42 忍チューバーVSテコンドーの巻き


 高速船に乗る、全ての韓国兵を倒した半荘は、武器だけは全て海に投げ捨てて、タラップから港へと降りる。

 そこには、タラップに寝そべっているデフンが居たので、活を入れて起こしてあげた。


「ゲホッ」


「おはようさん」


「に……忍チューバ!!」


 目覚めたデフンは薄ぼけた記憶のまま半荘の顔を見て、慌てて起き上がり、拳銃に手を掛けようとする。


「あ~……お前の銃なら、海の底だぞ」


「くっ……ならば!」


 デフンは拳を上げ、体重を後方に掛けて立つ。


「キックボクシングか?」


「テコンドーだ!!」


 半荘の質問に、気分を害したデフンは、会心の跳び回し蹴り。

 半荘は一歩下がって避けるが、跳び後ろ回し蹴りが飛んで来て、もう一歩下がっる。

 すると、立ち位置が悪かった半荘は、港のふちから足を踏み外しそうになって、よろめいた。


「もらった!」


 デフンは勝利を確信し、半荘の腹に前蹴りを放った。


「なっ……」


 しかし、前蹴りは空振る事となる。

 半荘が海に飛び降りたからだ。

 そして、水面を蹴って元の位置に戻った。


「………」


「そんなに驚くなよ。俺の動画を見た事がないのか?」


 デフンは、忍チューバーの動画を見た事はあるが、そんな神業が事実だと思えず、目の前で起きた事態に驚きを隠せない。


「それで、もうテコンドーは見せてくれないのか?」


「くそ~~~!!」


 余裕を見せる半荘に、デフンの猛攻。

 ハイキック、後ろ回し蹴り、踵落としネリチャギ

 多彩な蹴り技は止まらないが、素早い半荘には当たらない。

 なかなか攻撃が当たらない中、港の縁に半荘を追い込んだデフンは渾身の右ミドルキック。

 だが、半荘は左手をデフンの膝に当て、受け止めた。


「ぐあっ!」


 その衝撃で、デフンの膝は伸び、膝関節は外れる事となった。


「お! 上手くいったな。こんな時のために、格闘漫画で合気道を覚えていてよかったよ」


 普通は漫画のような合気道の達人は存在しないのだが、半荘に掛かればマスター可能のようだ。

 と言うより、半荘のずば抜けた身体能力で、力業で実現させたにすぎない。

 微動だにしない半荘の手に膝が当たったので、関節が外れただけなのだ。


 それでもデフンには大ダメージで、膝を抱えてうずくまる事となった。


「どうする? まだやるか?」


 半荘の降伏勧告に、デフンはキッと睨んで叫ぶ。


「こ、殺せ!」


「わかった。降参って事だな」


 半荘はゆっくりと近付き、デフンは覚悟を決めて目をつぶる。


「え……な、何をする!」


 デフンの覚悟とは関係なく、半荘は腕と足をロープで縛り、肩に担ぎ上げると、デフンはわめき散らす。

 その声を無視した半荘は、船に乗り込んで操縦室に入り、艦長の前にデフンを投げ捨てた。


「じゃあ、通訳よろしく~」


 艦長は、暢気のんきな声を出す半荘に拳銃を向けたのだが、一瞬で奪い取られ、腹に拳を入れられて沈黙。

 デフンに通訳は任せたのだが、まったく通訳をしてくれないので、説得する事になった。


「別に死ぬ必要ないだろ? 沖にいる艦隊に戻って、新しい部隊を送り込めば済む話だ。こんなに美味しい取引はないと思うんだがな~」


「それでも……」


「通訳が無理なら、船長も縛って勝手に動かすけどいいか? どっちみち、結果は一緒なんだから、お得なほうにしときなよ」


「……わかった」


 ようやく説得に折れたデフンは、艦長に沖に向かうように指示を出し、半荘は動き出すのを待つ。

 それから高速船が港を離れると、半荘は礼を言って消え去るのであった。





 半荘は高速船から飛び降りると海を走り、港に戻る。


「船は……艦隊の元へ戻っているな。さてと、次の一手は何が来るかな?」


 半荘は離れて行く高速船を眺め、艦隊の動きも注視する。


 そうして高速船が艦隊まで半分の距離まで進むと、「ドーン」と音が鳴り響き、そのしばらくあとに、港の一部が吹き飛ぶのであった。

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