第64話「拠点攻略はめんどくさいので、こっそり全力を出してみた」

 ダンジョン攻略の数日後、イリスがうちに来た。


「遊びにきました」


 イリスはおつきの人を20人従えてきた。彼らはお土産に持って来た魚と料理酒が入った箱をリビングにおいて、すぐに下がった。最低限のメイドさんを残して、お隣に帰っていく。


 それを見届けたイリスは、疲れた顔で椅子に腰を下ろした。


 すかさず、流れるような動作で、アイネがお茶を差し出す。


 お土産の箱を見たアイネは「お礼にお昼を食べていってくださいなの」と、言って台所に戻っていく。向こうからはパンの焼けるにおいがする。ラフィリアのいい仕事だ。


「……はぁ」


 イリスは「ちらっ」とこっちを見てから、ため息をついた。


 疲れてるなー。


 祭りを明後日あさってに控えて、またなにかあったのか。


「セシル」


「はい。ナギさま」


「こっちおいで」


 エプロン姿で廊下に立っていたセシルを手招きする。


 ととと、と、やってきたセシルは、僕の後ろに立った。


 儀式や魔法についての話なら、セシルにも聞いてもらった方がいい。


 リタは……。


 ささささっ、ちらっ。


 ささささっ、ちらっ。


 モップ片手に廊下を往復しながら、こっちを見てる。


 手招きすると「わぅっ」って、逃げてく。『魂約』してから、照れまくって近づいてこないんだよな。リタのことだから、そのうち元に戻ると思うけど。


「侯爵令嬢エテリナ=ハースブルクの居場所がわかりました」


 ハチミツ入りのお茶を一口すすってから、イリスは話し始めた。


「非公開情報ですが、昨日から正規兵と戦闘中です」


「でも……町はいつもどおりだよね」


「人々の知らないところで戦っていますから」


「どこかの砦でも占拠してるのか?」


「どうしてそう思われるのですか?」


「昨日から戦闘中、ってところから」


 エテリナ=ハースブルクのスペックは知らないけど、正規兵の集団相手に一日ぶっ通しで個人戦をやれるとは思えない。ってことは『神命騎士団』が一緒にいるはず。で、イルガファ領主家の兵団は100人以上。正面からぶつかったら、すぐに決着がつくはず。


 でも、まだ戦闘中ってことは、正面からの戦闘にはなってないってことだ。逃げながら戦ってるか、あるいはどこかにこもって戦ってるか。


 で、一日中、追撃戦をやってたら、町の噂くらいにはなるはず。


 だから、遠くの砦にでもこもって、籠城戦ろうじょうせんでもやってるんじゃないかって思ったんだ。


「見事な推理です」


 イリスはティーカップを手に、軽くうなずいた。


「エテリナ=ハースブルクとその一味は、小島にある館を占拠して、正規兵たちと攻防戦を繰り広げています」


「小島の館?」


「イルガファ領主家の別宅です。岩山のような小島に建てられた石造りの建物で、館をかこむ城壁まで備えています。領主が非常時に兵士と一緒にたてこもったり、一人で考え事をしたりするのに使われていたそうです」


「なるほど」


「まぁここ十数年は、おじいさまが愛人を隠すのに使っていたそうですけど」


「そこまでぶっちゃけた話は聞きたくなかったけど、そんな場所がどうして侯爵令嬢の手に?」


「お兄さまが場所を伝え、鍵も渡してたそうです。いざという時の逃避行のために」


「……あちゃー」


「ソウマさまはいつも、イリスの気持ちにぴったりの言葉を教えてくださいますね。そうです……イリスも『あちゃー』って気分です」


 そんなわけで、僕もイリスも、セシルも一緒に『あちゃー』って、額を押さえた。


「ですが、この件でソウマさまたちをわずらわせるわけにはまいりません。ええ、まいりませんとも」


「攻城戦じゃ、僕たちに手は出せないからね」


「それもあるのですが、正規兵の隊長が燃えているのです『我々の名誉回復のためにも、全力で戦い抜くのだ』と」


「あのノリのいい角カブトのひと?」


「はい。彼のおかげで正規兵は盛り上がっています。『海竜のお面で覚醒した我々の力を見せてやる!』と」


「覚醒したの?」


「さぁ。ただ、お面業者の売り上げは過去最高益を記録したそうです」


 僕たちのハッタリは、イルガファ経済にいい影響を与えたらしい。


 でも……そっか。侯爵令嬢と『神命騎士団』は、小島の館に立てこもってるのか。


「両親は一連の事件にショックを受けて、熱を出して倒れてしまいました。それでイリスが対策を取ることになったのです」


 大変だな……イリス。ちっちゃいのに。


「あとは小島の館を攻略するだけなのです。魔法使いを大量にやとって、いっきに攻め込むという手もあるのですが……」


「侯爵令嬢からは色々情報を引き出したいから、できれば生け捕りにしたいところだよな」


「はい。ですが、小島の館は緊急時にも使えるように頑丈にできていますから」


「手加減すれば時間がかかるし、敵に逃げられる可能性が高くなる。力ずくで攻めれば敵を皆殺しにしちゃうし、こっちに犠牲者が出るかもしれない。イリスとしては難しいところだよな」


「……さすがイリスの『たましいのお兄ちゃん』」


 イリスは目を丸くしてこっちを見てる。感心してるみたいだ。


 で、どうして君が「えっへん」って胸を張ってるのかな、セシル。


「あなたがたのご主人様には、イリスの心などまるはだかなのですね……」


 イリスは、僕の後ろに控えるセシルを見て、優しく微笑んだ。


「はい。ナギさまはいつもわたしのすべてを見抜いて、わたしの知らない新しいわたしを引き出してくださいます」


 なんか人聞きの悪いこと言われた。


「そういえばあなたと落ち着いてお話をするのははじめてでしたね。ナギさまの奴隷の……セシルさま」


「『さま』はいらないです。わたしはナギさまのものですから」


「……『ソウマさまのもの』……ですか」


 イリスはなにかを探るような目で、セシルをじっと見つめた。


 頭のてっぺんから爪先。胸と、頭の位置を確かめるように、何度も視線を往復させてる。


「セシル……さんは、ソウマさまのものになっているのでしょうか?」


「はい。わたしは身も心も魂もナギさまのものです」


「……なるほどなるほど。あなたのような方が、ソウマさまの好み……なのですね。すばらしいです」


 イリスはドレスの胸元を、ぽんぽーん、と叩いてから、ふふふーん、と笑った。


「さすがソウマさまはイリスが見込んだ方です。そしてセシルさまも、そのパートナーにふさわしいです。ソウマさまの左右・・には、セシルさまのような方がぴったりなのでしょうね」


「ナギさまわたしほめられました!?」


 セシルが目を輝かせて、僕の手を握った。


 そういえばイリスには、デミヒューマンへの偏見はないんだっけ。


「ええ、セシルさんのような方は、ソウマさまととてもお似合いです。ちょうどいいサイズです。ソウマさまがセシルさんのようなかたを寵愛ちょうあいされていることは、イリスにとっても希望となりえますから」


「…………おにあい。わたしとナギさまが……」


「そんなソウマさまをこれ以上、危ない目に遭わせるわけにはまいりません」


 あ、なんか企んでる。


 短いつきあいだけど、イリスの表情が読めるようになってきた。


 なんとなく僕と似てるんだよな、イリス。性格が、だけど。


「ですので、知恵だけをお借りできれば、と」


 やっぱりかー。


 イリスは手を叩いて、廊下に控えていたおつきの人を呼んだ。


 海竜の紋章をつけたメイド服の女性が、一枚の地図を持って来る。イリスはそれをテーブルに広げた。


 海の真ん中に、ぽつん、と浮かんだ小島の地図だった。


「これが、侯爵令嬢が立てこもっている屋敷の図です」


 書かれている数字とか単位はこの世界のものだ。


 僕の世界のスケールに翻訳すると──


「島の広さは100メートルくらい。屋敷の四方に高さ5メートルの城壁。北側に船着き場。それ以外は切り立った絶壁か」


「海賊対策の拠点に使われていたこともあるので、見張り台もついています」


「これじゃ侯爵令嬢たちも逃げ場がないよな」


「こちらが街道を押さえたので、やむなく逃げ込んだようです。他の港町から援軍が来るのか、それとも隙を見て逃げようとしているのか、奥の手があるのか……」


 そこまでは読み切れない。


 イリスとしては『海竜の祭り』までにかたをつけたいところだろうな。


 僕の方も、さっさと侯爵令嬢を捕まえてもらって、来訪者かどうかをはっきりさせたい。バックに誰がいるのかも。


 僕とイリスの目的は一致してる。


 孤島攻略か……前にシミュレーションゲームを作ろうとしたときに、その手の戦術の本とかを読みあさったことがあるんだけど。難しいよな。


 ……手早く終わらせるには、チートな手を使わないと駄目かな……。


「あのさ、イリス」


「はい。ソウマさま」


「お兄さん……ノイエル=ハフェウメアはまだ、侯爵令嬢に未練があるのか?」


「毎日地下牢で名前を呼んでいます」


「侯爵令嬢の方はどうかな?」


「わかりません。けれど、指輪を捨ててますし、兄を放置しているところを見ると、とっくに『ぽーい』ではないかと」


「わからないよー、もしかしたら、あいしあってるかもしれないよー」


「どうして棒読みなのでしょう?」


「使えるものは使おう、ってこと」


 僕は小声で作戦を話した。


 話を聞いたイリスは、最初は驚いてたけど、すぐに目を輝かせてうなずきはじめ、最後は「にやり」って顔になる。好きだよね、悪だくみ。僕もだけどさ。


 そんなに難しい作戦じゃない。


 事件の原因になったイリスの兄さんにも、責任を取ってもらおうっていうだけだ。











「ははっ、人を支配するって楽しいよねーっ」


 館の庭で、侯爵令嬢エテリナ=ハースブルクは笑った。


 彼女の本名は、カタギリ=エリナ。異世界からやってきた『来訪者』だ。


 固有スキルは『魔器作成クラフトワーク


 道具に魔法を宿らせることで、インスタントな魔法のアイテムを作り出すことができる。


 今は小船に、風魔法をインストールしている最中だ。これで一時的にモーターボート並の速度がでるはず。あとは夜を待って、さっさと逃げ出せばいい。


「でも、この世界のひとって使えないよねー。さっすが未開人みかいじん


『神命騎士団』は全員、北壁の防御に当たっている。


 彼らは命令にはよく従う。エテリナの準備が済むまで、忠実に使命を果たそうとするはずだ。仮面による支配は想像力を奪うのが欠点だけれど、問題ない。足止めさえしてくれればいいのだから。できれば全員斬り込んで1人で10人くらい殺して欲しいんだけど、それは最後の手段。


「それにしても、どこがエラーだったのかなぁ?」


 計画に問題があったとは思えない。


 クエストの手順通りに侯爵家にもぐり込み、イルガファに派遣されたところまでは完璧だった。


 あの男ノイエル=ハフェウメアはちょろかった。妹へのコンプレックスを抱えていたのだろう。そのあたりを突いたら、簡単に自分の思い通りになった。もちろん、その他にも持てるものは全部使ったけれど。


『ノイエルさま。あなたは港町の領主で終わる器じゃありません』


『あなただけにしかない能力が、わたくしには見えます』


『わたくしの期待に応えてくださいますか、愛しい方』


 ──自分のセリフなのに、思い出すたびに笑いがこみ上げてくる。


 異世界から召喚された勇者が、未開人と恋なんかするもんか。


 元の世界でも、自分に釣り合う相手なんかいなかったのに。


 美しさには自信がある。気が強いせいで、あんまり言い寄られることはなかったけれど。


 カタギリ=エリナは23歳。職業は元会社員。現在は勇者。


 2年と少し前に、異世界召喚された女性だった。




「ズルをして大きな顔をしている町があるんだ。君ならどうすればいいかわかるだろう?」




 そう言ったのは、ある人の紹介で出会った『ギルドマスター』──今のエリナの雇い主。


 その人の言葉を聞いたエリナは、ふたつ返事でうなずいた。


 ズルをしている町とは、もちろん港町イルガファのことだ。


 その町は「海竜ケルカトル」というものと独自に契約をして、船を守ってもらっているらしい。


 それはズルだと、『ギルドマスター』は言った。




「がんばっている他の港町からすれば許せないことだ。自分だけ仕事を効率化して定時で帰る社員を、君は許せるかい? うまい方法があるなら、みんなにも教えるべきじゃないか? それができないのなら、みんなと同じように苦労するべきじゃないのかな?」


「当たり前じゃない。許せない。そんな町はこらしめないと!」




 さすが『ギルドマスター』だ。いいことを言う。


 まるで元の世界の上司みたいだ。


 定時で帰ろうとする同僚に「はぁ!? 自分の仕事が終わったからってなに!? みんな働いてるのが見えないの?」ってプレッシャーをかけてまわっていたエリナをほめてくれたあの上司。彼女を信頼して、たくさんの仕事を任せてくれた。


 エリナが仕事を辞めたのは──「正しい働き方」を教えてあげていた同僚が……いつの間にかいなくなった後だったような気がする。あのとき、なにがあったのかはよく覚えていないけど。


 その後、することがなくてぼーっとしていたら、異世界に召喚されたのだ。


 この世界の『ギルドマスター』は君の力が必要だ、と言ってくれた。認めてくれた。だからエリナはこのクエストのために『魔器作成クラフトワーク』で人をあやつる仮面を造った。


 未開人は、どうせ言ってもわからないから、仮面で強制的にあやつることにした。資金はある程度もらっていたから、人を雇うのは簡単だった。あとは『神命騎士団』を増やしていけばよかった。


 ひとを支配するのが楽しいってことが、あらためてわかった。


 みんな「正しい私」に従ってくれる。気持ちいい。ふふふ、ははは。


 どうして元の世界ではうまくいかなかったんだろう。きっと、仕事の内容が間違っていたんだね。その証拠にこの世界でのクエストは、全部うまくいっているんだから。


 今回のクエストの目的は『海竜の祭り』を潰すこと。


 それと、貴重なサンプルとして、イリス=ハフェウメアを連れ帰ること。そうそう、魔王対策の実験もしたっけ。ゴーレムの精製には成功したらしいから、成果の報告はしないとね。


 結局、この町をこらしめるのには失敗したけど、『ギルドマスター』はきっと許してくれる。


 この仕事は本当に楽しい。未開人は思い通りに踊ってくれる。好きに扱っても怒られない。エリナのスキルには誰も敵わない。


『神命騎士団』だって、従順な者だけを残した。他の者? クエストの途中で誰かが死ぬなんてよくあること。死んだ数なんか覚えてない。配下の未開人に区別なんかつけなくていい。区別をつける必要がないから仮面を作った。1号、2号、ブラスト1、キラキラ3──それでいいじゃない。どこがいけないの?


「魔力が残ってるなら魔法を、腕が動くなら弓を射なさい! ここを越えれば苦しくなくなります! 倒れてしまったら、今までの努力が無駄になるじゃない!」


 もうすぐ日が暮れる。夜になったら脱出だ。それで彼女の仕事は終わる。


『神命騎士団』には、動けなくなるまで戦い続けるように命令してある。


 彼らもきっと幸せだろう。正しい世界のいしずえになるんだから。


「エテリナさま。軍船が近づいてきます」


 見張り台に立った剣士が言った。


 館は石造りの城壁に囲まれている。その上にある見張り台には、壁沿いに上ることができる。エリナは階段を登り、見張り台の上に立った。ここから『神命騎士団』たちが、さっきまでイルガファの船に矢をいかけていたはずだ。今はそれが止んでいる。


 軍船のマストには黄色の旗が立っている。この世界では、休戦と交渉の呼びかけだっけ。


「えてりなああああああああああっ!」


 げぇっ。


 エリナは思わずのけぞった。


 さっきまで戦っていたイルガファ領主家の船。


 その後ろにもう一艘の船があり、甲板でノイエル=ハフェウメアが叫んでいた。


「えてりなあああああ! おれだあああああ。はなしをきいてくれえええ!」


「全員、待機してなさい。ただし、いつでも『飛翔斬』を使えるように」


 エリナの声に、『神命騎士団』たちがうなずく。


 彼らは『魔器作成クラフトワーク』で造られた銀色の仮面に支配されている。埋め込んだ『精神支配』の魔法が、彼らを催眠状態にしている。


 魔力は本人のものを使うから、仮面を着けている間は支配されっぱなしという優れものだ。


 それに比べれば、船の上で泣き叫んでるあの男の価値なんか、ミジンコ以下。


 未開人のくせに。役目は終わったのに、どうしてつきまとうの?


「話をさせてくれ! どうして俺を利用したのか、聞かせてくれ──っ!」


 ノイエル=ハフェウメアの後ろ、マストの陰から緑色の髪がのぞいてることに、エリナは気づいた。


 緑色の髪──イリス=ハフェウメアだ。なんてばかなんだろ。祭りの巫女が、こんなところに出てくるなんて。


 でも、利用価値はある。祭りの巫女を使えば、もっともーっとたくさんの人を支配できるかもしれない。


「私も、あなたをだますつもりはありませんでした!」


 エリナは城壁に立ち、声を張り上げた。


「これには深い理由があるんです……ノイエルさま。私の愛しいひと──っ」


「エテリナ──っ!」


 ああ、単純だなぁ。未開人。


 エリナもクエストを果たすために、自分が持つあらゆるものを使ったから、誤解するのも無理しょうがないのかもしれない。


「一時休戦といたしましょう。お話をさせてください。私たちの愛のために」


「わかった! おい、なにをしてる! さっさと船を島に寄せろ!」


 ノイエルのセリフに、兵士たちがうなずくのが見えた。


 陽は暮れかけている。甲板の上で魔法使いが『灯り』を唱えている。


 軍船から空中に『灯り』の魔法が浮かび上がる。3つ。


 エリナの未来を祝福するように、ゆらゆら揺れている。


「どうかお気をつけて、ノイエルさま。愛しています……」


 言いながら、小声でエリナは『神命騎士団』たちを集める。見張り台のまわりに全員集合。


 指示を出す。船が近づいてきたら『風撃拳』を使う。数人を残して、残りの『神命騎士団』すべてを飛ばす。強引に船に乗り込む。


 そのうち数人がイリス=ハフェウメアの元にたどりつけばいい。彼女を人質にして逃げよう。


 エリナは『神命騎士団』の数を数える。動けなくなった者を含めれば、20人。弾数としては十分だ。船がつけられるのはこの北側の岸壁だけ。あとの方角は切り立った崖だ。守りやすく攻めにくい。こんな場所の鍵をホイホイと渡すなんて、やっぱりこの世界の人間は未開人だ。


「でも……だったら」


 疑問は、ひとつだけ。


 どうして自分の作戦は失敗したのだろう──




「……………………しゃくねつをうがつかざんにもにて…………『ふぁいあぼーる』」




 首をかしげたエリナの耳に、小さな声が届いた。


 軍船とは反対側──南側からだ。


 思わず振り返った彼女の目に映ったのは──




 黒髪の少年とダークエルフらしい人影と、彼らを乗せた小さな舟と、


 視界すべてを覆うような、巨大な『火球ファイアボール』だった。




「──ひぃっ!?」




 直後、爆音とともに城壁が吹っ飛んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る