第78話
『ありがとう』それは感謝の言葉。
心からの『ありがとう』という言葉はこんなにも気持ちの良いものだったのだろうか。
「・・・ありがとう。」
暖かい気持ちをくれてありがとう。私に嬉しいという思いをくれてありがとう。
いつのまにか、涙がツーッと頬を撫でていた。
「お姉ちゃん・・・なんで、泣いているの?」
ベッドに横になっているメリルちゃんが、不思議そうに訪ねてくる。隣にいるシスターはなにも言わず私たちを優しく見守っていてくれた。
「メリルちゃん、ありがとう。ありがとう・・・。」
そっと、メリルちゃんと手を繋ぐ。
繋いだ手からは暖かい魔力が感じられる。
メリルちゃんが私を癒そうと魔力を注いでくれているのがわかる。
とても、暖かい魔力だ。
「?お礼を言うのは私だよ。お姉ちゃん、ありがとう。」
メリルちゃんは首を傾げながらも満面の笑みで私を見つめる。
その顔には、先程までの絶望なんて全く感じられなかった。
「ずっと寝ていたから、きっとすぐには歩けないと思う。私と一緒にリハビリしようね。」
「うん!」
寝たきりだったから必要な筋肉が落ちてしまったメリルちゃんは、いくら身体を癒したとてすぐに歩くことはできない。
それでも、リハビリをして歩くということを身体が思い出せればきっと歩くことができるだろう。
とくにメリルちゃんはまだ若いし、すぐに歩けるようになると思う。
「ありがとう。ライラさん。ありがとう。お礼を言うことしかできない私たちを許してちょうだい。」
シスターはそう言って目に涙を浮かべながら私の手を握ってきた。
「・・・明日からも来ていいですか?」
「もちろんよ。是非いらしてちょうだい。」
「メリル治ったの!?」
「メリルっ!?」
シスターと話していると、メリルちゃんの嬉しそうな声がドアの外まで聞こえたのか、ライムちゃんとカエデくんが部屋に飛び込んできた。
そして、ベッドの上に起き上がっているメリルちゃんを見つけて二人ともベッドに駆け寄る。
「お姉ちゃんが治してくれたの。まだ歩けないけど、足が動くようになったのよ。」
ベッドから足を出して、動かして見せるメリルちゃん。その姿をみて、ライムちゃんとカエデくんは嬉しそうに笑った。
満面の笑みでメリルちゃんを見つめるライムちゃんとカエデくんを見ていると私まで嬉しくなってくる。
「「ありがとう。おねえちゃん。」」
その二人の満面の笑みは私にも向けられた。
とても、暖かな感情が私の心の流れ込んでくる。
忘れていた気持ちがじょじょに思い出されていった。
「どう、いたしまして・・・。」
人には必ず一人は心配をしてくれる人がいる。エドワード様もそう。
エドワード様も死んでしまえば誰かが悲しむだろう。
レイチェルの記憶を知ってからずっと悩んでいた。 エドワード様を本当に暗殺していいのかどうかを。
でも、こうして目の前で見せられた小さな命の輝きと、忘れていた誰かから感謝の気持ちを向けられる嬉しさ。
人を暗殺しても、こんなに純粋に誰かが喜んでくれるわけではないことを改めて思い出す。
エドワード様は殺せない。殺してはいけない。
私は・・・暗殺家業から足を洗わなければ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます