第88話
「さて、ライラさん。貴女は本当はどこに行こうとしていたんですか?散歩では無いでしょう?」
マコト様の優しげな声が鼓膜を刺激する。
甘い甘い声。
その声に従わなければならないと強く感じた。
「アックドーイ侯爵のところに行こうと思いましたの。」
「それは何故ですか?」
甘い声で問いかけてくる。それは、とても耳に心地よくて、身体中の力が抜けていくようにも感じた。
「暗殺しなきゃいけないの。」
「それは、何故ですか?」
身体中がふわふわとしているように感じる。まるで、雲の上を歩いているように足元が頼りない感じがする。
「教会の子供たちを助けなければならないの。」
「私がアックドーイ侯爵のことは対処すると言いませんでしたか?信じられませんでしたか?」
「信じていないわけではないわ。でも、一刻も早く子供たちを助けなければと思ったのよ。」
マコト様の声はとても甘い声なのに、どこか私を非難しているようにも聞こえて、思わず涙がポロリッとこぼれ落ちた。
その涙をマコト様の指が優しく拭う。
「泣かないでください。貴女は子供が好きなんですか?」
「昔の私を見ているようだったのよ。子供の頃に誰かが手を差し伸べてくれれば、暗殺者になんてならなくてすんだのに。私も普通に生きたかった。」
ポロリポロリと次から次へと涙がこぼれ落ちていく。それをマコト様が優しく拭う。
こんなことまで話すつもりはなかったのに。どうしてだろうか、マコト様の質問に素直に答えてしまう私がいる。
「どうして暗殺者になったんですか?」
「私のような孤児が生き残るためには、裏家業に従事ることしかなかったの。私が産まれた町は、孤児に優しい町ではなかったわ。」
「それで?」
「孤児たちはスラムに行くしかなかった。食べるために盗みは当たり前の毎日。盗んだことがバレて捕まれば殴ったり蹴られたり………。」
「そうでしたか。辛かったですね。」
「孤児は普通の仕事にはつけなかったわ。だから、暗殺者になったのよ。他の孤児の子達を助けるためにはお金が必要だったのよ………。どうしても、お金が………必要だったのよ。」
マコト様の温かい手が背中を優しく撫でてくれる。その温かさに、涙が溢れ出す。
「私には………生きるためには誰かを殺すしかなかったのよ………。それしか、できなかったの。」
「でも、ライラさんには回復魔法がありましたよね?どうして、それを使わなかったんですか?それを使えば暗殺者にならなくても、よかったんではないですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます