第18話 修学旅行 2
修学旅行当日。わたしたちだけじゃなくて、他のクラスメイトも、それに先生まで心配してる中、集合時間ギリギリになってようやくひーちゃんは、普通にひょっこりやってきた。
完全にいつものノリで「おう、おはようじゃ皆の衆!」って言ってきたものだから、ふーちゃんはもちろんわたしやはーちゃんも慌ててたくさんのツッコミを入れたよ。
今まで何してたんだとか、少しくらい連絡ほしいとか、そういうことを色々とね。
ただひーちゃんが図太いのもいつも通りで、わりとさらっと流されて終わっちゃったよ。出発時間が近かったのもあるんだけどさ。
……いやでも、あえてそれを狙ってギリギリの時間に来た可能性はある。ふーちゃんはずっとそうなんじゃないか疑ってたし、わたしも同感だ。
まさかとは思うけど、違うって言いきれないからね。ひーちゃんならやりかねない。そんな妙な信頼もあった。
本人も苦笑いはしてたけど否定はしなかったし、たぶんそうなんだと思う。
ともあれ、そんな感じでスタートした修学旅行。まずはバスに乗って、ネズミーランドまで移動だ。しおりによれば、休憩時間とかを入れても一時間半くらいで着くみたい。
「……それはいいんじゃが、こう、日程を見ておると改めて思うんじゃよ」
その車内。わたしの隣に座るひーちゃんがしおりを読みながら言った。
彼女の声を聞いて、前の席からはーちゃんが乗り出してくる。
「何をだ?」
「いやな、修学旅行……学を修めるための旅行という名目だというのに、遊園地なのはどうなんじゃろうと今さらながらに思うてのう」
「あー」
「それは気づいても言わないお約束よ……」
「そうだよひーちゃん。ていうか、そういうのはふーちゃん役でしょ」
「……平良さんが私をどう思ってるのか、よーくわかったわ」
「えー、だって実際こういうタイプのツッコミはふーちゃんが一番多いじゃん」
「そうかもしれないけど! 確かに行き先が発表されたときに同じこと言ったけど!」
何か彼女の中で納得できないのか、ふーちゃんが顔を手で覆って首を振った。座席が邪魔で、あんまり見えないけど。
まあそれはともかく。ひーちゃんの言うことはもっともだと思うよ、わたしも。
だって修学旅行の日程、今日は九時に学校を出発して十時半過ぎにネズミーランドに到着。十一時くらいからそのまま六時半までずっとネズミーランドだもんね。なんならライトアップパレードまで普通に見れるスケジュールしてる。これ、わたしたちだけじゃなくて、先生も完全に遊ぶ気だよね?
「で、でも明日は職業体験型施設よ。これは観光とはちょっと違うわ」
「楽しみながら仕事について学べるキッズランド……だったよね」
「確かにこれは学習の一環という感じじゃな。創業者はよく考えたものじゃわい」
「実際に仕事とおんなじようなことしてお金もらうんだっけか」
「本当のお金じゃないわよ。施設の中だけで使えるお金ね」
「ああ、ペリカみたいなやつ」
「「「?」」」
しまった、このネタは誰にも通じないか……。
いやうん、それはともかく……。
「なんだよ?」
「いや、はーちゃんはもう大人と一緒に働いてるよなぁって思って」
そう、この中だとはーちゃんはもう働いてる。だからわたしたちと違って、今更職業体験なんてしてもつまらないんじゃ。
「って言っても、あたしがやったことあるのモデルと子役だけだし。それ以外のはわかんねーよ」
と思ったけど、そうでもないみたい。色々やってみたいなんて、はーちゃんも意外と真面目なところあるんだなぁ。
そこからもずっとわたしたちはおしゃべりしてたけど、修学旅行に関係した話題が途切れなかったあたりやっぱりみんな楽しみだったんだね。
話は休憩中も続いて、結局ネズミーランドに到着するまでとまらなかったくらいだ。おかげでなんかあっという間に着いた感じ。
で、いよいよネズミーだ。
「……というわけで、他のお客さんの迷惑にならないよう節度を守って行動しましょう。先生たちは色んな所にいるので、何かあったらすぐに声をかけるように。では解散!」
先生のそんな話もほどほどに、みんな一斉に園内に入っていく。中には歓声を上げて走っていった子たちもいたけど、わたしたちはゆっくりだ。
「今日は遊園地初体験が二人もいるからな。おまけに一日だけだ。それなのに並んでるだけで終わっちゃうなんて、もったいないだろ」
っていうはーちゃんのお言葉に従って、彼女オススメの初心者向けスポットを中心に回ることになってるからね。そういうところは、そこまで人気のないアトラクションもそこそこある。
最初からある程度そういうのに絞って計画を立ててるのあって、次どうしよう何しようって迷う時間がないだろうしね。その分時間にはそこそこ余裕があるってわけだ。
そりゃできれば人気のアトラクションも乗りたいし、ひーちゃんたちにも体験してもらいたいけど……そういうのって平日でも結構待たされるからねぇ。並ぶのに慣れてないとさすがにちょっと。
というわけで、わたしたちはわりとのんびりと園内を見て回る。最初はフリーフォール系……要するに高い所に上がって落ちるタイプのやつに乗ってみたけど、これはちょっと不評。
慣れないうちは本当にただ落ちるだけに感じるから、そりゃそうかって感じではある。ネズミー特有の映画の要素も、見た目だけだったし。
でもはーちゃんが言うには、絶叫系に耐えられるかどうかはこういうシンプルな落ちるタイプのやつで大体わかる、らしくて。その確認のために乗ることにしたんだってさ。
確かに、家族向けのネズミーでも絶叫系はそこそこ数がある。怖くて乗れない人はその分楽しめるアトラクションが減るわけだし、確認しておくのは無駄なことじゃないと思う。
ちなみにそのはーちゃんの考えでは、ひーちゃんもふーちゃんも、絶叫系は問題なく乗れるらしい。
ひーちゃんに関してはずっと真顔だったレベルで、下りたあとも「これのどこが楽しいんじゃ……?」って言ってたから、世界レベルの絶叫マシーンでも普通に行けそうな気がする。
まあそれはさておき、みんな絶叫マシーンが大丈夫ってわかったところで次の行先はネズミー目玉のジェットコースターに決まった。
ただ、その途中に映画の舞台がそっくり再現されたセットがある。何かに乗ったり体験したりっていうアトラクション要素はなくって、純粋な撮影スポットってやつだ。
でも、再現とはいっても映画の舞台だ。ここを素通りするなんてとんでもない! ってことで、私たちは立ち寄ることにした。
「よーし写真撮ろうぜ!」
まあ、そう言ってはーちゃんがスマホを出したときは、持ってきちゃダメなやつってことでふーちゃんが激怒したけど。
はーちゃんはそれを電話機能とかその他いろいろがついた高性能デジカメ、でゴリ押そうとしてた。ひーちゃんが爆笑しながらはーちゃんの味方してたのが印象的だったよ。
ちなみにそれは結局、ふーちゃんが写真撮影をしたあとで先生に預かってもらう、って形で折れた。あと、写真はちゃんと印刷してみんなに配るように、とも言ってたね。
ちょっと前だったら、絶対譲らなかったと思うけど……なんだかんだでふーちゃんもわたしたちの影響受けてるよね。写真の中のふーちゃんも、すごくいい顔してたしさ。
「つーか、お前らもスマホ持てばいーじゃん」
しぶしぶ先生にスマホを預けたあと、はーちゃんがスネたように言ってきた。
ジェットコースターを盛大に楽しんだあと。さらに次のアトラクションに向かう道中で、フードコートで軽く食事をしながらのセリフだ。
写真自体はわたしもふーちゃんもデジカメを持ってきてるから普通に撮れるんだけど、そういうことじゃないみたい。
「だから花房さん、スマホは持ち込み禁止で」
「いやそうじゃなくってさ。学校ないときお前らと連絡取れないじゃんか」
「家の電話があるじゃないの」
「あ、ふーちゃんごめん。うち家電ないや」
「わしもじゃ」
「ええ……」
「ちなみにあたしんちもない。ってわけで、不便なんだよ。たまに土日に急に用事なくなったりしてヒマしてても声かけらんないし……」
それは……確かにその通りだ。昨日までひーちゃんが学校来なかったのも、連絡できるんだったらもっと穏やかな気持ちで受け入れられただろうし。
うーん、でもスマホはなぁ……さすがに子供に持たせるにはお高いし、難しいよね。インターネットに関係した問題もあり得るし。
うちは一応、タブレットなら使わせてもらってるからメッセージアプリでも入れれば行けるかな?
「特にトー子な。お前、テレパシー使えるからって電話まったくないのどうかと思う!」
「それについてはちと頷けんのう。敵対するものが、そうした通信網からわしの交友関係を辿ってくるかもしれんのでなぁ」
「……ええ? 今まで見たバケモノって、どいつもそんな頭良さそうには見えなかったけど」
「見えないっていうか、そもそもスマホとかパソコンを触れそうな部分自体がなかったよね」
「そういうのもおるんじゃよ。で、そういうのが一番面倒なんじゃ。人間のルールや価値観を理解したうえで、それを利用してくるからな。最悪、お主らが人質にされる可能性もあることを考えれば、素直に一般的な情報機器は持てんというのが実情でのう」
「予想以上にガチな理由で正直びっくりした」
はーちゃんに合わせて、わたしとふーちゃんもうんうんと頷いた。
そっかぁ……確かに、もしもわたしたちが人質になったとしたら、絶対ひーちゃんに迷惑がかかるよなぁ。わたしたちはどこにでもいる普通の小学生なんだし、そうなる未来しか見えない。
「……ちなみに、昨日までは何をしていたのよ?」
「ん? ああ、今日明日の修学旅行を邪魔されたくなかったから、色々と調整をな」
「調整ってなんだよ」
「主に他のものに申し送りなどじゃな。今まで深く言っておらなんだが、今の柊市には組織からそれなりの人数が来ておるのでな」
「なるほど、シフトの調整とかそういうの?」
「そういうところは魔法使いも変わらないのね……」
「それでもわしにしか対処できんような事態が起きたら、飛んでいかねばならんがな。ま、そんなことはまだ起こらんと思うが」
「……ひーちゃん、そういうのフラグって言うんだよ……!」
二次元だったら、絶対何か起こるやつ! 今のはそういうセリフだったよ!
でもわたし以外は誰もそこは気にならなかったらしい。確かに、オタクだからこその発言だったとは思うけど。
それに、どうやらふーちゃんは他に気になったところがあったらしい。
「待って光さん、『まだ』って……まさか、何か起こるのは確定なの?」
「おっと、気づいてしまったか。やはりお主は聡いのう。うむ、近い将来に間違いなく。具体的には、柊市の封印が解けて怪獣が出てくる」
「えええええ!?」
「嘘だろオイ!?」
「なにそれ超怖いんですけど!?」
思わずわたしたち三人は立ち上がりながら机をたたいた。
だけどひーちゃんは、やっぱり動じることなくのんびりクレープをほおばってる。
「そのために色々しておるところじゃよ。安心せい、必ずなんとかするゆえな」
……言ってることはすごくかっこいいんだけど。
ほっぺに生クリームがついてるから、全然かっこよくないんだよなぁ。かわいくはあるんだけど。
本当に大丈夫かな……。いや、今までのひーちゃんを見てれば大丈夫だとは思うよ。
心配なのは、ひーちゃんががんばりすぎないかってことだよ。だって魔法って、使いすぎると悪魔になっちゃうんでしょ?
二次元だと、強い相手と戦うときに限界を越えちゃって身体に悪い影響が出る、なんてお約束じゃん。わたしそんなのリアルで見たくないし、悪魔になったひーちゃんに殺されるのなんてもっとイヤだからね!
そう言ったら、光さんは嬉しそうに笑った。
ずるい。そんな顔されたら、もう何も言えなくなっちゃうじゃないか……。
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