第145話

 


用意された客室に行くといつの間に用意したのか、一国の王太子の婚約者としてふさわしいような豪華なドレスが用意されていた。


「・・・ピンクねぇ。」


用意されていたドレスはピンク色。しかも、フリルが贅沢にあしらわれている。


スレンダーな体系の私には似合いそうもない。


一種の嫌がらせだろうか。


「・・・誰が用意したのかしら。」


以前の私だったら似合っていただろうドレスを見て苦虫を噛み潰したように顔を顰める。


「ナーオット殿下からの指示でございます。」


「そう。」


この少女趣味前回なドレスはナーオット殿下が自ら用意したドレスのようだ。


「別のドレスはないのかしら?」


「・・・大変申し訳ございませんが、時間的にご用意することができかねます。」


マルガリータさんはそう言って頭を下げた。


「・・・そうですか。」


しかし、ナーオット殿下の思惑通りにこのドレスを着るのは憚られる。


どうするべきかとしばらく考え込み。


一つの結論を私は導き出した。


「今の警備状況なら少しくらい抜け出しても大丈夫よね?」


「え?あ、はい。レイチェル様が治してくれたお陰で、幸い近くにはナーオット殿下の血の影響を持っているものはおりません。今であれば少しくらいなら抜け出しても大丈夫でしょう。ですが、ドレスには着替えなければなりませんので時間はあまりありません。30分程度でお戻りいただけますか?」


マルガリータさんはそう言って承諾してくれた。


30分もあれば余裕で戻ってこれるだろう。


だって、自宅にドレスを取りに行くだけなのだから。


「ドレスと装飾品を取ってきます。安心してちょうだい。30分以内には必ず戻るから。」


「え、あ、はい。気を付けていってらっしゃいませ。レイチェル様。」


今まではナーオット殿下の血に操られている人が城の中にもたくさんいたので安易に転移することができなかったが、今はほとんどナーオット殿下の支配下にいるものはいない。


少しくらい私がいなくなったってナーオット殿下にバレる危険性は少ないのだ。


なら、このままエドワード様達を連れて逃げてしまえばいいというかもしれないが、そう言う訳にもいかない。


まだまだ私にはこの場所で、やらなければならないことがあるのだから。


 


 


 


 


「よかった。まだここにあったのね。」


私は、皇太子宮に用意された私の部屋に転移した。


勝手に皇太子宮から逃げ出した私の部屋が残っているとは思わなかったが残っていてよかった。


もし、私の部屋が残っていなかったら私はドレスの行方を探さなければならなかったからだ。


まあ、その場合は十中八九私の家にあるとは思うけれども。


ただ、部屋の中には誰もいなかった。


私に付いていた侍女もいない。


ただ、私が居た頃のままの状態で放置された部屋がそこにはあった。


しかも、掃除をしていないのか埃が積もっている。


皇太子宮に努める侍女たちが掃除を疎かにすることなどないはずだから、きっとエドワード様の指示だったのだろう。


「この部屋に入るな。」とでも言ったのだろうか。


後でエドワード様に確認しなければならない。


私はエドワード様との婚約式の際に仕立てたドレスとエドワード様から贈っていただいた豪華な装飾品を手に取った。


保管場所も全く変わっていなかったのだ。


丁寧に保管されていたからか、ドレスには皺もなければ染み一つなかった。


このままで十分着ることができる。


また一度しか袖を通していなかったので新品といってもおかしくない状態だ。


1年以上前に仕立てたドレスだったので流行遅れの型だったらとも思ったが、シンプルで流行にとらわれないデザインにしたのが幸いして、今着ても恥ずかしくないデザインのドレスだ。


私はそれらを手にするとすぐにヤックモーン王国の客室に転移した。


「お帰りなさいませ。レイチェル様。」


「ただいま帰りました。変わったことはあったかしら?」


ヤックモーン王国に戻った私はマルガリータさんとマルゲリータさんに出迎えられた。


二人とも急に現れた私に驚くこともなく対応してくれる。できた侍女たちだ。


「特に変わったことはございません。」


「そう言えば、ハズラットーン大帝国の皇帝陛下が式典に参加されるようです。先ほど到着して控室で待機しておりました。」


マルゲリータさんがハズラットーン大帝国の皇帝陛下がここにやってきていることを教えてくれた。


そうだよね。


ナーオット殿下が王太子になるという発表の場なのだ。


ハズラットーン大帝国の皇帝陛下にももちろん声をかけただろう。


そうして、皇帝陛下はナーオット殿下の血に操られている。ナーオット殿下が確かにそう口にしたのだ。


いつ皇帝陛下の口につけるものにナーオット殿下の血を紛れ込ませたのかわからないが、毒見が口に含んでも明らかな毒ではないのだ。きっと気づかずに口にしてしまったのだろう。


「皇帝陛下にも治癒魔法をかけないといけないわね。下手をすると今日呼ばれている各国のお客様たちにも治癒魔法をかけなければいけないわ。」


「先ほど確認してきましたところ、各国最低でも1名ずつ以上はナーオット殿下の支配下にあるようです。」


マルゲリータさんがそう報告してくれた。


どうやらマルゲリータさんは諜報活動もしているのか、多様な情報を持っている。


「ありがとう。彼らも治癒魔法をかけなければならないわね。」


「はい。それに、城下の者たちにも確認できただけで100人はナーオット殿下の支配下におかれています。」


「そう。かなり多いわね。最近、街に出没していたのは自分の血を人々に飲ませるためだったのね。」


「たぶんそうかと思います。」


「その人たちは今日の式典に集まるかしら?」


「はい。必ず集まるでしょう。ナーオット殿下は彼らにそのように指示しておりましたから。」


一か所に集まってくれるのであれば、とてもやりやすい。


まとめて治癒魔法をかけてしまえばいいのだ。


ただ、一度に10人以上に治癒魔法をかけた経験はない。


果たして私の魔力量で100人以上の人に一斉に治癒魔法をかけることができるのだろうか。


ううん。できるのかではない。やらなければならないのだ。


それに、私は一人ではない。


エドワード様がいるし、ユキ様もいる。


それに、ヤークッモ殿下も協力してくれている。というよりヤークッモ殿下に私たちが協力しているので、ヤークッモ殿下の治癒魔法も期待できるだろう。


「もうすぐ式典ね。」


「ええ。よくお似合いですわ。」


「ありがとう。」


さあ、ナーオット殿下との最終決戦の場に行きましょう。


全てを終わらせるために。


 


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