第133話
しばらくして、侍女が2人部屋に入ってきた。
どうやらこの人たちが私に付けられた侍女のようだ。
「レイチェル様。本日よりお世話をさせていただきますマルゲリータと申します。」
「同じく本日よりお世話をさせていただきますマルガリータと申します。」
二人の侍女の目には生気が感じられなかった。
二人のどこか悲観したような瞳が印象的だった。
それにしても、同じような名前で間違えてしまいそうだ。
赤毛を後ろで一つの三つ編みにしているのがマルゲリータさんで、赤毛をサイドで2つに分けて三つ編みをしているのがマルガリータさんだ。
容姿も背格好も似ているので、姉妹なのだろうか。もしかすると双子かもしれない。
髪型が違わなければ判別がつきそうにない。
「よろしくお願いいたします。あの、エドワード様たちはご無事ですか?」
どうしても聞かずにはいられない。
私と別れて地下牢に捕らえられてしまったエドワード様たちの状況を。
「・・・国王陛下が私たちに命じられたのはレイチェル様がこのお城で不自由なく過ごせるように配慮せよとのことです。」
「レイチェル様のお心のケアもするようにと国王陛下からは言われております。」
マルゲリータさんとマルガリータさんはそう言って恭しく一礼した。
国王陛下・・・二人の話からすると私にとても配慮してくれているように思える。
どういうことだろうか。
なにか・・・裏がある?
「・・・レイチェル様のお連れの3人はご無事でございます。」
マルゲリータさんが、そう言ってさりげなく耳打ちしてきた。
「え?」
と、振り向くもマルゲリータさんはマルガリータさんと一緒にそのまま部屋の説明や城についての説明を始めた。
「エドワード様・・・。ユキ様、マコト様・・・。ご無事だとは聞いたけど不安だわ。シロ様とクロ様の力を使って転移できないものなのかしら・・・。」
ぼんやりと用意されたソファーに腰かけながら何気なく呟く。
そして、ハッとする。
そうよ。転移すればいいんだわ。
エドワード様たちの元へ転移すればいいのよ。
女神様は私の中にライラの魂があると言っていた。
と、言うことは、だ。
きっと私の中のライラが目覚めれば転移の魔法が使えるはず。
ただ、使えたところで一度でも行ったことのある場所にしか転移できないのでいきなり地下牢には転移することはできない。
地下牢の場所もわからないしね。
でも、なんとなくだが、マルゲリータさんに聞いたら教えてくれそうではある。
案内してくれるかは別として。
「レイチェル様。お部屋にいるのも退屈でございましょう?お城の中を案内いたしましょうか?国王陛下からの許可は取ってあります。」
マルガリータさんがぼんやりとソファーに座って物思いに耽っている私に声をかけてきた。
相変わらずその表情と声には生気が感じられない。
「ええ。そうね。お願いしてもいいかしら?」
「はい。かしこまりました。ご案内いたします。お召し物はそのままでよろしいでしょうか。」
「ええ。構わないわ。」
私はスッとソファーから立ち上がった。
さり気なく、さり気なくマルガリータさんに確認をすればいいのだ。地下牢の位置を。
「そう言えばマルゲリータの姿が見えないようだけれども・・・?」
いつも二人一緒にいるのに今日はマルゲリータさんの姿が見えない。どうしたのだろうか。
「・・・マルゲリータは所用ででかけております。レイチェル様の許可も得ず持ち場を離れてしまい申し訳ございません。」
「あ、いいの。謝らないでちょうだい。ちょっと気になっただけだから。」
マルガリータさんは深々とお辞儀をして謝ったので、私は慌てて両手を振った。
「・・・では、参りましょうか。」
「はい。お願いいたします。」
マルガリータさんはそう言って先導に立って静々と歩き始めた。
近場の部屋から一つ一つ丁寧にマルガリータさんは教えてくれた。
それにしても、マルガリータさんは足音が全くしない。
まるで、廊下を滑るように移動しているようだ。
皇太子宮の侍女たちだってここまで足音を立てずに移動することなどできなかった。
不思議に思ってマルガリータさんの足元を見る。
「・・・なにか?」
すると、視線に気づいたのかマルガリータさんがこちらを振り向いた。
「いいえ。なんでもありません。」
慌てて取り繕う。
まさか、マルガリータさんの足元を見ていましたなんて言えない。
マルガリータさんは、「そうですか。」と言い、そのまま階段を降りだした。
今更だが私に割り当てられていた部屋は2階の部屋だった。
階段を降りたということはこれから1階を案内してくれるのだろうか。
でも、1階に降りた一番最初にある部屋は案内してくれず、どんどん奥の方に進んでいく。
奥に行けば行くほど人が少なくなっていく。
「・・・マルガリータさん?」
不思議に思ってマルガリータさんの名前を呼ぶとマルガリータさんはピタッと足を止めた。
そうして、こちらをゆっくりと振り向いた。
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