第120話

 


「ユキ様のお知り合いということは・・・異世界からの迷い人なんでしょうか・・・?」


ユキ様が知っている人というのはこの世界では限られてくると思う。


まだ、ユキ様がこの世界に来てから知り合った人はそれほど多くはないだろう。


しかも、他国の知り合いなんてほとんどいないはずだ。


その少ない可能性に第二王子であるナーオット殿下が入るとは思えない。


だとすると、やはりユキ様がいた世界の人間と考えるのが普通だろう。


「ええ。そうよ。私の親友の元旦那よ。」


ユキ様は吐き捨てるようにそう言った。


「まあ。でも、なぜそんなに嫌な顔をしているのかしら?」


なぜ、親友の元旦那というだけで、あの場から逃げたのだろうか。


パッと見た感じでは高貴なオーラはあるが好青年だと思ったのだ。


ユキ様が苦虫を噛み潰したような表情をしている理由がわからない。


「あいつは外面だけはいいから。私も騙されたわ。」


ユキ様はそう言って、ギュッと手を握り締めた。


堪えきれないほどの苛立ちを感じているようだ。


「あいつは私の親友を傷つけて死に追いやったのよ・・・。」


ユキ様がそう言った瞬間、私の頭の中にフラッシュバックのようにナーオット殿下の冷たい表情と酷い罵りの言葉が甦ってきた。


それは、とても聞くに堪えない言葉だった。


ギュッと目を瞑って、耳を両手で塞ごうが彼の表情も言葉も呪いのように消えてはくれない。


ただただ、頭の中には彼の言葉がこだまして消えない。


「・・・あっ・・・いやっ・・・。もう・・・やめてっ!!」


身体のあちらこちらに走る痛み。


心を抉るような言葉の数々が私を苛む。


これは・・・なに?


私はナーオット殿下と直接やり取りをした覚えなんてないのに。


なぜか、昨日あった出来事のように鮮明によみがえってくる光景。


思わず耐え切れなくて叫んでしまった言葉。


「レイチェルっ!!?どうしたの!!!」


「いやっ!!いや・・・。こないでっ!!!私が・・・私がいけなかったの。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。許してください・・・。」


「レイチェルっ!!しっかりしてっ!!」


頭の中で繰り返される光景に狂ったように叫び謝る私に困惑しながらも、ユキ様は必至に私を抱きしめていてくれた。


その体温がとても暖かく感じる。


恐怖に震える身体をユキ様が優しく包み込んでくれる。


「あ・・・いやぁ・・・。」


少しずつ、頭の中からナーオット殿下の姿と声が薄れていく。


それでも、衝撃はなかなか冷めやらない。


「レイチェル!レイチェル!!」


ユキ様がギュッと私を抱きしめる腕に力をこめる。


「・・・ゆき・・・ちゃん。・・・助けてぇ・・・。なおとさんが・・・。もう・・・耐えられないの・・・。」


抱きしめてくれているユキ様の背にすがるように手を回して力をこめる。


「・・・レイっ!?」


頭がボーッとする。


そのまま身体の力が抜け、自分で自分を支えることもできなくなってくる。


ユキ様から懐かしい呼び名が聞こえて安心して、そっと目を閉じた。


 


 


 


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