第121話

 


どれくらい気を失っていたのだろうか。


気づけば、私はベッドの上に横になっていた。


ユキ様が運んでくれたのだろうか。


ベッドから起き上がり、あたりを見回す。


すると、ベッドサイドの椅子にユキ様が腰かけて眠っていた。


どうやら相当な時間が経ってしまっているようだった。


座ったまま器用に寝ているユキ様にそっと近づき、その肩を優しく叩く。


「ユキ様。起きてください。」


優しくささやきかけると、ユキ様の目がググっと動いた。


「ううーん。レイ・・・。」


「ユキ様。ベッドで寝ましょう。」


覚醒しかけのユキ様に微笑みかければ、ユキ様は目が覚めたのか右手でコスコスと目を擦っていた。


「レイっ!!起きたのねっ!!」


しばらく夢うつつだったのかボーッとしていたユキ様だったが、パチっと目を開けて私を認識すると急に飛びついてきた。


「わっ・・・。ご、ごめんなさい。心配をおかけいたしました。」


たたらを踏んで飛びついてきたユキ様を受け止める。


ユキ様がすごく心配してくれていたことに気づき申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「ほんとよ、レイチェル。心配したのよ!いったい何があったの?」


ジッと見つめてくる大きな瞳に吸い込まれそうになる。


「あ、あの・・・。」


「教えて、レイチェル。あなたもナーオット殿下と認識があるのかしら?」


「よ・・・よくわからないのです。でも、ふいに頭の中にナーオット殿下が浮かんできて、酷い言葉で罵ってきたのです。それとともに暴力までふるわれるイメージが浮かんできて・・・。私、怖くて・・・怖くて・・・。」


今もその時のことを思い出そうとすると、怖くて身体が震えてきてしまう。


「レイチェルっ!!?あなた、もしかして・・・。」


ユキ様が目を大きく見開いて私の顔を覗き込む。


そうして、ギュッと私を抱きしめてきた。


「辛いことを思い出させてしまってごめんね。あなたはレイだったのね・・・。転移ではなくて転生したのね。」


「えっ?」


転移ではなく転生?


ユキ様はいったい何を言っているのだろうか。


そもそも思い出すとはナーオット殿下のこと?


あれは作られた記憶ではなく私の過去の記憶ということなのだろうか。


「ずっとあなたのことをレイと似ていると思っていたの。でも・・・レイだったんだね。ごめんね。助けてあげられなくて・・・。こんどこそ、レイだけは助けてあげるからね。」


「・・・ごめんなさい。よくわからないの。」


ギュッと抱きしめてくるユキ様の体温が暖かくて、そのままユキ様に身体を預ける。


でも、ユキ様の言っていることの半分も理解ができずにいる。


「レイ。辛い記憶は思い出さなくてもいいのよ。私のことだって忘れたままでいい。でも、あなたには幸せになってほしい。」


「ユキ様・・・。私、ユキ様にも幸せになってもらいたいのよ。」


なんだかわからないけれども、心の中が暖かくなってくる。


ユキ様に触れているからだろうか。


「それにして、レイってば前世でも今世でもナーオット殿下に幸せを邪魔されるだなんて因果かしらね。許せないわね。」


「・・・ユキ様。」


確かに、ナーオット殿下がエドワード様を暗殺しようとしているという動きがあるということがライラからもたらされた。そのため、エドワード様が私を危険から遠ざけようとするために、婚約を破棄したということも。


私は幸せになってはいけない運命なのだろうか。


「でも、ナーオット殿下も前世の私が知っている彼と同じ性格とは限りません。」


「・・・いいえ。きっと同じだわ。というか、ナーオット殿下は異世界からの迷い人よ。絶対そうだわ。だって、レイはレイチェルに転生したら見た目全然違うでしょ?だから、あれは本人だわ。」


「そ、そんな・・・。」


「ナーオット殿下はエドワード様を亡き者にして何をしようというのかしら。気になるわね。さっきは逃げてしまったけれど、今度はちゃんとに情報収集する必要があるわね。でも、私の見た目だとナーオット殿下にバレてしまうわ。」


それもそのはず。


ナーオット殿下がナオトだとしたらユキ様のこともすぐにわかるだろう。


だって、ユキ様はいつも私のことでナオトにつっかかっていたから、きっと彼は覚えている。


そう思い至った瞬間、背筋をゾッとしたものが走った。


 


 


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