37 ツートップ


「わはははははは」


 総理官邸の一室に、安保総理の高笑いが響く。


 先ほど、本日二本目の忍チューバーの動画が更新されたからだ。

 その内容は、韓国の特殊部隊が忍チューバーと戦い、全て拘束されて追い返された一部始終だ。


 動画を見ていた安保総理と防衛大臣は浮かれて話し合う。


「また嘘をついてバレているぞ。わははは」


「本当に……あの国はどうしてバレる嘘をつくんでしょうね。わははは」


「もうこれ、門の奴、終わりじゃね?」


「盛り返しようがありませんね」


 安保総理は、防衛大臣の返事を聞いて、笑い顔から真面目な顔に変わった。


「韓国に渡った邦人の帰国はどうなっている?」


「韓国が荒れていたので、かなりの人数が帰って来ましたが、まだ残っている模様です」


「そうか……だが、チャンスだよな?」


「ええ。いまさら忍チューバーを殺しに、艦隊を差し向けるほどの馬鹿ではないでしょう」


「準備は?」


「艦隊は、いつでも出港できます」


「ふむ……」


 安保総理は、一呼吸置いて言葉を続ける。


「世界中から署名が集まっている今が好機! このまま竹島を取り返そうではないか!!」


 安保総理は力強く決断した。

 忍チューバーを助け、韓国に長く占拠された竹島を取り返す事を……



「これで桜問題で落ちていた支持率も急回復。いや、私の支持率は100%超えるんじゃないか~?」


「それはもう……任期も四選いけますね!」


「君も竹島を取り返した英雄として、歴史に名を残すぞ~?」


「も、もしかして、次期総理なんかは……?」


「あるかもな~。わははは」


「期待してますよ~。わははは」


 竹島を取り戻す事で、政治家としての人気が上がる事を見越して、笑い続ける二人であった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



『ど、どうしてこうなった……』


 声を荒らげて大統領官邸に向かうデモ隊を、テレビ越しに見た門大統領は膝をつく。


 もちろん理由はわかっている。


 忍チューバー暗殺に向かった特殊部隊が死者無く送り返される動画が更新され、重ねた嘘が、韓国国民にバレたからだ。

 こうなっては、門大統領の命に関わる。

 それどころか、韓国は国際的に問題のある国と決め付けられ、世界から総すかんにあう事態となってしまった。


『と、とりあえず、艦隊は戻るように指示しません?』


 項垂うなだれる門大統領に、声を掛ける側近。


『このまま忍チューバーを殺してしまうと、人権的にどうとか言われますし……』


 返事をしない門大統領に、再度声を掛けると、ゆっく~りと振り返る門大統領。


『それでは、独島が日本に取られてしまう……』


『しかし、こうも批判を浴びていては、政権の運営に支障をきたします』


『では、どうしろと?』


 門大統領の問いに、側近は考え込み、答えを述べる。


『まずは忍チューバーを、日本に返す事を考えましょう』


『日本に返す……』


『そうです。誠意を見せて、国だけは守らない事には、大統領は歴史上最大の汚点と言われかねません』


『そ、それだけは嫌だ!!』


『かつ、独島も取られては同じ事になるでしょう』


『うっ……難しいな』


『でも、やらないと、国益が守られません!!』


 側近から叱責を受けた門大統領は、ぬるりと立ち上がり、笑い出す。


『ふっ……ふふ……ふふふふふ』


 そんな気持ち悪い笑いを見た側近は、気が触れたと思い「こいつ大丈夫か?」って顔になったが、門大統領は、鬼の形相で睨み付けた。


『もういい! 私の命はいらん! 絶対に独島だけは死守してやる! 艦隊はそのまま前進!!』


 やはり気が触れたと感じた側近は、恐怖を感じるが、進言はやめない。


『そんな事をすれば……』


『どうやっても私は失脚だ。それならば、国益に沿う事が私の生き様だ』


『大統領……』


『まずは、忍チューバーを丁重にもてなして日本に送り届けろ。それができないならば、殺してもかまわない。その責任は、私が取る』



 門大統領の覚悟を見た側近は、各所に走り回る。



 くして、安保総理の読みは外れて、両国の艦隊が「竹島、独島」に押し寄せるのであった。

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