第140話

 


「不満・・・ですか?なぜ僕がナーオット殿下に不満を持たなければならないのでしょう?」


微笑んだままヤークッモ殿下は告げる。


やっぱり、ナーオット殿下に操られているのだろうか。


でも、それにしては何かおかしいような気がする。ナーオット殿下に違和感を感じるのだ。


「いえ、元々ヤークッモ殿下が王太子でしたでしょう?」


「ええ、そうですね。」


「その王太子の座をナーオット殿下に譲ってしまってよろしいのでしょうか?」


ずっと変わらず微笑んでいるヤークッモ殿下。


私の方が混乱してきてしまった。


今までナーオット殿下に操られていた人たちは軒並み目に生気がなかったからだ。


「ナーオット殿下こそ、王太子に相応しい。僕はそう思っていますよ。」


そう発言するヤークッモ殿下の表情は全くといっていいほど変わらない。


逆に国王陛下は表情が徐々に曇っていく。


私はそれを見て、ヤークッモ殿下を睨みつける。


「ああ、怖い顔をしているね。レイ。そんなに私が王太子となってこの国を、この世界を統一するのが嫌なのかい?私は相応しくないというのかい?」


「ええ。そうよ。」


「はははっ。レイは本当に反抗的になったね。・・・許せないな。レイは私にただ従っていればいいんだよ。私の所有物であり、玩具になっていればいいんだよ。レイには意識なんて必要ないんだ。」


不敵に笑ったかと思えばすぐに真顔になり、私のことを射抜くように鋭い視線で睨みつけてくるナーオット殿下。


その視線だけで人を殺せそうなほどだ。


私は思わずその視線を受けてすくみ上った。


国王陛下の顔色も悪い。しかし、やはりヤークッモ殿下の微笑みだけは変わらずそこにあった。


「・・・ひ、人のことを玩具と言う人間に国を統べることは無理です。それは国を支配するだけです。」


「それの何が悪いんだ?私は支配するんだよ。すべての人々を。」


ニヤリとナーオット殿下が不敵に微笑む。


ナーオット殿下は民のことなど考えてはいない。


きっと私にしたように恐怖で国を支配しようとするのだろう。


そんなことは許せない。


「王というのは民のためにあるのです。王のために民があるのではありません。それをはき違えている貴方が王に相応しいはずがありません。」


「言ってくれるね、レイ。まるで私に従う前のヤークッモを見ているようだよ。君も私の血を飲んで私に従うがいい。」


きっぱりとナーオット殿下が王に相応しくないと言い切った私に、ナーオット殿下は余裕の笑みを浮かべる。


でも、ナーオット殿下は忘れたのだろうか。


私が一度ナーオット殿下の血を飲んでいることを。それでも、私にはナーオット殿下の血の力が影響しなかったことを。


「私には貴方の血は効かないわ。」


キッとナーオット殿下を睨む。


だけれども、ナーオット殿下は不敵に笑った。


「きっと私の血の量が少なかったのでしょうね。ヤークッモ殿下も少量の血じゃ効果がなかったんですよ。何回も血を与えたところやっと私の言うなりになった。だから、レイももっと私の血を飲むといい。ヤークッモ殿下、国王陛下、さあ、目の前にいるレイを捕まえていなさい。私の血をたっぷりと飲ませてあげましょうね。レイ。」


「なっ!?」


ナーオット殿下がそう言うと、ゆらりとヤークッモ殿下と国王陛下が立ち上がった。


 


 


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