お題:転生

 はぁ、疲れたな。

 〝私〟事、中標津陽なかしべつはるは、独り夕刻の赤に染った道路で信号が変わるのを待つ。

 私の目の前を、ヘッドライトを点けながら通り過ぎる幾多もの車達。

 次の瞬間──突然、身体が前へ……道路に向かって投げ出された。


 時がゆっくり流れる。

 今までの記憶が、思い出が、瞼裏に焼き付いて離れない。

 ああ、これが走馬灯というやつか……。

 決して、幸せな人生ではなかったけど……それなりに楽しかったな。

 あれ、なんだろう……なんで涙が……。


 涙に歪んだ視界の中──確かにそれはいた。

 私を嘲笑うかのように立ち尽くす──同級生の姿が。


 ☆★☆★☆


「はっ!?」


 私はハタとして飛び起きる。今、何が。

 ここは、何処?

 乳白色の世界に独り、私は存在する。

 ここが何処なのかさっぱり検討も付かない。


「ああ、ようやく起きたんだね」


 後ろからその声が聞こえ、それに驚いた私は勢いよく振り返る。

 そこには、到底人とは思えない程に美形の銀髪の男が立っていた。

 あまりにも不審な〝それ〟に警戒心を顕にする。

 いや、だってねぇ。こんな空間に存在するってだけで十分に怪しいでしょ?


「いやぁ、不幸だったねぇ。虐められていた君、ええと、中標津陽ちゃんは、虐めていた当人に後ろから突き押され、トラックに轢かれちゃいましたとさ」


 あっけらかんとして言う〝それ〟は、怪しさ満点で、はっきり言って信用出来ない。


「ふふっ、信用出来ないって顔だねぇ。心外だなぁ。では、ここでひとつ──君には二つの選択肢があります。ここで完全に死んで、再び地球の輪廻転生に入るか、別の世界に記憶を持った状態で転生するか。どっちがいい? もちろん、後者の場合はそれなりの支援をするつもりだよ」


 邪神のような笑みを浮かべる〝それ〟。

 はっきり言って、あんな世界にはもう二度と生まれたくない。

 こいつを完全に信用したわけじゃないけど……あそこに転生するよりはマシ。

 なら、答えは決まってるじゃない。


「やれるものならやってみなさいよ」

「ふふっ、そう来なくちゃ面白くない。さぁ、向こうの世界でどんなに面白いことをするのか──僕達に・・・見せておくれ」


 そいつのその言葉の後、段々と視界が歪んでいく。霞んでいく。何かに引っ張られるような感覚がする。


「ああ、そうだ、僕の名前を言ってなかったね。僕は無貌の神ナイアラートテップ。人間をこよなく愛す──ただの邪神さ・・・・・・


 そして──私の意識は完全に途絶えた。

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