第50話

 


「・・・エドワード様を追いかけなければ。」


一人にしてほしい。そう言われてエドワード様を先に行かせてしまったが、あんな辛そうな表情を浮かべているエドワード様を一人になんてどうしてもできない。今にも儚くなってしまうのではないかと思わせる表情をしていた。


思いつめたその顔を見ると、こちらまで辛くなってしまう。


慌ててエドワード様が消えていった方に視線を向ける。


まだ、エドワード様がいなくなってから30分も経っていないだろう。


きっと、走って追いかければ追いつけるはず。


走ることなんて産まれてからずっとなかった。


淑女として育てられた故、優雅に美しくを徹底されて生きてきた。


走ろうものなら侍女に怒られてしまうような生活だ。


だから、今まで走ったことなどない。


しかし、なぜだか今日はとても早く走れそうな気がした。


「エドワード様。待っていて下さい。」


足を軽く踏み鳴らしてウォーミングアップする。


右足を前に出してから地面につける。次は左足。


だんだんと速度を上げる私の足の動き。


周りの景色があっという間に変わっていく。どうやらかなりの速度で走っているようだ。


 


ドンッ!!


 


突如辺りに鈍い音が響いた。


「はっ。」として辺りを見渡す。すると、すぐ近くにエドワード様が蹲っていた。


ゆっくりとエドワード様に近づく。


「くそっ!こんなはずでは!!」


地面を思いっきり叩きつけながら慟哭するエドワード様に、声をかえようと喉元まで出した声を飲み込む。


あんなにも他人の気配に敏感だったエドワード様が私に気付くこともなく泣き叫んでいる。


「・・・レイだけは守りたかったのに。なんのために婚約破棄までしたんだ・・・。レイ・・・レイ・・・。」


・・・私?


エドワード様は私のために泣いてくださっているの?


私を守るために婚約破棄をした?


どういうことなのだろうか。


泣き叫んでいるエドワード様の原因が私にあって少し嬉しいと思ってしまった。


私を思ってこんな姿を見せているエドワード様を愛しいと思ってしまった。


私はエドワード様にまだ愛されていた。それが、わかったから。


そっと、エドワード様に近づき、後ろからエドワード様を包み込むように優しく抱きしめる。


ビクッとエドワード様の肩が大きく揺れた。


「大丈夫です。レイは大丈夫です。」


『エドワード様の側に姿を変えております。』そう伝えたいが、嘘だと思われてしまう可能性もあり、もし嘘だと思われてしまった場合には、エドワード様が激昂するこがわかったので、その言葉はぐっと飲み込んだ。


 


 


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