第36話


「……する時しか景子さんからあんまりしてくれないのにいきなりキスしてくるし、舌入れてくるから……景子さんに求められてるみたいでドキドキしました。……それに景子さんキスうまいから……ちょっと興奮するんです……」


言い訳みたいに言う莉緒には笑ってしまう。自分だって舌を絡めてきたくせに。


「莉緒はキスする時に奥まで入れていろんなとこなぞられるのがいいからしてるだけだよ。ちょっと強引な方が好きでしょ?」


何度かすれば良いところなんてすぐに分かる。莉緒は目に見えて恥ずかしがっていた。



「……それは、ぞくぞくするから…なんか疼いちゃうだけです……」



「そう。キスしただけで盛りすぎじゃない?」


「だって、……だって、気持ちいいから…」


恥ずかしいのか目線を下げてしまった莉緒の頭を撫でた。ああいう事をするくせになぜ恥ずかしがっているのか分からない。


「ケーキ食べな。食べたらプレゼントあげるから」


「…はい」


「そんな照れてるとプレゼントあげないよ?」


「……そんなに照れてませんもん……」


「あっそう」


ちょっといじってやったらすぐに向きになった。本当にガキだ。

私は照れている莉緒をそのままにケーキを食べた。



そしてお待ちかねのプレゼントである。私は待ちきれなさそうな莉緒にまずはゲーセンで取った物を渡した。


「これ、莉緒が好きかなって思ってゲーセンで取ってきた」


「わぁ!可愛い!ありがとうございます!大事にしますね?」


「…あぁ、うん……」


莉緒はなんかのキャラの犬の大きなぬいぐるみとフィギュアだけなのにすごく喜んでいて驚いた。ヒロミが言った通りだ。私は深読みし過ぎていた。喜ばすのは簡単な事だったようだ。莉緒は犬のぬいぐるみを抱き締めて満面の笑みを見せる。


「景子さんこんなおっきいぬいぐるみも取れるんですね?本当にすごいです。また私も一緒に行きたいですゲーセン」


「今度ね」


「はい!私も何か取って景子さんにあげますね?」


「いや、私は別にいらないから」


断ったのに莉緒は笑顔だ。


「いいじゃないですか。あげるから大切にしてください。私だと思って」


「……まぁ、考えとく」


「景子さん本当につれないんだから…」


自分で取れるから貰っても困るが、最初は難しいからまだ先の話になるだろう。私はそれから綺麗にラッピングされた大事なプレゼントを渡した。


「あとこれ。気に入るか見てみて?」


「え?まだプレゼントくれるんですか?」


「ゲーセンのはおまけ。これが本当のプレゼントだから。開けてみて?色々考えて買ってみたんだけど莉緒は好きじゃないかもしれないから」


これが一番重要だ。これで喜ばせてあげられなかったら無意味だ。莉緒は私が渡したプレゼントをぬいぐるみを置いてから丁寧に開けだした。少し緊張するがどうだろう。莉緒は中身を見てからすぐに嬉しそうに抱きついてきた。


「景子さんありがとうございます。本当に嬉しいです!」


「……そう」



どうやらこれも成功したみたいだ。やっと安心ができる。ちゃんとお祝いができた。莉緒は私から離れるとプレゼントを渡してきた。


「景子さん私につけてください!」


「もうつけるの?」


「はい!つけたいです」


「……じゃあ、後ろ向いて?」


私はプレゼントを受け取ると莉緒の首にプレゼントをつけてやった。莉緒はアクセサリーをよくしているからゴールドの可愛らしいチョーカーを買ったのだ。それは莉緒のお気に召したようだ。休みの日もデパートを練り歩いただけある。店員にしつこく聞いて今の若い子はこういうのが好きだと悟った私の努力は報われた。


「できたよ」


莉緒はつけてやるとすぐに私に向き直る。


「どうですか?可愛いですか?」


「うん。似合ってるんじゃない?鏡で見てきたら?」


「景子さんが可愛いって思ってくれるならいいです。ふふふ、嬉しい。大事にしますね?」


「うん」


嬉しそうにチョーカーを触る莉緒は目に見えて喜んでいた。それは見ていて安心するというか、うまく言えないが悪い気分じゃない。


「そんなに嬉しいの?」


莉緒があまりに嬉しそうに笑うから私は尋ねていた。いつも嬉しそうにしている事が多いけど今日はいつにも増して嬉しそうだ。


「はい!景子さんが私のためにお祝いしてくれてプレゼントまでくれたんですよ?嬉しくないはずありません。すっごく嬉しいです!本当に嬉しい誕生日になりました」


「そう。こないだはごめんね」


「もう平気ですから謝らないでください。景子さんが私を嬉しくさせてくれたので忘れました」


「そう」


無邪気に笑う莉緒には感謝しかない。泣いていたくせに流してれるのか。私は莉緒におもむろにキスをした。


「ありがとう」


許してくれなかったらどうしたらいいのか分からなくなるところだった。

私の心からの感謝に莉緒はまた照れていた。


「いきなりどうしたんですか?」


「許してくれたお礼」


「そんなの、…私は別に気にしてませんって言いましたよ?」


「泣いてたから、私は気にしてたの。今日もちゃんと祝って喜ばせてあげられるか心配だったし……。莉緒が喜んでくれて良かったよ」


私は普通に祝う事すらできなかったけど本当に今は安心している。ヒロミがいなかったらもっと酷い結果を招いていただろう。莉緒は私に凭れ掛かってきた。


「私の事、そんなに気にしてくれたんですか?」


「…気にしない訳ないでしょ。私達は付き合ってるし、莉緒は私にとって大切だと思うからね」


莉緒を愛しているからくらい言ってやりたかったのに言えなかった。早く言いたいけど大切な言葉だからまだ言えない。莉緒は私の手を握ると嬉しそうに私を見つめた。


「そんなに私を思ってくれるなんて嬉しいです」


「莉緒が私を思ってくれるからね」


「ふふふ。私は当たり前です。景子さんだけ愛していかないといけませんから。景子さん本当に愛してますよ?喜ばせてもらった分私も返せるように頑張ります」


莉緒は私の唇に軽くキスをすると私の首に噛みついた。


「景子さん?こないだみたいに私を喜ばせてくれませんか?」


それが何を指しているのかはすぐに分かった。そうだ、あれは誕生日じゃなくてもしてあげないといけない事だ。

私は莉緒を愛さないといけない。まだ分からなくても分かるようにやらないといけない。これは私のためでもあるが莉緒のためでもある。


「莉緒」


私は声をかけながら莉緒を抱き寄せると莉緒の目を見つめた。莉緒は首を噛むのをやめると私をうっとりと見つめる。


「好きだよ…」


「はい。私も大好きです。愛してます」


「……うん」


莉緒が好きな言葉は沢山言ってやりたい。まだ慣れないけど言い続ければ本当になる気がする。もう一度言おうとしたら誘うように囁かれた。


「景子さん私に触ってください。…もっと私を可愛がってください」


至近距離で笑う莉緒は空いている私の手を掴むと自分の胸を触らせてきた。私は少し笑うと強く胸を揉んだ。可愛がれば莉緒が喜ぶ。それなら今日はしてやりたい。


「これでいい?」


「はい。……はぁ、んっ、気持ちいいです」


「そう」


痛いくらい揉んでやると莉緒は身を捩るように体を動かして切なげな声を漏らす。痛いはずなのにこの子は本当に変態だ。


でも、痛みを感じる莉緒を見ていると気分が高まってくる。この感じはもう理解できた。私の中の支配欲が現れて私を飲み込んでくるのだ。私はそのせいで痛みに感じる莉緒をもっと支配してやりたい欲求に駆られる。あぁ、制御できるだろうか?私は笑いながら莉緒を押し倒すと服の中に手を入れて胸を揉みながら綺麗な首に手をかけた。


「莉緒、好きだよ」


「はぁっ……私も……んっ!……すきぃ…です…」


喜んで感じる莉緒を見ていると笑いが止まらない。もっとこれを見ていたいから愛してやりたい。

私は胸から手を離すと両手で首を絞めた。チョーカーごと首を絞めながら綺麗に笑う莉緒を見つめる。そして莉緒の好きな言葉を言っていた。


「莉緒、好きだよ。……好きだよ」


「はぁっ……、わ、私も……好き……です」


莉緒が喜んでくれるから目は逸らさない。私は感情の高まりを感じながら莉緒を見つめる。莉緒は私に苦しそうに愛を囁いてくれた。


「景子……さ、ん……はぁ……あ、あい……してます……」


「……」


それに私は笑いながらもっと強く首を絞めていた。莉緒の愛に応えるように。莉緒を愛したいから、この気持ちが伝わるように。


この愛する行為には私達にしか分からない深い意味がある。私の唯一愛を証明できる行為は莉緒が教えてくれたこれしか今はない。



「……だ、誰よりも……あい、…愛して……ます」


「……」


「景子……さん。……けい……こ、さん……だけ、……本当に……愛、して……ます」



莉緒の愛を聞くと愛に近付いている気がする。私は殺さないように名残惜しく思いながら首から手を離した。美しい莉緒を見続けているといつか殺してしまうかもしれない。見入ってしまって、綺麗だからもっと見ていたくなって私は普通じゃいられなくなる。


でも、莉緒は何がなんでも死なせてはいけない。それはちゃんと理解しているのに外れそうなストッパーになっている。

私は莉緒を大切にしたいのに殺してしまいたいのか?



私は莉緒の呼吸が落ち着くのを待ってから莉緒の頭を撫でながら話しかけた。


「……今日はもう終わりね」


こうやって制限をしないと莉緒を失くしてしまいそうで怖い。莉緒が喜ぶからあの行為は好きだけど長くやっていると私じゃなくなる。

莉緒は横になったまま嬉しそうに笑った。


「はい。すごく気持ち良かったです」


「そう」


「でも、景子さんの指食べたいです」


横になったままの莉緒は体を起こして私の手首を握ってきたから莉緒の目の前に指を見せつけた。


「食べたら?」


「はい!……ふふ、美味しい……」


「よかったね」


すぐに指を口の中に入れて噛んだり舐めたりしている莉緒は上機嫌だ。私は指を食べている莉緒を見ながら頭を撫でてやった。



「好きだよ莉緒」


莉緒をもっと大切にして愛さないといけないけど、私はあと何をすれば莉緒を喜ばせられるだろうか。


「私は大好きです。景子さんを愛してます」


指から莉緒の暖かさを感じながら莉緒の返答に笑うと莉緒は指を食べながら話した。


「景子さんは私を愛せてますよ。……こうやって私を愛する行為ができるんです。景子さんは私を愛せてます」


「……そうなの?……まだ私は分からない気持ちの方が多いのに……ちゃんと愛せてるって言うのかな?」


莉緒の私を安心させようとして言ったであろう言葉に揺らぐ。私は、……私は不安でもあるのだ。


私は知らない。


好きも、愛も、大切にするという事もはっきり説明できないし、どういう意味か自覚できていない。



莉緒が教えてくれるから理解できるようになってきているだけで、莉緒がいなかったら私は理解せずに死んでいた。


私には莉緒だけが頼りだった。

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