88 復活の巻き


「嘘だろ~!!」


 ジヨンの身分を聞いた半荘は、信じられないからかジヨンを問い詰める。


「だってさ~。銃の扱いに慣れてたじゃないか~」


「そ、それは、仕事上、軍人さんに教えてもらった事があったからよ」


「え~! ぜったい嘘だ~。俺に毒を盛ったのに、そんな事をする案内人がいるわけないって~」


「ちょ、毒なんて持ち歩いてるわけないでしょ!」


「な、なんだ!?」


 ジヨンは反論しながら半荘に抱きつき、耳元で小さく呟く。


(お願い。それ以上言わないで。配信中に本当の事を言えるわけないでしょ。あとで詳しく話すから。ね?)


 それだけ言うとジヨンは離れ、半荘も了承する。



 事実は、半荘の大正解。


 独島の案内役は半分本当で、ジヨンの本当の仕事は、独島観光に来た者の見張り役。

 外国人が来た時には逐一チェックし、韓国人の場合はしっかり学んでいるか、もしくは否定する者を上に報告する。

 否定した者は別の施設で再教育がなされ、韓国の歪んだ歴史を真実と記憶させられて世に放たれるのだ。

 それ以前にも、暗い仕事をしていたジヨンだったが、半荘にわざわざ教える気もないようだ。


 ジヨンが残っていた理由は、銃撃が起きた時に上司に確認を取ると、隠れていろと言われたから。

 本来、二人で業務に当たるはずだったが、同僚の男が乗船前に腹痛でダウンし、残れる人物がジヨンしか居なかったのだ。

 何が起きているかはわからなかったが上司に逆らう事もできず、他の人には黙っているように頼み、一人で残った。

 その後、犯人が忍チューバーと知って、悩む。


 悩んでいた理由は、これほど韓国に尽くしているのに待遇もよくならないので、どこかに亡命しようかと考えていたから、半荘の偽装結婚は魅力的に感じたから。

 なので半荘を心配したり、上司からの指示に従ったり、どっち付かずの演技をしていたのだ。



「えっと……ガイドさんだったんだ」


 とりあえず、ジヨンの嘘に付き合う半荘。


「まぁ俺に身分を知られたく無かったからって、学生は言い過ぎだろ? バレバレ……」


「ああん!?」


 年齢に言及すると、ジヨンの逆鱗に触れたようで、半荘は恐怖する事となった。

 なので、違う話に変える。


「それで、愛国者がせっかくの助けを断って、何をしようとしてるんだ?」


 半荘の問いに、ジヨンは観念したのか真実を告げる。


「愛国者って言ったでしょ? この島が、一秒でも長く独島であるためには、私が残るしかなかったのよ」


「あ~。だからゴムボートが沈んだのか。おかしいと思ってたんだ」


「フフフ。やっと気付いたのね」


 勝ち誇った顔をするジヨンは、そのまま喋り続ける。


「私がこの島で死ねば、名が残るでしょ? お墓だって作られるわ。そうなれば、いつまでも韓国の島だと主張し続ける事ができるわ」


「ふ~ん……愛国者っぽいけど、俺には狂人にしか見えないな。それに……」


 半荘は反論するが、その先はジヨンに奪われる。


「そうよ。できれば、死ぬ瞬間に立ち会ってほしくなかったのにな~」


 ジヨンは自分の死を受け止め、肩をすくめて笑う。

 

 ジヨンの覚悟を受け止めた半荘は、頬をポリポリと掻きながら申し訳なさそうに口を開く。


「えっと……ジヨンを死なせる気はないんだけど……」


「まぁあなたならそう言うと思っていたわ」


 嬉しそうに反論するジヨンは、肩から掛けたバックをゴソゴソと探る。


「……あれ?」


 しかし、目的の物は見付からない。


「探してる物って、もしかしてコレ?」


 ジヨンの目的の物は、半荘の胸元から出て来たので、言葉を失う。


「銃なんて、何に使うんだよ」


 半荘の持つ銃は小振りの銃。

 荷物をまとめる時に気付き、念のため抜き取っていたのだ。


「それじゃなくても……」


「ああ。ナイフも俺に使った錠剤も、没収したぞ。だから自殺はできない」


「な、なんで……」


「正体がわかっていたって言っただろ?」


 半荘はジヨンの持つ危険な物は、全てバックの中から抜いていたので、ジヨンの打つ手は無くなってしまった。

 それでもジヨンは大声で笑う。


「あははは。さすがは忍チューバーね。でも、自殺なんて、いくらでもやりようがあるわ!!」


 ビシッと指差すジヨンは、勝ちを確信して喋り続ける。


「見てなさい! 私の最後を!! あははは」


 高笑いするジヨンは、袖の中に隠していた剃刀を首に当てる……


「あ!?」


「させるわけないだろ?」


 頸動脈を切ろうとしたジヨンは、一瞬で半荘に剃刀を握られ、止められてしまった。


「まだやる?」


 半荘の質問に、後ろに下がりながら答えようとしないジヨン。

 仮に同じ事をしても、半荘の目を盗んで死ぬ事は出来ないと悟ってしまったようだ。


 ジヨンが諦めたと受け取った半荘は、ゆっくりと近付く。


「それじゃあ、そろそろ行こっか」


「い……いや! 来ないで!!」


 叫びながら逃げ出そうとするジヨンは、あっと言う間に半荘に回り込まれて、あられのない姿にされた。


「イヤーーー! なんて事するのよ~~~!!」


 その姿とは、ロープを巻かれた姿。

 俗に言う、亀甲縛りだ。

 この事態には、ジヨンは本気の悲鳴をあげた。


「だって、空を飛ぶのに、暴れられたら危険だろ?」


「え……そ、空??」


 質問に質問を返すジヨンの横では何処から出したのか、長い棒と大きな布で、工作をする半荘。


「ま、まさか……」


 そして半荘は、ロープでジヨンと自身を縛り、工作で作り出した物にもくくり付けて準備完了。

 スマホを取り出して、ジャスティスと何やら話したあとに、ジヨンに声を掛ける。


「さあ、行くぞ~~~!!」


「キャーーー!!」


 【大凧おおだこの術】復活。


 ピンと伸びたワイヤーに引っ張られ、半荘とジヨンを乗せた大凧は宙に舞い、竹島から離れるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る