第27話「魔剣が意外と凶悪だったのでダウングレードしてみた」

 僕は手の中にある魔剣レギナブラス──宙に浮かぶ少女の本体を握りしめた。


 セシルたちと違って、こいつには遠慮する必要なんかなんにもない!


 一気に概念を入れ替えて、スキルを書き換えてやる!




(1)『人心支配LV8』(ロックスキル)


『心』を『自在』に『操る』スキル




 がつんっ!


『能力再構築』のウィンドウにレギナブラスのスキルが表示された瞬間、僕は文字に指をたたきつけた。


「は、はぅっ!」


 空中に浮かぶ少女レギナブラスの身体が、びくん、と、のけぞった。


 僕とアイネ、2人分の魔力が奴に流れ込んでいくのがわかる。


 そして僕の頭に入り込んでいた奴の魔力がゆるむ。


 よし、いける!


「な、なんじゃこれは。主様、この感覚は!?」


「……聞いて、アイネ」


 僕はレギナブラスを無視して、アイネの耳元にささやきかける。


「詳しい説明はあとでする。とにかく、僕は奴隷のスキルを書き換えることができるんだ。だから、魔剣の力を封印するために、アイネのスキルを使わせて」


「どうしてわざわざ断るの?」


 心底不思議そうに、アイネは僕を見た。


「なぁくんは自由にアイネを使っていいよ。痛くても、つらくても、お姉ちゃんにとってはごほうびなんだから」


「……えっと」


 やっぱり怖いです、お姉ちゃん。


 僕はアイネのスキルを表示させる。




(2)『ドブそうじLV9』


『汚れた水』を『掃除道具』で『押し流す』スキル




「アイネ、大丈夫?」


「…………………………………………ぜん…………ぜん…………へい、きっ」


 平気そうじゃなかった。


 アイネは僕を抱きしめたまま、目をぎゅ、と閉じてる。眉を寄せて、なにかをこらえるみたいに唇をかみしめてる。はぅはぅはぅ、って、熱い吐息が僕の耳をくすぐる。でも、アイネは震える声で、きっぱりと僕に告げる。


「…………いいの、つづけて。アイネは、なぁくん、に、えんりょ、されるほうが……やっ」


「わかった」


 僕は概念化したアイネのスキルを、ゆっくりと揺らしていく。


 レギナブラスの方は……遠慮しなくていいよな。


 こいつは僕を英雄なんかにしようとしたんだし。


「えい」


 僕はレギナブラスの中にある『人心支配LV8』の『心』を、押して引っ掻いて突っつく。


「──────ひぅっ! 待って、待って、主様、待って!」


 レギナブラスの顔が真っ赤になっていく。


「違う! 主様、こんなの──ちがっ、我は導くもので……こんなふうにあつかわれるものでは……は、ああ、なに、この感覚──!?」


「いつまでも人を見下ろしてないで降りてこい、魔剣!」


 僕はレギナブラスの概念を揺さぶり続ける。みっつの概念を、順番に。


「あ、あぅっ!」


 ぱしゃ


 浮かんでいられなくなったのか、レギナブラスの小さな身体が落ちて、温泉の流れの中に座り込む。


「なに、これ。こんな感覚は知らない! 主様の魔力が……我の深いところに入ってくる! じんじんする……ひびく……ひびく…………あ、はぅうううっ!」


 僕はレギナブラスに嫌なことを思い出させられたんだ……。


 ちょっとくらいは仕返しさせてもらう!


 こつん こつん こつん


 僕は『人心支配LV8』の文字を、人差し指で叩いた。


 そのたびにレギナブラスは胸と、脚の付け根を抑えてのけぞる。


「ひぅっ! や、はぁん! 待って! お願いだから待って、主様!」


 こつん こつこつ こつん!


「だめぇ! 剣を──剣をそんなに乱暴に扱ってはだめ…………響く…………あぅ。だめ、びりびりする。魔力が入って来るとこ──ちが────わかんない──もう、わかんない────だめ…………あ、あぅっ!」


 小さなレギナブラスは、びくん、びくん、と身体を痙攣けいれんさせながら、すがるように僕を見た。


「……レギナブラス。お前は、僕を支配するって言ったよな」


「それわぁ、われがぁ、そういう、もの、だから……あ」


「お前自身がそれを望んでるんじゃないのか?」


「……ち、ちがっ。剣は……道具で……機能を果たすことで喜びを感じるもの……人のかたちを取っているのも、より人間を知るための……もの。だけど人の少女のかたちをとった……われに…………こんな機能があるなんて知らな…………んくっ!」


 レギナブラスが這いずりながら、僕とアイネから逃げようとする。


 だけど、


「無駄だ。お前の本体はここにある!」


 僕は魔剣を握りしめ、レギナブラスの中にある『心』の文字を揺らしてやる。


「きゃうっ!」


 這って逃げようとしたレギナブラスの身体が、がくん、と、崩れ落ちる。


 まるで見えない鎖を引っ張られたみたいに。


 胸を押さえて、脚を必死に閉じようとしながら、転がる。


「……ひゃ、あ……なんで、逃げられない、のじゃ……」


『人心支配LV8』の文字が、がたがたに崩れ始める。


『心』はすっかりゆるくなって、今にもこぼれ落ちそうだ。


「……集中できない……主様を止められない………この感覚から……逃げられない。我は心の底で……服従ふくじゅうを望んでおるのか……?」


 ラグナブラスは、なにかを探すみたいに、空中に向かって手を伸ばす。


「あまたの王と寵姫ちょうきを導き……ずっと彼らを見ているだけだった我は、本当はこの感覚を求めていたと………………?」


 仰向けになったレギナブラスの身体。


 地面に、赤い髪が花のように広がる。


 湿ってぴったりと身体に張り付いた服。


「うそじゃ。我は異界の魔剣……こんなものを求めていたなど……うそ……うぁ、あ、や、あぁ!」


「我が奴隷、魔剣レギナブラスに問う」


「……なん、じゃ……ぬし……さま」


「そろそろ僕の心を支配するのをやめてくれないかな」


「……え……あ……え……なに……それ」


「いい加減にこれを終わらせたいんだけどさ、お前が僕を支配してるせいで、止められないみたいなんだ。だから」


 僕はレギナブラスのスキルの文字を、三つ同時にゆさぶった。


「あぅっ、あぁ!!」


 ぎゅ、と、レギナブラスが身体を丸める。


 うつろな目で、声をこらえるみたいに指をがり、と、かみしめてる。


「お前は僕に人を支配しろって言ったな。お前が僕にさせようとしたのはこういうことじゃないのか?」


「……ご、ごめんなさいなのじゃ…………しはいは……もう……してない……ぬしさまに……スキルはもう……つかいま……せん」


 レギナブラスのうつろな目から涙がこぼれた。


 ぱくぱくと口を開きながら、許しを請うように僕を見てる。


「…………もう、できない………………できないのじゃ。あたまのなか、まっしろで………………なにも…………できない…………ゆるして……ぬしさま」


「本当か?」


 ゆるゆるになった『心』を、僕は何度も揺らしていく。


 そのたびに僕とアイネの魔力を受けたラグナブラスは、身体を小さく震わせる。


「んっ、くっ。ほんとう、ほんとうじゃ、信じてください。ぬしさま、ぬし、さま……主様…………ぬしさまぁ……」


「……なぁくん。そういうの……よくない……の」


 こつん


 初めて見るむっとした顔で、アイネが僕の額に額を押しつけた。


「ほっとかれると、お姉ちゃんは不機嫌になるの。はじめたのなら……ちゃんと、最後まで……して」


 不意に、アイネが僕を押し倒した。


 ばしゃん


 僕たちは、魔力の泉が作り出す浅い流れの中に倒れ込む。


 左手は、レギナブラスを握ったまま。


 見えるのは天井と、アイネの顔だけ。


 赤くなって、熱にうかされたような目をして、口を半分開いて、


 僕を押し倒して抱きついてる。


「こうすれば、アイネの他はなんにも見えない。だから、続けて、なぁくん」


 ぎゅ、ぎゅぎゅ、ぎゅーっ


 何度も何度も何度も、僕がはい、って言うまで、胸を押しつけてくるアイネ。


「……つらかったら言ってよ、アイネ」


「やめないって……約束してくれるなら…………ね? なぁくん」


 とろん、とした顔のアイネに頷き返し、僕は『能力再構築』のウィンドウに手を伸ばす。


「…………なぁくん…………つづ……けて?」


「わかった」


 僕は『ドブそうじLV9』の『汚れた水』を軽く押してみる。


「…………んっ!」


 スキルの文字はまだ外れない。アイネにするのは初めてだからか、スキルが高レベルだからか、少し固い。


 つまんで、軽く引っ張ってみる。


「──あ、あああっ!!」


 僕の背中に回したアイネの指が、ぴくん、と硬直する。


 ぽた、と、黒い目の端から、涙が落ちてくる。


 強くしすぎたのかと思った。けど、


「なぁくん…………えんりょ……するのは………………だめぇ」


 アイネは駄々こねるみたいに首を振ってる。


「…………言った、もの……おねぇちゃんには……つらい、のも……はずかしいのだって……ごほうび。えんりょ……されるの……や。やさしすぎるの…………やぁ!」


「……うん」


 僕はアイネのスキルを二本の指でつまんで、引っ張った。


「──────ぁ!」


「だ、だいじょ──」


「らいじょぶ──らいじょぶって──ゆってる、の! つづけ──てぇ!」


 信じるしかないか。


 僕はアイネのスキルの概念を、指の腹で叩いていく。


『ドブそうじLV9』の文字が、少しずつゆるみはじめる。


「ひゃん! ふわ、あ、ああああああぅ。あう、ああ、んっ! 」


 ゆるみ始めた概念の隙間に指を突っ込んで、押し出す。


「────アイネの中になぁくんがいる。ふしぎ…………せつないのに……あったかい………………」


 僕を押し倒して抱きしめたまま、アイネの身体は小刻みに震えてる。


 身体の中にあるスキルとシンクロしてるみたいに。


 僕がここにいるのを確かめるみたいに、背中に、細い指をはわせてる。


「──なぁくん──なぁくん──ここに、いるよね──アイネをのこして、いなくなったりしない──よね?」


「いるよ。大丈夫」


「──しあわせ、なの。なぁくんを──かんじるから──いいの──ちゃんと──さいごまで──ああっ」


 スキルの概念が、はずれた。


 アイネの呼吸が荒くなってる。身体の動きがゆっくりになってる。限界が近づいてるんだ。


 終わらせよう。


 僕はアイネのスキルの概念と、レギナブラスのスキルの概念を入れ替える。


「うん──わかる──なぁくんがいる──わたしのなか──うれ──し────つらくて──せつなくて──っ!」


 アイネの身体がびくん、と跳ねて、力いっぱい僕を抱きしめる。


「…………こわい……あたま……まっしろで……われが、生まれ変わる…………かわっちゃう……んくっ、あ!」


 レギナブラスは声だけだけど、意識が飛びかけてるみたいだ。


 僕は入れ替えた概念を再確認。


 たぶん、これでいいはず!


「実行! 『能力再構築スキル・ストラクチャー』!!」


「なぁくん、なぁくん……なぁく────────────ん、ああっ!!」


 痛いくらいに僕を抱きしめるアイネ。


 しばらくして、その身体から、くたん、と力が抜けた。


「や──あ──こわれる────われがこわれる────まりょくが────余剰まりょくが────あふれ────あぁ────っ!」


 同時に、掴んだままの魔剣レギナブラスから魔力があふれ出す。


 それは光る粒子になって、魔力の温泉と一緒に流れていく。


 人の心を支配するために必要な魔力と、新しいスキルに必要な魔力は、違いすぎる。


 必要なくなった魔力を捨ててる──ってことらしい。


 身体を起こすと、少女レギナブラスの姿は消えていた。


 そして、魔剣はあっさりと僕の手から離れた。


 新しくなったレギナブラスのスキルは──




溶液生物スライム支配ブリンガーLV1』(USRウルトラスーパーレア:アイネ・レギナブラス)(ロックスキル)


『汚れた水』を『自在』に『操る』スキル。


 周囲にいるスライムを呼び集めて使役することができる。


 また、剣を触れさせることで、粘液や汚水を自在に集めたり散らしたりすることもできる。




『人心支配』が危険すぎるからダウングレードしてみたんだけど──


 ……使えるのかな、このスキル。


 あとは元々あったスキルがひとつ。




『自己再生LV8』(ロックスキル)


 折れても砕けても、1時間で元の状態に復元する。




 こっちの方が強そうだ。


 それと、アイネの中にあった『ドブそうじLV9』も変化した。




『記憶一掃LV1』(USR:アイネ・レギナブラス)


『心』を『掃除道具』で『押し流す』スキル


 ホウキやゾウキンで対象の顔をこすり、気絶させることができる。


 気絶後、十数分こすり続けることにより、対象の記憶を結晶体として抜き出すこともできる。




 これって……アルギス副司教が使ってたのと同じ奴か。


 向こうは杖でやってたけど、アイネは自力で使えるようになったってことかな。


 それにしても、これでスキルを十個以上『再構築』してるんだけど、いまだにお金と縁がないよね。


 本当にたどりつけるのかな。


 夢の、働かなくても生きられるスキル……。


「それじゃ、クエスト終了、っと」


 セシルとリタの身体も動くようになったみたいだ。


 ふたりとも……なんだか赤い顔してるけど、状態異常じゃなくなってる。


 レティシアは、地面にぺたん、と座り込んで、両手で顔を覆ってる。


 でも、大きく開いた指の間から、こっちを見てるのは、なんで?


 アイネは……


「……なぁくん」


 ぴたり


 突然、背中にやわらかいものが触れた。


 まだ、上着を着る前だったから、はっきりわかる。


 アイネ……服をまだ着てない?


「あ、そっか、濡れたままだと風邪ひくよね。僕の上着を使っていいから身体拭いて! そして服を着て!」


「あのね、なぁくんに『おさえこんだじょうよく』って、あるの?」


 アイネが耳元でささやく。


 押さえ込んだ情欲? さっき魔剣レギナブラスが言ってたやつか?


「な、ないよ。あれは魔剣の誤解。手にしたものみんなに言ってるんじゃないかな」


「……もし、あったら、言って欲しいの」


「ないって! 生きるのに必死でそれどころじゃない!」


「アイネ、相談に乗ってあげるの。なぁくんの役に立ちたいの。お姉ちゃんは、なぁくんにされるたいていのことはごほうびになるって覚醒したから。今日からは『新・アイネ=クルネット』だよ?」


「変な方向に覚醒しないでください」


「と、いうわけで」


 ぱっ


 と、アイネは僕の身体を放した。


 身支度を整えたセシルとリタが、こっちにくる。


「……お姉ちゃんはなぁくんを独り占めなんかしません」


 …………ってことらしい。


 なんだこの完全無欠のお姉ちゃん。


 僕は服を整えて、セシルにわかるように、鞘に収めた魔剣を掲げた。


「ありがとうございました、ナギさま」


 僕の前に立ったセシルは拍子抜けするくらいあっさりと、頭を下げた。


「屋敷に住んでた魔法使いさんも喜んでると思います。わたしのご主人様が、魔剣の継承者になったんですから」


「そっか」


 セシル、すっきりした顔してる。よかった。


 やっぱり気になってたのか。


 そうだよな。ご先祖様が召喚した魔剣がダンジョンをずっとうろついてるってのは、やっぱり気になるよな。


「じゃあ、これは屋敷の下に封印しよう。まぞ……じゃなかった、セシルの同族の人への、お供え物として」


 がたがたがたがたっ!


 鞘に収まったままの魔剣レギナブラスが震え出す。


 うっさい。温泉に漬けて放置されないだけありがたいと思え。


「それは、ナギさまが持っていてください」


 でも、セシルはとても優しい目で魔剣を見つめて、つぶやいた。


「『能力再構築』をされたってことは、その剣にはもう人を操る力はないんですよね? ナギさまなら、魔剣さんを優しいことに使ってくださると思います」


「いやでも、こいつ僕を支配しようとしたし、僕をブラックな支配者にしようとしたからなぁ」


「反省してますよね? レギナブラスさん?」


 がたがた びくびく


「あなたはそういう機能体で、自分の役目を果たすしかなかったんですよね? もう人を支配したりしないし、悪いことはしませんよね? 約束してくれますよね?」


 くいくい こくこく


 うなずくみたいに震えてる魔剣レギナブラス。


「そういうことです。それに、奴隷仲間が封印されちゃうのは、やっぱり気の毒ですし」


「僕としてはどっちでもいいんだけど……いや、待てよ。こいつ自己再生能力があるんだっけ。ってことは、武器代金の節約にはなるか。いくら折ってもがんがん折ってもべきばき折ってもすぐに元通り……」


『……ぬしさまぁ……』


「冗談だって」


 レギナブラスも僕の奴隷だってことは間違いないんだし、目の前で奴隷がひどい目に遭わされるのは、セシルたちだって見たくないだろうし……まぁ、本当にぶち折るくらいじゃないと命が危ないって時には、容赦なく使わせてもらうけど。


「ご主人様……」


 いきなりだった。


 服を直して、荷物をまとめたリタが、涙目で僕の前にやってきて、それから、


「お詫びをさせてください……さっきは申し訳ありませんでした、ご主人様」


 ゆっくりと、まるでなにかの儀式のように、僕の目の前にひざまづいた。


「あの程度のことで動揺してしまったこと、いざという時にお役に立てなかったこと……このリタ=メルフェウスの失態だもん……ごめんなさい、ナギぃ」


「別にいいってば、あんなの」


 もともとは魔剣の力を読み間違えた僕のミスでもあるんだし。


 でも、リタは獣耳をぺたん、と寝かせて、尻尾をしおしおと垂らして、涙目で僕を見上げてる。


「……おしおきしてください、ご主人様」


「またそれ!?」


「違うの! 前のとは違うの! 今度またああいうことがあっても動揺しないように、訓練しておきたいの。いざという時にナギの役に立てないのはやなの! それに……それにね」


 リタは胸の前で、両手の指をくねくねさせながら、


「私も、自分にとってなにが『ごほうび』になるのか、知っておきたいなって思ったの。今なら、そういうのがわかりそうな気がするの。私の『獣人としての本能』が覚醒するみたいなものね。だからね、ナギ……お願い……」


 ぴこぴこ、ぴこぴこ


 なにか夢見るみたいな目で僕を見てる獣耳の女の子。


「覚醒しなくていいよ。リタは今のままで」


「今のままでいいんだ……」


 いや、赤面されても。


「セシル。リタがちょっとおかしくなってる。セシルからもなにか言ってやってくれないか」


「え?」


 にこにこ にこにこ


 セシルはまるで天使のような笑顔を浮かべてる。


「リタの言ってることおかしいって思うよね? セシルならわかってくれるよね?」


「あ、はい。えっと……リタさん、ナギさまを困らせたらだめです」


 セシルは腰に手を当てて、リタの金色の髪を見下ろしながら、


「そういうことは……お部屋に帰って落ち着いてからにしましょう!」


「セシル!?」


「はい、ナギさま!」


 にこにこ ふわふわ


 銀色の髪を揺らして、セシルは笑う。


 まさか、とは思うけど。


「……もしかして、セシルも、自分にとっての『ごほうび』を知りたい、とか?」


「ナギさまはわたしのこと、なんでもわかっちゃうんですね……」


 ぽっ、と照れた顔で、セシルはほっぺたを押さえた。


 リタはおしおきを待つ子犬状態。


 服を着たアイネは静かに僕の指示を待ってるし……レティシアは、


「わ、わたくしはあなたの奴隷にはなりませんわよっ!」


 ……ぜんぜん頼りになりそうもない。


 どうしようこの状態。


 って、思った、その時だった。




 GI? GYAGYAGYA?




 魔力の泉に繋がる部屋の向こうで、ざらついた声がした。


 ……ゴブリンの声だ。騒ぎを聞きつけて様子を見にきたのか?


「話はあと! 全員、迎撃準備!」


 僕たちは、一瞬で戦闘態勢に移行。


 僕は内心、ゴブリンに向かって親指を立てる。


 魔物の出現をこんなにありがたいって思うことって、一生に二度とないんじゃないだろうか。


「リタとレティシアは前衛! アイネはサポートに回って。セシルは魔力が尽きてるから、僕の側にいて!」


 僕は魔剣レギナブラスを構えた。


 そして数十分後。


 ゴブリン(生き残りの1匹しかいなかった)を瞬殺した僕たちは、地上に戻った。


 クエスト終了だ。




 そういえばいつのまにか『能力再構築』がLV3になってました。


 なんだかんだで一番たくさん使ってるな、このスキル。



──────────────────

今回登場したスキル。


溶液生物スライム支配ブリンガーLV1』

 自分のまわり半径数十メートルにいるスライムを呼び寄せて使役する。

 高レベルのスライムにはレジストされることもあるが、低レベルのものなら確実に引き寄せることができる。ただし、ぬるぬるやってくるので集まるまで時間がかかるのが欠点。


『記憶一掃LV1』

 ホウキやゾウキンで顔をこすることで、敵をスタンさせることができる。

 拭き続けると記憶まで抜き取れてしまうという、かなり凶悪なスキルである。ただし念入りにこすらないといけないため、記憶の抜き取りには時間がかかる。また、高度なおそうじスキルも要求される。「まぁ、ここが汚れていましてよ。こんなのじゃ記憶は差し上げられません」という、小姑のような難儀なスキルでもあります。

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