49 通信の巻き
日本艦隊総司令官の東郷からの電話が切られると、半荘は荷物を抱えて基地へと戻る。
ドアを開け、中に入ると待ち構えていたジヨンに詰め寄られた。
「大丈夫だった? 何があったの??」
「全然大丈夫だから、離れよっか?」
心配するジヨンは、半荘の手を握るので落ち着かせ、キッチンにて贈り物の件を説明する。
「それじゃあ、私のスマホも使えるんだ」
「使えるけど、もうちょっと待ってくれるか? 先に動画をあげさせてくれ」
「家族に無事を伝えたいんだけど……」
「終わったら、必ず使わせるから。な? てか、心配するのは、そっちじゃないと思うぞ」
「どういうこと?」
半荘は、睨み合って動けない、両国の艦隊の説明もする。
「救出されるには、時間が掛かるんだ……」
「最悪、この島が戦禍に巻き込まれて、火の海になる」
「まさかそんな事に……」
「とりあえず、打てる手は打っておこうぜ」
それから半荘は、ジヨンを伴って撮影を開始する。
二人がかりの撮影は夕方まで掛かり、各種動画を時間指定で投稿する。
その後、ジヨンにWi-Fiの使用を許可し、半荘も知り合いに何通かメールをする。
「ねえ?」
お互い無言になって作業をしていると、ジヨンが先に口を開いた。
「ん?」
ジヨンの質問に、半荘は顔を上げずにスマホを見ながら返事をする。
「通信室に入るのは制限を掛けたのに、スマホは使わせていいの?」
この質問には、半荘は顔を上げてジヨンを見た。
「あ……何処にメールしたんだ!」
「おっそ……」
あまりにも遅い半荘の追及に、ジヨンは呆れ顔。
「また俺を裏切ったのか!?」
「そんな事はしてないわよ。家族と、友達数人に安否のメールをしただけ」
「ホッ……」
「信頼してくれるのは有り難いんだけど、そんなにすぐに安心していいの?」
「え……じゃあ……」
コロコロ変わる半荘の顔を見たジヨンは、笑いながら答える。
「フフフ。しないわよ。ただね~……家族にマスコミが押し掛けているみたい」
「何かされたのか?」
「ちょっとね。嫌な事を言う人もいるみたい。お前はどっちの味方なんだとかね。どっちの味方も何も、家族は何もしてないのにね」
「他人はそんなもんだよ。俺の時も凄かったんだからな」
半荘は、数々の嫌がらせや殺害予告、本当に実行された事件を笑いながら言い聞かせ、ジヨンを安心させようとする。
「全然安心できないわ!」
当然、そんな話を聞いて安心できないジヨン。
包丁で刺されそうになったとか、爆弾の入った箱を開けるすんでのところで投げ捨てたなんて聞いては、家族にも同じ事をされると、よけい心配になってしまう。
ツッコまれても笑う事をやめない半荘に、呆れてツッコムのをやめてしまうジヨンであった。
それから夕食を終えた半荘は、ジヨンに手を伸ばす。
「そろそろ更新時間だから、スマホは預かるよ」
「ええ。でも、そんな事して来るのかな?」
「さあな~? 海自の東郷さんは、注意しておいたほうがいいってさ」
ジヨンからスマホを受け取った半荘は喋りながら金属製の箱に、二人が持つ電子機器を全て入れてしまう。
「パルス爆弾って聞いた事はあるけど、そんなの使ったら、開戦になるんじゃない?」
パルス爆弾……小規模の爆発の後、辺りに電磁波を振り撒き、電子機器を使えなくする爆弾の事だ。
「ドローンで持って来たら、レーダーにも引っ掛からないんだって。それだと、日本は反撃し辛いんだとさ」
「日本って、どれだけ弱腰なの? 韓国なら、すぐに反撃するわよ」
「あはは。もうとっくに、俺に向けて撃ってるもんな」
「よく笑ってられるわ~……プッ。あははは」
あっけらかんと笑う半荘に釣られて吹き出すジヨンであった。
こうして、和やかな雰囲気で、夜は更けて行く……
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