魔術部の日常

ユーカン

四月.日常の始まり

「今年の新入部員は無し、かな」

 放課後の特別教室棟の一室。窓枠に腰かけた晴人はるとが誰にともなく呟いた。

「しょうがないよ。このご時世ふつーの高校に入って、わざわざ魔法やろうなんて人いないでしょ」

 パイプ椅子に座った莉生りおがひとりでに捲れるファッション雑誌を眺めながら言った。

「そうなんスか? 面白いじゃないッスか、魔法」

 長机の上にひとりでに組みあがるトランプタワーを眺める力也りきやは楽しそうな口調。

「だからだよ。楽しいだけ。火をつけたいならライターを使えばいいし、箒で空を飛ばなくても原付があればどこにでも行けるし。あえて魔法が使えるようになりたい、なんて人、ほとんどいないのかもね」

 この世界には昔から魔法が当たり前のように存在している。しかし、科学の発達した現代、魔法でできることのほとんどは、手近な機械で誰でも、簡単に実現できる。

 結果、魔法は単なる趣味の技能。魔法が使えるという事は、楽器やスポーツができるという事と同程度というのが世間の認識だ。

「いいじゃないッスか、楽しければ。趣味なんてそういうもんッスよ」

「ま、そうかもね」

 二人の会話が途切れた所で、晴人が窓枠から降りて号令をかける。

「じゃあ、今日も魔術部の活動を始めよう。よろしくお願いします」

「よろしくお願いシマース」

 魔術部。読んで字の如く魔法を扱う術を学ぶための部活動である。

 倒すべきドラゴンも、踏破すべきダンジョンもない、ただ魔法があるだけのこの世界。四葉高校魔術部の日常が、今日も始まる。

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