて、現状で使うと一発で壊れるのだ。


「ジャスティスに引いてもらえないか聞いてみるよ」


「ちょっと! どこさわっているのよ!!」


「へ、変な事を言うなよ!」


「なに? 固いものが当たってるんだけど!!」


「だから~~~!!」


 スマホを探していた半荘がゴソゴソすると、ジヨンがセクハラを受けたと言い出し、いまだ繋がっているVチューブの視聴者は大爆笑。


 そうしてなんとかスマホを取り出した半荘は、ジャスティスと連絡を取って、屈強な男達にワイヤーを巻かれて船に近付くのであった。





 ジャスティスの船に手繰り寄せられた半荘は、大凧がギリギリ浮力がある位置で停止して、まずはジヨンをワイヤー伝いに滑り降ろす。


「キャーーー!」


 まだ高さがあったのでジヨンは悲鳴をあげるが、受け止められた瞬間、悲鳴は喜びの声に変わる事となった。


「ジャ、ジャスティス……さん?」


「オー! クノイチさん! 無事でよかったデース」


「あ、ありがとう……だ、大ファンです! 握手してください!!」


「もうハグしてるデース」


 ジヨンの悲鳴が黄色い悲鳴になる中、ワイヤーを滑り降りる半荘は、屈強な男に受け止められる事を嫌い、直前でワイヤーを蹴ってジャンプ。

 くるくると空中で回り、船の屋根に着地した。


「忍チューバー服部半荘! 只今、無事帰還!! ニンニン……ジャスティス! ちゃんと撮ってたのか!?」


 かっこよく決めたのに、ジヨンと抱き合って見ていなかったジャスティス。

 半荘に文句を言われて、ようやく振り向いた。


「ばっちりデース。彼が撮ってるデース」


 ジャスティスの指差したマッチョな男の手には、小さなカメラが収まっており、撮影は問題ないようだ。


「それとジヨン! いつまでジャスティスに抱きついているんだ! 俺の大ファンと言ってたのは嘘だったのか!!」


 半荘の、次の文句の対象はジヨン。

 目をハートにして抱きついているので、ツッコんでしまったようだ。


「オー! ブラザー。嫉妬する男はモテないデース」


「嫉妬じゃない!」


 地団駄を踏む半荘はしばらく文句を言っていたが、配信中だった事を思い出して、大凧を船に手繰り寄せる。

 その大凧に取り付けたカメラを外すと、カメラスタンドに乗せて、締めの映像の準備に取り掛かるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 Vチューブの映像では小さくなり行く竹島をバックに、煙りと共に忍チューバーが現れる。


「忍チューバー服部半荘! 只今、無事帰還!! ニンニン」


 10分ほど動きの無かった画面に忍チューバーが映し出されると、世界中から拍手が起こる。


「拙者もクノイチも、無事、竹島から脱出したぞ~~~!!」


 跳んでガッツポーズをする忍チューバーに釣られて、世界中の視聴者も跳んでガッツポーズ。


「ここまでの拙者の戦いはどうだった~~~??」


 視聴者は、「最高」「グレート」「メイユール」「ハラショー」と、各国、様々な言葉で称賛の嵐。


「とりあえず、拙者の戦いは、これにて終了だ」


 視聴者からは、残念がる声があがるが、次も期待しているとの声も多い。


「でもな、日本と韓国の戦いはこれからだ。あ、戦争じゃないぞ? 長らく両国が領有権を主張していた島は、話し合いによって決まるんだ」


 言葉を切った半荘は竹島を見る。


「ひょんな事から竹島に来たけど、これはこれでよかったのかもしれない。そうだろ? 進まなかった話が進むんだ。両国にとって、新しいスタートが切られる事になるだろう」


 カメラに向き直る半荘は、言葉を続ける。


「まぁ韓国からしたら、俺は大罪人だけどな。でもさ、アレだけ派手に攻撃して来たんだから許してね!」


 半荘が手を合わせて詫びる姿が映し出されていたが、ビクッと体を揺らした。


「そうそう! クノイチほどの愛国者はいないんだから、褒めてあげてくれよ? 映像見ただろ? 命を投げ出そうとするなんて、拙者にはできないもん……これでいいですか?」


 突然ジヨンをヨイショする半荘。

 いつもジヨンの事を忘れていたが、今回はギリギリ気付いたようだ。

 物凄く睨まれていたので、体がビクッとしてしまったが……


「それと~……ジャスティス。来てくれ」


 映像にジャスティスが現れると、女性から黄色い声援があがる。


「マイフレンド、ジャスティスだ。命を懸けて、俺を助けに来てくれた。本当にありがとうな」


「当然の事をしたまでデース!」


 握手からハグをする二人に、涙する者続出。

 ジャスティスが雇った傭兵達も呼び込もうとしたが、顔バレはしたくないらしく、カメラの前に立つのは断られたので、半荘は感謝の言葉を送っていた。


「それと、こんなに多くの人が、拙者を助けに来てくれたんだ~! 皆の者~。ありがと~~~!!」


 映像は、カメラを持った半荘によって、船の前方や左右を走る、クルーザー、漁船、観光船、その他様々な形の船と、乗船する笑顔の人々が映し出された。


 しばらくして、映像は元の位置に戻って半荘の絵に変わる。


「さてと。そろそろ配信を終了します……おっと、最後のアレ、やっとくか?」


 世界中から賛成の声があがり、船内からも野太い声があがった。



「忍チューバー服部半荘。これにて……せ~の!」


 半荘の合図で、世界中の人々の声が重なる。


「「「「ドロン!!」」」」


 突如湧き上がる煙りと共に、忍チューバーの映像は途切れるのであった。



*************************************

 映画でしたら、ここで「終劇」とかタイトルとか出るんでしょうね。

 もしくは、日本に向けて進む船の空撮。

 そして船から凧が離れ、画面を覆い尽くしてタイトルとか出るってところでしょうか。

 ですが小説なので、もうちょっとだけ後日談を書きます。

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