04 船舶免許の巻き


 さて、海に出るには、船と免許が必要だ。

 それぐらいネットを見ればすぐに見付かった。

 ただ、船は余裕で買えたんだが、免許を取るのが難しい。


 頭の問題じゃないぞ?

 大学受験は失敗したが、原付きの免許は一発合格したんだから、やればできるんだ。


 問題は、俺につきまとう者が現れるかどうかだ。

 教習所に迷惑が掛かるし、俺も集中できなくなってしまう。


 どこで、バレずに、船舶免許を取るか……


 そんなある日、ネットニュースのトップに、忍チューバーって文字があったから読んでみたんだ。


『忍チューバーVSジャスティス・ビーダーのリアルバウト開催か!?』


 俺は吹き出したよ。

 いつの間に、俺は見も知らぬジャスティスなにがしと戦う事になっているのかとね。

 だからそいつの動画を見んだけど、見覚えのある顔の男が俺をあおっていたんだ。


 俺の動画を広めてくれた歌手だ。

 感謝しかない。


 だが、俺は英語が喋れないんだ。


 ジャスティスの言っている内容は、ニュースで読んだからわかるが、どうやって感謝を伝えたものか……


 だから、俺でも知っている単語で感謝を伝えたんだ。

 イエスだとか、サンキューだとか、カモーンだとかだ。


 そうしたらどうなったと思う?


 一ヶ月後、俺はアメリカでリングの上に立っていたよ。


 どうやらジャスティス側に、勝負を受けると誤解されてしまったようだ。

 ジャスティスも俺が受けると思っていなかったらしく、動画の更新が無くなったんだけど、それが悪かった。


 民衆は、ジャスティスが逃げたと炎上したんだ。


 そこからは、やぶれかぶれだったらしい。

 挑発で返して来て、俺も礼儀だと乗っかり、世間は俺達の戦いを熱望していたよ。


 ジャスティスとはリングに上がる一週間前に初めて会ったんだけど、カメラが止まったあとに夕食に誘われたから、ノコノコと会いに行ったら愚痴られたよ。


 戦う気はなかったんだと。


 どうやら俺の大ファンで、酔った勢いで会いたい旨をアップしたのが、口が滑って戦うと言ってしまったらしい。

 その証拠に、日本語まで必死に勉強したんだって。


 まぁ俺も感謝を伝えるためだけに、ここ数週間は乗っかっていたから、戦う事は不本意だ。

 しかし、引き返せないところまで来てしまった。


 だから俺は、ジャスティスに花を持たせると言ったんだが、それでは悪いと拒否されて、プロレスをする事にしたんだ。


 いわば、シナリオに沿った八百長だ。


 シナリオでは、お互いが技を掛け合って、頃合いでダブル場外負け。

 最後は、リング中央で抱き合って和解だ。


 シナリオではな。


 ジャスティスは頭に血が昇りやすい体質なのか、途中から……いや、しょっぱなからシナリオ無視だ。

 なんならゴングがなる前に、花束で殴って来た。


 まぁ俺に掛かれば、そんな相手でも、シナリオに戻せる。


 そのためではないが、過酷な修行をしていたのだからな。

 もちろんシナリオ通り、ジャスティスの体力が限界になったところで、リングアウト。

 そこでジャスティスのパンチに合わせてクロスカウンター。

 同時に倒れてやった。


 決着のゴングが鳴り響く中、肩を組んでリングに上がり、大団円となったよ。


 観客も、試合が決まった時には「リアルバウトじゃねぇのかよ」って、呟く人が多かったが、終わったあとには、「今世紀ベストバウト」だとか言っていたよ。


 そりゃ荒れ狂うジャスティスの攻撃を真っ正面から受け続けたんだからな。

 わざと受けるのは怖かったが、当たった瞬間に体を引いていたから、俺へのダメージは、ほぼ無い。

 もちろんジャスティスには、ちょっと痛いような攻撃で手加減してやった。


 ジャスティスも落ち着いたら、めちゃくちゃ感謝して来たよ。

 ブラザーとか言ってな。


 さらに恩返しがしたいと言い出して、俺こそ恩を返し切れていないと言ったんだが、引いてくれなかったから、お願いをしてみたんだ。


 どうにかして、目立たず船舶免許を取れないかってね。


 そしたら、いろんなコネを使って、船の操縦を教えてくれたよ。

 ただ、日本に戻ってから試験を受けないといけなかったけど、少ない日数だったので、無事、船舶免許を取れたんだ。



 こうして俺は、たくさんの人々に見送られて、大海原に漕ぎ出したんだ。

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