50 レポートの巻き


 半荘が電子機器を金属製の箱に入れてしばらく経った頃、全世界で忍チューバーの動画が更新された。


「忍チューバー服部半荘。ただいま参上! ニンニン」


 煙の中から半荘が現れるいつものオープニング。

 ただ、カメラアングルと場所が違った。


「さて、拙者が居るのは、ここ!」


 カメラは半荘から、韓国と書かれた岩肌をズームする。


「こないだも説明した通り、日本では竹島と呼ばれ、韓国からは独島と呼ばれている島だ」


 カメラが半荘のアップに変わると、次の台本を読み上げる。


「その島からライブ中継を……したいんだけど、録画で放送しています。だから、大砲を撃って止めようとしても、無駄ですよ~?」


 わざとらしく説明すると、映像は西の海の絵となる。


「ああ。あの大艦隊は、韓国艦隊だ。俺ひとりに、あんなに必要なのかな~?」


 半荘の質問に、カメラは横に二度振られる。


「まぁ韓国の攻撃は全部撃退しているから必要かも? そうそう! 新しい映像が撮れたんだ。まずはこちらをどうぞ~」


 半荘が手を前に振ると、映像が変わる。


 その映像とは、韓国の高速船が港に到着し、韓国兵と半荘が派手に戦う映像だ。

 その中には、韓国からしたら、映ってはいけないモノが映っていた。


 映像が元に戻ると、半荘は補足する。


「ひっどいだろ~? 日本の船になら乗って帰ると言ってるのに、銃を撃ちまくるんだぜ? まぁそれよりもっと酷い事を言ってたな」


 半荘は、一息吸って愚痴を言う。


「人質を乗せてくれと頼んだのに、断るんだぜ。なんで? ってなるよ。予想だけど、俺がレイプしてるだとか、殺してるだとか、人質がいるから島を取り返せないとか言いたいんだろうな。あ、現場の判断とかやめてくれよ? そんな言い訳、誰が信じるんだ、大統領?」


 カメラは上に下にと振られ、頷いているように見える。


「ほら、俺に人質に取られていると言われてる人も頷いているぞ。ちなみに、脅してこの映像を撮らしているわけでもない。な?」


 カメラはまた二度ほど上下する。


「『うん』だってさ。とりあえず、人質さんの名前は言えないからクノイチとしておくな。ちなみに撮影を担当しているのはクノイチ。もちろん韓国人。それも、めっちゃ美人だ!」

「ちょ! 何を……あ!!」

「あはは。音声、入っちゃったな。まぁ一度出演してるし、いまさらか」


 ジヨンの声が入ったが、半荘は笑いながら続ける。


「俺達の目的は、生きて祖国に帰る事だ。韓国のほうは、クノイチの家族に攻撃している人もいるみたいだけど、やめてください。彼女は被害者で、事件に巻き込まれただけだからな。しいて犯人を上げるとするならば、俺では無く、門大統領。お前だ! お前のせいで、彼女は韓国に居場所が無くなったんだからな!!」


 カメラに指を差して怒鳴り付ける半荘。

 軽く咳払いをすると、もうひとつ文句を言う。


「それと韓国艦隊の人! レーダー照射は海自の人が迷惑って言ってたからやめろ! アメリカなら、間違いなく撃ってるぞ? それだけで宣戦布告だって、前にもやったのにまだわからないのか!!」


 半荘の怒声に、カメラは動かない。

 ジヨンは賛同してしまうと、立場が悪くなると思っての行動だ。


「ふぅ……急に大声を出してすみません。次の映像を流すから、クールダウンしときます」


 次の映像は、半荘が機関砲や爆撃を受けるシーン。

 CGなんて使っていないのに、大迫力の戦闘が映し出されている。


「どう? 凄かっただろ? 俺も死ぬかと思った~。この映像は、あとで単発で更新するから、待っておいてね」


 おちゃらけた言い方をした半荘は歩き出し、映像はその背中を映しながら進む。


「百歩譲って、韓国の立場で言うと、島を取り返すための正当な攻撃なんだろうけど、日本からしたら、領土に大砲を撃ち込まれた事になるんだよね~。そこんとこ、門大統領はわかってやっているのかな?」


 喋りながら坂を登る半荘が頂上に立つと、映像は東側の海の絵となる。


「日本艦隊のみなさ~ん! これって、宣戦布告じゃないですか~~~!!」


 半荘が耳に手を当てる仕草をするが、返事が来るわけがない。


「まぁここで戦争になると、俺達が戦禍に巻き込まれるから、やめてほしいんだけどね」


 ここで半荘は、軽く愚痴を言う。


「なんか総理大臣は戦争を回避しようと頑張っているみたいだけど、結局、何もできないんなら、国連に早く連絡してくんない? 日本に頼るより、そっちのほうが断然早く帰れそうだからな」


 カメラは数度上下したので、ジヨンも大賛成のようだ。


「あはは。クノイチも賛成だってさ。そりゃ、引き取りを断られた船に乗りたくないか」


 カメラがまた上下して止まると、半荘は締めに入る。


「阿保総理、門大統領。二人で解決できないなら、早い決断をお願いします。では、レポーター、服部半荘。カメラマン……カメラウーマン?」


 半荘のどうでもいい質問に、ジヨンは呆れて口を挟む。


「どっちでもいいわよ」


「あ、そう。カメラマン、クノイチでした。以上、戦場になりそうな係争地からの放送でした! ニンニン」



 こうして忍チューバーの動画が終了すると、世界はどよめくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る