第77話


「お礼なんて、この子たちの笑顔をもらえればそれでいいわ。でも、私には治せないかもしれないわ。それでもいいかしら?」


小さな子供が悲しんでいる姿は見たくない。

今までにはなかった気持ち。

ライラの人生では持ち合わせていなかった気持ち。きっと、レイチェルの記憶が混ざりあったことで芽生えた気持ちだ。

なぜか、この気持ちを大切にしたいと思った。


「それは・・・。よろしいのでしょうか。メリルを診ていただけるだけで・・・。」


シスターは目にうっすらと涙を浮かべてこちらを見つめていた。

その瞳には不安と期待が同居していた。

シスターに案内されて、メリルの部屋に向かう。

メリルという少女は質素な部屋のベッドに寝かされていた。

その目は虚空を見つめているように見えた。


「メリルちゃん。」


恐る恐る声をかけると空虚な瞳が私に向けられた。絶望を感じている瞳を見るのはとても久しぶりだ。

希望もなにも持っていないその瞳をみて、過去の自分を思い出す。


「メリルちゃん。大丈夫よ。すぐによくなるわ。」


私は、そう言ってメリルちゃんに笑いかける。でも、メリルちゃんはこちらを見てもくれなかった。


「・・・・・・。」


「すみません。メリルは動けなくなってからずっとこんな調子なんです。事故にあうまでは、とても笑顔の似合う元気な女の子だったんですが・・・。」


シスターはそう言ってメリルちゃんの手を取ると優しく擦った。

その姿からはシスターがメリルちゃんをとても大事にしていることが伺えた。

私はボーッと虚空を見ているメリルちゃんの傍らに立つと、魔力を手のひらに集める。

その手をメリルちゃんの胸元にそっとあて、魔力を優しく流し込んだ。

じょじょに、メリルちゃんの身体を薄い光の膜が覆っていく。

メリルちゃんが治るようにという気持ちを込めて、魔力を巡らせていくとあることに気づいた。

メリルちゃんの身体が回復していくのがわかった。それも、ものすごい早さで。

私だけの力ではこんなに早く回復させることができない。

そのことに気づいて、メリルちゃんの身体を覆う魔力を注意して見つめた。

私の魔力に呼応するように絡み付く暖かい魔力。それは、メリルちゃんの魔力だった。


しばらくして、治療は終わった。


「・・・メリル?」


メリルちゃんはベッドの上に寝転がったまま足を勢いよくバタつかせた。

そして、バタつかせていた足の勢いが少しずつ削がれていく。


「メリルちゃん・・・?」


もしかして、失敗してしまったのだろうか。

メリルちゃんの魔力と私の魔力が混ざることで驚異の回復力を見せたのに。


「・・・っ・・・うっ・・・。」


メリルちゃんの目から透明な涙が溢れ出す。

両手で溢れてくる涙を拭っているが、涙は止まることを知らない。


「・・・ありがと。」


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