第188話「人魚の事情と、大いなる『衣・食・住』の秘宝」
──聖女デリリラの迷宮 プールの間──
「……だれ、でしゅか……?」
人魚のソーニアは僕を見て、そう言った。
舌っ足らずな口調だった。
ここは、聖女デリリラさまの迷宮。その奥にあるプールの部屋。
うす明るい水の中で、ちっちゃな人魚さんが僕を見てる。
人魚さんの名前はソーニア。年齢は10歳足らず。
水色の長い髪を身体にまきつけて、少しおびえた顔をしている。
下半身はお魚だ。水色の
水面にかすかな波紋が立ってるのは、ソーニアが震えてるから。
初対面の僕をこわがってるのかもしれない。
そうだよな……人魚さんたちを
「こわがらなくていいですよ。ソーニアさま」
プールサイドに腰掛けたイリスが、ソーニアの手を握った。
「この方はイリスの愛する方で、優しいご主人様なんですから」
「……やさしい、ひと?」
「ええ、とてもやさしくしてくださいます」
そう言ってイリスは小指で、唇を押さえた。
「最近はイリスも慣れてきましたので……もう少し強くしてくださってもいいのですけれど」
「こらこら」
頬を赤くしてなに言ってるんだよ。イリス。
「……やさしい、ひと」
ソーニアの震えが止まった。
イリスとふれあっていると、人魚のソーニアも安心するみたいだ。
イリスは『海竜ケルカトル』の血を引いてる。『海竜ケルカトル』は海の神様で、そこに住む亜人にとっても上位存在だ。だから、なにか通じ合うものがあるのかもしれない。
「助けてくださて、ありがとござました。勇者しゃま」
「今回は僕はサポートくらいしかしてないよ。君を助けたのは僕の仲間たちと、聖女デリリラさまだ」
「まぁねっ。デリリラさんは『気配りができる聖女』だからねっ!」
プールの真上で、ゴーストの聖女さまが「えっへん」って胸を張った。
人魚のソーニアが心配で、ずっとついてたらしい。ほんっといい人だよな。聖女さま。
「まぁ、気配りしすぎて仕事が辞められなくて早死にしちゃったんだけどねっ」
「自覚があるなら休んでください聖女さま」
この場にいるのは僕とイリス、聖女さまと人魚のソーニア。
あんまり人が多いとソーニアが緊張するから、みんなには外で待機してもらうことにした。
今ごろ迷宮の入り口で、お茶を飲みながら休憩タイムのはずだ。
「それでソーニア。もしよければ、海でなにがあったのか、僕に教えてくれないかな」
僕は言った。
同時に『
「……ふぁい」
「まずは僕の仲間が、君を見つけたときのことを話すね」
人魚のソーニアがうなずいたから、僕は続ける。
「あのとき、僕の仲間がとあるクエストを受けて、川の調査をしていたんだ。その場にいたのはすごく優秀な獣人の少女だった。
その子がなんやかんやの力を使ったら、水源の奥で君が倒れているのに気づいた。それを助けるために、特別な力を持つ騎士の少女の双子の妹がなんやかんやの力で空を飛んで、君を引っ張り出したんだ。
そしたら君と一緒に、鳥の姿をした聖女デリリラさんが現れた、というわけだよ」
「つまり、イリスの仲間が不思議な力を使って、ソーニアさまを助け出した、というわけでしょう」
「細かい突っ込みはなしにしてあげてね。ソーニアちゃん」
「…………うんうん」
人魚のソーニアは水面に半分顔を沈めて、答えた。
「あのねあのね。ソーニアはみなしゃまを、信じます。イリスしゃまが側にいると、落ち着きます。聖女のデリリラちゃまのことは、人魚も知ってるです。それで……勇者しゃまは、みなさんのだいじなひと?」
「最愛の方です」
「ほっとけない生徒みたいなものだね」
「ではでは、では」
ちゃぷ、と、水を蹴って、ソーニアが僕の近くにやってくる。
「ソーニアは勇者ちゃまに……忠誠をお誓いするでしゅ」
「忠誠は誓わなくていいよ。僕はただ、君たちの住むエリアで、なにが起こってるのか知りたいんだ」
「お心のままでしゅ」
ソーニアは身を引いて、ぱしゃん、と、尻尾で水面を叩いて、一礼。
それから目を閉じて、ゆっくりと話し始めた。
────────────
人魚が海岸沿いに住む亜人だというのは、聖女さまが言ってた通り。
そしてソーニアたちの住処が『呪われた地』の近くだというのも、予想通りだった。
「ソーニアたちは代々、楽しく歌って踊ることで、呪いを浄化してきたでしゅ」
その場所がいつ『呪われた地』になったのかは、人魚たちも知らない。
ただ、言い伝えがあった。
──昔、大地に住む竜に対して、人間の王がとても大きな罪を犯したこと。
──死した竜は、その罪に対してすさまじい怒りを発していたこと。
──その怒りは竜が死しても、長い時を経てもおさまらず──
──その地に近づく者の精神を、不安定にしてしまうのだという。
「人魚には『呪い』は効かないのでしゅ。あんまり悩まない種族なので」
「悩まない?」
「はい。命に関わるものでなければ、嫌なことは3日くらいで忘れてしまうので」
「じゃあ、命に関わることは?」
「対処するでしゅ。それで駄目なら、あきらめて逃げるでしゅ」
「「「……なるほど」」」
それは、海で自由に生きる種族だから出来る生き方なんだろうけど。
人魚は文明も、家さえも持ってないから。
人間が同じことしたら、後が面倒だからなぁ……でも……いいな。そういう生き方も。
「そんな人魚の住処に……恐い人が来た……でしゅ」
ソーニアは続きを話しはじめた。
────────────
数週間前、人魚の領域に船がやってきた。
船には船員の他に、2人の人間──剣士と魔法使いが乗っていた。
2人は人魚たちに向かって、こんなことを宣言した。
「この地を開くときが来た。呪いに対抗できる人材を見つけ出し、古の誓いを果たす」
──と。
そうして彼らは、人魚たちを攻撃しはじめた。
人魚たちには戦闘能力はない。せいぜい『浄化』効果を持つ歌を歌うくらい。
なのに人間たちは、衝撃波を飛ばす剣と、巨大な使い魔で人魚たちを追い立てた。
それからどうなったのか……ソーニアも、よく覚えていないという。
彼女は必死で秘密の脱出路──地下水脈に逃げ込んだ。
一緒に『ホーンドサーペント』がいたのは、そいつらが剣士と魔法使いに倒されていたから。
地下水脈の流れは速く、何度か岩にぶつかったソーニアは、そのまま意識を失った。
そうして気づいたら、聖女さまの迷宮にいたのだという。
────────────
「……すごく怖かったでしゅ。船に乗ってた人の目が……まるで、なにも見ていないような……ソーニアたちのことを、亜人でも魔物でもなくて……まるで海に浮かぶ、邪魔な流木みたいに……魔法を放って、おっきな魔物を、使って……」
プールが、ちゃぷ、と波打つ。
人魚のソーニアの身体が、がたがたと震えてるからだ。
それだけ怖い目にあったんだろうな。
「一番こわいのは、なんであんなことをするのかわからないことでしゅ。人魚は……あの地を浄化するもので……ただ、それが楽しくてやってるだけなのでしゅ。それが嫌になった人魚は遠くに行くです。人間を襲うことも、嫌うこともなかったのに……なんで」
「……ソーニアさま」
「勇者しゃまのお仲間が助けてくれなかったら……
ソーニアは手を伸ばして、僕のズボンの裾を、ぎゅ、とつかんだ。
「ありがとうございました……勇者、しゃま」
「僕の方も、怖いこと、思い出させてごめんな」
まったく──獣人の村を襲った『賢者ゴブリン』のときもそうだったけど、この世界にはどうしていらんことする奴がいるんだろうな。
人魚さんたちは『呪われた地』を浄化しつづけた。
漁師さんが取引してたっていうから、その地はそこそこ人が入れるくらいにきれいにはなってたんだろう。
それを『新人研修』の人たちがだいなしにした。
研修を受けた人たちがおかしくなってるのは、つまりは、そういうことなんだろうな。
「……なんでそんなことするのかなぁ。デリリラさんは、さっぱり理解できないよ」
「イリスもです。『新人研修』したいなら、誰もいないところでするべきでしょうに」
「僕も同感だよ」
「で、ナギくんは、ソーニアちゃんのお話を聞いて、どう分析したのかな?」
「……そうですね」
ソーニアの話から推測すると……。
「つまり人魚さんたちは古の呪いを浄化するためにあの領域に住んでいた。その呪いというのは、地にすまう竜……つまり『地竜』の呪いである可能性が高い。人魚さんたちを追い出したのはたぶん異能の力を持つ者。背後にヒルムト侯爵って貴族がいるなら『来訪者』かもしれない。
彼らはそこで『新人研修』をやっている。目的は『呪い』の抵抗力がある人材を見つけ出すこと。そうして奴らは『呪い』の源である、『魔竜のダンジョン』を探し出そうとしている、ということか。『来訪者』の『勇者クエスト』ってそういうものだからね。侯爵は、それに協力している……いや、即断は禁物だな。もっと情報を……」
「勇者しゃま、わかるのが早すぎでしゅ!」
前もって調査もしておいたからね。『新人研修』をしているのが誰なのかはわかってる。
その人たちが人をどう扱ってるかは、僕とレティシアとカトラス、それにラフィリアも体験した。
そして『新人研修』の目的は人を育てることなんかじゃなくて、『呪い』という超絶ブラックな環境に耐えられる人材を見つけ出すこと、ってことか。
『呪い』を無効化できる人材は少ない。
うちのパーティでも、耐性を持つのは僕とセシル、リタ、アイネ、イリスくらいだ。
もちろんそんな『呪われた地』なんかに近寄りたくはない。でも……このまま放置しとくのもやばい気がする。
それに、人魚さんを元の海に戻してあげたいとも思うんだ。
こんなブラックな世界だからこそ、のんきに歌って笑ってる種族がいてもいいじゃないか。
「ま、どのみち『魔竜のダンジョン』の探索には行くつもりだったからな」
僕たちは海竜と天竜に深く関わってる。
魔竜──地竜というものがいるなら、それがどんなものなのか確かめておきたい。
僕は『
「聖女さま。質問、いいですか?」
「なにかな、ナギくん」
「『新人研修』を受けてる人たちがおとなしく従ってるのは、『呪われた地』のせいで、精神的に不安定になってるから、ってことですよね」
「うん。デリリラさんはそう考えてるよ」
ゴーストの聖女さまはうなずいた。
「いわゆる「呪われた地」ってのは、巨大な存在の怒りや悲しみ──つまり、おっきな感情が残った場所だからね。どんなに強い人間だって、すぐそばで延々と怒ってる人間がいたら、精神的に不安定になるだろう? そういうことだよ」
「聖女さまの『浄化の
「そうだね。ただ、強い呪いの場合は、浄化には時間がかかるかもね。巨大な『神聖力』をぶつければ、一瞬でみんなを正気に戻せるけど、そんなことできる人がいるはずな──」
言いかけて、聖女さまは「はっ」、と、口を押さえた。
「──なーんて言わないもんねー。どーせデリリラさんがそう言った瞬間、いんちきご主人様のナギくんが『よし、あれを使おう』とか言うんだもんねー。ふーんだっ!」
「なんですねてるんですか聖女さま!?」
いや、確かに浄化の手段はあるけどさ。
言う前からすねないでください、聖女さま。
「となると、まずは『呪い』を弱めて、『研修』を受けてる人を正気に返す。あとは人魚の領地を襲った巨大な魔物をなんとかするくらいか。それについての情報はあるかな?」
「そうでしゅ……ね」
人魚のソーニアちゃんは首をかしげた。
「確か……『ヒュドラに「いんすぱいあ」された召喚獣』って言ってたでしゅ」
「……ヒュドラにインスパイア」
「……この前保養地を襲ったあのヒュドラでしょう」
「……んなもの参考にされても困るんだけどねぇ」
僕とイリス、聖女さまはため息をついた。
それから僕たちはソーニアから『インスパイア・ヒュドラ』の情報を聞いて。
ついでに現地の地形を確認して、作戦を立てて。
聖女さまから『呪い』の影響エリアを、しっかりと確かめて。
「これは聖女デリリラ依頼のクエストだと考えてくれたまえ」
聖女さまは、ぱちん、と手を打ち鳴らした。
「保養地を守るのはデリリラさんの「したいこと」だからね。報酬は──」
「あのあの。人魚には……隠れた秘宝があるでしゅ」
聖女さまの言葉を
「長老さまにお願いして……それを差し上げたいでしゅ」
「いいの?」
ちっちゃな子から報酬をもらうのは、なんだか悪い気がするんだけど。
「僕たちは『ホーンドサーペント』をたくさんもらえれば、それでいいんだけど」
「そうなんでしゅか?」
「うん。アイネが……僕のお姉ちゃんが欲しがってたからね。それにセシルも」
「「……あー」」
え、どしたのイリス。それに聖女さまも。
なんで2人して、なにかを察したような顔になってるの?
「わかったでしゅ。人魚の特産『ホーンドサーペント』を差し上げるでしゅ。でもでも、秘宝も受け取ってほしいのでしゅ。きっと勇者しゃまの役にたちますので」
「そうなの?」
「ええ、人魚は『働かない種族』でしゅから『
「……え」
「それは歌って遊んで生きる人魚にとって、お守りのようなものなのでしゅ。その秘宝があれば最低限、飢えることも、みなが生活できなくなることもないでしゅから。もしも勇者しゃまがソーニアたちの住処を取り返してくださるなら、差し上げましゅ」
「……おぉ」
変な声が出た。
知らないうちに、僕は心臓のあたりを押さえていた。
僕の究極の目的「働かないで生きるスキル」
そのヒントが、まさか、こんなところにあったなんて。
「そっか……人魚は働かないで生きるプロだから……」
なにも持たない代わりに、歌って踊って生きる種族。
彼女たちは「働かないで生きる」ことを目指す僕にとって、先輩のような存在だったんだ。
「……先輩、と呼んでもいいかな」
『勇者しゃまなにを言ってるでしゅか!?』
人魚のソーニアがびっくりしてる。
僕はプールサイドに膝をつき、彼女の小さな手を握る。
「とにかく『聖女さまクエスト』は受注するよ。僕たちにできる限りのことはするから」
「…………あぁ、勇者しゃま」
「迷惑な『新人研修』を止めて、巨大な魔物を追い払ってみせる。ついでに『呪い』の正体も見極めてみせるから」
やる気が出てきた。
怪しい『新人研修』も『魔竜のダンジョン』も通過地点だ。
究極の目的『働かないで生きる』ために、人魚さんたちを助けよう。
もちろん。無理せず。
みんなが怪我しないように、できる範囲で。
「ということで、情報は以上だよ」
僕はイリスに言葉を、『意識共有・改』で繋がったセシルとアイネにメッセージを送る。
返信はすぐに戻って来た。
みんなの意見は『人魚さん助けたい』で一致。
ソーニアに同情してるのは一緒だけど、メインの動機はそれぞれ違ってて──
リタとイリスは『(ちっちゃな子)(海の仲間)を助けたい』
セシルとアイネとレギィとフィーンは『「ホーンドサーペント」を入手したい。すごく元気になるから』
ラフィリアとレティシアとカトラスは『悪は許さん!』──だったけど。
────────────
それから僕たちは迷宮の入り口に戻って、作戦の最終確認をした。
今回はパーティを3組に分けることになった。
僕とセシル、リタは『呪い』の浄化と『魔竜のダンジョン』の位置の特定を。
アイネとイリスは、僕たちのバックアップを。
レティシアとラフィリアとカトラス(フィーン)は、呪いの範囲外で待機。クエスト開始と同時に騒ぎを起こして、人を引きつけてもらうことにした。
「レギィは、レティシアが預かってて。ラフィリアはシロをお願い」
僕はレティシアに魔剣レギィを、ラフィリアには『
「レギィにはレティシアの指示に従うように言ってある。『
「……ナギさんと一緒にいると、息するように『ちぃと能力』が増えていくような気がしますわ」
「気のせいだよ」
「それですまさないでくださいな!」
「それに、レティシアならレギィのとがった能力も使いこなせると思うから」
「……うー」
レティシアは魔剣レギィを手に、しばらく難しい顔をしていたけど。
「わかりましたわ。ナギさんの『
『仕方あるまい。主さまの命令とあれば、今回は貴族娘と共にあるとしよう』
フィギュアサイズのレギィが出てきて、レティシアの肩に乗った。
『いい機会じゃからの。こやつに「正しい女の子の在り方」について教授してやることとしようよ。ふふ、ふふふふ』
「だ、そうですわよ。ラフィリアさん」
「はい! それならあたしもレティシアさまとカトラスさまに、レギィさんの可愛いところをたっぷり教えてあげますよぅ!」
「楽しみであります!」
『お主らいつのまに
顔を見合わせて笑うレティシアとラフィリア、カトラス。
レギィは真っ赤になったほっぺたを押さえてもだえてる。
この調子なら、レギィもみんなの言うことを、ちゃんと聞いてくれるかな。
レティシアたちは『呪い』への耐性がないから、遠くから僕たちを支援してもらうことになる。
『呪い影響エリア』と『安全なエリア』については聖女さまに確認済みだ。
別々にクエストするのは心配だけど、ラフィリアとレギィには新スキルがある。それにカトラスの『伸縮槍』を組み合わせれば、大抵の敵には対抗できるからね。
「イリスとアイネは、僕たちが『浄化』をしてる間のバックアップを。『呪い』の影響が弱まったら──」
「わかっております。お兄ちゃん!」
水着姿のイリスは、濡れた髪を拭きながら声をあげた。
「作戦は承知しております! 『竜の血』が大覚醒したイリスにとって、『呪われた地』などどうってことありません!」
「いざとなったら海に逃げるから平気なの」
「アイネさまおひとりくらいなら、イリスが引っ張って泳げましょう!」
イリスは「むん」とガッツポーズ。
アイネは相変わらず穏やかな表情だけど、目を見るとわかる。アイネ、すごくやる気になってる。
昔のことを思い出してるのかもしれない。
アイネは商業都市メテカルの『庶民ギルド』で自主的ブラック労働してたからね。無理矢理『新人研修』させられてる人たちに、自分を重ねてるのかもしれないな。
でも、ちっちゃな声で『ホーンドサーペント』『むじんとう』ってつぶやいてるのはなんでだろう。
「とにかくアイネもイリスも、無理はしないこと。危ないと思ったら、すぐにメッセージを送ること。いいね」
「「はい! なぁくん(お兄ちゃん)!!」」
そして、僕はセシルとリタと一緒に「大魔法」を使うことになるわけだど。
「2人とも、体調はどう?」
「大丈夫です。ナギさま。大魔法も無理なく使えそうです」
セシルは銀色の髪を揺らして、僕の隣にやってくる。
「実は……わたし、最近ナギさまの魔力が、身体をスムーズに通るようになりましたから」
「そうなの?」
「は、はい。その……」
セシルは
「わ、わたしの身体が……いろいろと、ナギさまに合わせて変わってきてるんじゃないかと思います……。この身に……ナ、ナギさまのっ、あか……ちゃん……が……なじめるように」
「…………わぅ」
ぱたぱた、ぱたぱた。
リタが音もなく、僕の背後に回り込んだ。
ぱたぱた、ぱたぱた。
揺れる尻尾が、僕の背中を撫でてる。振り返ると白い肌が、首筋まで真っ赤になってた。
「……あの、リタ」
「…………おんなじ」
「え?」
「私もセシルちゃんと、おんなじ! だ、だからぁ……」
…………うん。僕の魔力が通りやすくなったってことだね。
だったら、大丈夫かな。
「それじゃ言ってきます。ソーニアちゃんをお願いしますね。聖女さま」
「あのさ、ナギくん」
聖女さまは難しい顔で、迷宮の天井近くに浮かんでる。
「デリリラさんはゴーストとして存在し続けて、魔族の都を探すつもりだったんだけど……君たちを見てたら……なんだか考えが変わってきたよ」
「そうなんですか?」
「……がんばって生まれ変わっちゃおうかなぁ。それでナギくんに引き取ってもらって、君んちの子になるとか」
「いいですね。楽しそうです」
「即答!?」
「え? だって、そうすれば僕たちも、ずっと聖女さまと一緒にいられるじゃないですか」
元々、僕たちは主従契約込み(例外あり)で、それぞれ異種族の、変なパーティだからね。
来訪者に魔族に獣人に、貴族にお姉ちゃん、竜の血脈に古代エルフのレプリカ、王家の隠された姫君。魔剣に天竜の幼生体。
身内に「聖女さまの転生体」がいても別にいいんじゃないかな。
「そういう場合ってどうなるんですかね? 聖女さまがどこかの子に生まれ変わって、そのあと僕が引き取るという流れかな? でも、聖女さまですから、母親になる子に『お告げ』とかしそうですよね。そのときに、僕んちの子になるという
「……ぷっ」
聖女さまが噴き出した。
あれ?
「もーっ! かなわないよーっ! ナギくんってば! もーもーもーっ!!」
「あの、聖女さま?」
「いいから! なにかあったらデリリラさんが助けるから! 君たちはクエストに行っちゃえ!」
なんで笑いながらキレてるんですか聖女さま。
「この話はあとでね! とにかく、ソーニアちゃんの面倒はデリリラさんが見てるから、君たちは気をつけて行ってきて。無理だと思ったら帰ってきて……って、これは言うまでもないか」
「わかりました」
僕は手を伸ばして、空中の聖女さまと握手。
「『聖女さまクエスト』、安全第一で行ってきます」
そうして僕たちは聖女さまに手を振って、『聖女さまクエスト』に出発したのだった。
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